寄生
二日後の朝。
腕試しの約束は、今日だ。
約束といっても、台所で一方的に言い渡されただけで、こっちに拒否権があった覚えはない。相手はSランクの大魔法使いだ。
この二日、寝る前に勝ち筋を考えてはみた。毎回、三つ目あたりで考えるのをやめた。
木戸を押すと、ソロンが庭で待っていた。
仏頂面のまま、こちらを見もしない。
「来たか」
「本当にやるんですか……」
「そうだ。準備運動はいい。殺す気で来い」
……いきなり物騒だな。
腕試しなんだから、もう少し前置きとかあるかと思ったんだけど。
「あの……お茶とか、出ないんですかね」
「茶か」
ソロンが、縁側の方へ指先を軽く振った。
置いてあった茶碗が、ふわりと浮き上がる。次の瞬間、湯気を引いて私の足元めがけて飛んできた。
地面で跳ねた茶が、脛にかかった。
「あっつ!? ちょ、今の完全に攻撃ですよね!?」
「茶は出した」
「脛で飲めってことですか!」
もう始まってるらしい。……殺す気で、と言ったな。
ポケットの中で、アルミ玉を握った。
バグ・スウォームを最大展開。千匹以上の羽音が、空を覆ってソロンを四方から包む。
ソロンが、指先を横に払った。それだけで風が起きて、羽音が散った。千匹が一瞬で四方に弾かれる。
……積み上げてきた最大火力が、二秒で崩された。あぁ……なるほど。私に稽古をつけてくれていた時は手を抜いてたんですね、腹立つ。
——いや、腹立ってる場合じゃない。
手のひらが、もう湿っている。
「次」
ソロンが短く言った。
次——と言われた瞬間、考える前に、手が動いていた。
バグ・スウォームを二つに割る。左は足元、右は横から。
——割れた。と思った瞬間、右の群れが左へ吸い寄せられた。
一つに戻った塊を、ソロンが風でまとめて散らした。
……なんで今、それを出した。
朝の練習で、まだ一度もまともに割れたことのない手だ。未完成のものを、よりによって本番に。
ソロンの目が、わずかに細くなった。
息も継がず、バグ・スウォームの千匹を急所一点に集中させる——ソロンが手のひらを一振り。風が、まとめて散らした。……もう無理じゃん。
もう一手、バグ・オイルを背後から。散った千匹を呼び戻して、正面から重ねる——ソロンが右手を落として土で油を呑み込み、左手を払って風で羽音を押し返した。同時だった。
……なんなんですか。
こちらの動きを読まれてる上に完全に封殺される。これがSランクの魔法使いの戦い方……。
指先が冷えていく。呼吸が浅くなっているのが自分でも分かった。止めれば相手が仕掛けてくるかもしれない。止まったら終わる気がして、手だけが動き続けている。
気づけば、また群れを割ろうとしていた。割れかけては寄り合い、一つに戻る。その度に、風に散らされた。
ソロンは、まだ一歩も動いていない。……でも、目つきが変わってる。
最初は眠たげだった目が、いつの間にか瞬きを忘れて、私の指先だけを追っていた。
稽古の時にも、小言の時にも、見たことのない目だ。
——その目が、怖い。味方の目だと頭では分かってる。なのに、首の後ろが、ぞわっとした。
次は何をすればいい。
「——お主。さっきから、群を二つに割ろうとしておるな」
……手癖まで読まれてる。
「氷の魔法があっただろう。二手にしたいなら、それを使え」
……あ。
同じ属性同士だから、寄るのか。火の玉が、火の玉を呼んでいた。
氷蜂なら、中身はバグ・スウォームと同じだ。手つきを変えなくていい。
左に、バグ・スウォーム。右に、フロスト・バグを展開した。
——寄らない。左は左、右は右のまま、動いた。
心臓が、跳ねた。これならいける!
左の火の玉で、退がる先を塞ぐ。同時に、右から氷を差し込む——
ソロンの手が、火の方へ動いた。
——氷が、その隙に、足元まで滑り込んだ。次の瞬間、ソロンが土を立ち上げて、押し潰した。
……届いた。一手だけ。
「……ほう」
二つに割っても、届いたところで潰される。
……クソ。バグ・ノイズで嫌がらせするか。
「……まだ。次は」
言いかけたソロンが、口を閉じた。顔を、森の方へ向ける。
「待て。……最近、大気が騒がしい」
肩で息をしながら、私もソロンの視線を追った。汗が額を伝う。
「大気……?」
「ふむ」
短い返事だった。でも、いつもと違う。ソロンの目が、明らかに森の奥を測っている。
庭の隅で日向ぼっこしていた鹿が、突然、耳をピンと立てた。森の方を見て、鋭く鼻を鳴らす。
ソロンが、鹿と同じ方を見た。
「……来る」
「何が?」
森の奥から、地響き。
木々が、根こそぎ薙ぎ倒される音。鳥が一斉に飛び立つ。
「グルオオオオオッ——!!」
獣の咆哮が、空気を裂いた。森から——巨大な熊が現れた。
立ち上がれば、家の屋根に届きそうな体躯。頭から突き出た、太い角。全身に赤い紋様。目が血のように赤い。爪は、鉄塊のように太い。
……は? なんで。こんなところまで魔物……!?
——息が、止まった。こんなのは、森の奥にいるはずだ。人の家の前まで降りてくる大きさじゃない。
「……腕試し、相手が増えたな」
「これってAランク級なんじゃ……」
「それ以上にも見えるな」
「増えたな、じゃないんですよ!!」
熊が、身を低くした。
次の瞬間、地を蹴って、真っ直ぐ私の方へ突っ込んでくる。
ソロンが動いた。
風で突進の軌道を逸らし、土を盛り上げて足を絡め取り、火で顔を撫でて牽制する。
大技じゃない。でも、組み合わせると逃げ場がない。全部が理屈で組まれていて、しかも一手一手が早い。
……いや、ソロン強すぎだろ。……あ。これが、万象。
世捨て人気取りの隠居おじさんだと思っててすみません。味方で良かったです。
……というか、Sランクの先生が本気出してる時点で、私の出番ある? ないでしょ。むしろ下手に動けば連携を崩す。動かないのも、立派な役割だ。これは怠慢じゃなく、極めて高度な戦術的判断。賢明な後衛とは、出るべき時まで決して焦らない者のことを——
「サボるな!」
「さ、サボってませんって! 戦力配分の最適化です!」
「……さっきは、手が尽きても止まらんかったな」
ソロンの目は、熊から離れない。
「あれだけ足掻いて、ようやく一つ通しただろう。——ここで出し惜しむな。本気を出せ」
「……はい」
手を構えた。バグ・スウォームで顔を包んで、視界を奪う。同時に、右からフロスト・バグを後ろ脚へ。——さっき覚えたばかりの、二手だ。
熊が体勢を崩した。ソロンがすかさず土で脚を固める。
その隙に、アルミ玉越しに術式を覗いた。
「先生、これ——鹿と同じ、後付けの術式です。でも、組み方が細かい……」
「ふむ。……元は熊だな。森の奥にいる個体を、ここまで作り変えている。念入りな後付けだ」
ソロンが、熊から目を離さないまま言った。
「お主は前に、こう言うたな。——後から押しつけられて、本人を苦しめているだけのものなら、外したい、と」
「はい……。え、まさかこれ相手にそれをしろと……?」
「庭の鹿を森へ返せば、出くわした冒険者が斬る。角も、目の色も、あのままだからな。——お主のしたことが正しかったとは、今も言わん」
「……分かってます」
「だが、あれの世話をしているうちに、一つ分かった。少なくとも、あの鹿については、お主の言った通りだったらしい。誰も襲わず、苦しまず、今は日向で腹を出して寝ておる」
ソロンの目が、初めて熊から離れて、こちらを向いた。
「あの魔物の殺意だけ抜け。体は残せ。鹿と同じでいい。——できるか」
……私は自分がしたことが正しかったのかどうか、ずっと分からないままだった。
詰めていた息が、勝手に抜けた。
「……やります」
声が、自分でも思っていたより、迷わず出ていた。
出してから、熊の方を見た。
鹿とは比べものにならない体に、さっき覗いた細かい術式がびっしり詰まっている。鹿の時でさえ、一本ずつ外すのが精一杯だった。あれが何本あるのか、見当もつかない。
……言っちゃったな。
奥歯を噛んで、アルミ玉を握り直した。
「ふん」
ソロンが、短く頷いた。
「では拘束する。お主は術式に潜る準備をしておけ」
「はい」
ソロンが拘束を試みた。土で熊の脚を固め、風で上体を押さえ、氷を脚へ重ねる。一度は完全に止まった。
……止まった——のに、数秒で熊が動き始めた。
「グルアアアッ!」
凍って裂けた脚の肉が、見る間に塞がっていく。塞がった脚が氷を割り、固めた土を蹴った。
ソロンが土を盛り直す。今度は、一呼吸ももたずに砕けた。
……あのソロンが、押し返されてる。
「……ふむ。思うたより速いな。このままでは、お主が術式に潜る数十秒が作れん」
「数十秒? ちょっと待って、数十秒じゃ術式を外せません!」
「……魔法で術式を外すことはできぬのか」
「え?」
ソロンが、視線だけこちらに寄越した。
「付与魔法だ。——強化だけが付与ではない。弱体化の付与をお主の魔法に乗せて、術式の中へ送り込め。外から削るのではなく、組まれた内側から崩すのだ」
「そんなことできるんですか!?」
「魔力で組まれた構造ならどこにでも入れる。術式だろうと、魔法障壁だろうと、潜り込む隙はある」
……今まで手動でやってたことを魔法に載せろと? 練習もなしに、実戦で?
「付与魔法の初歩は仕込んだはずだ。——やってみろ」
「無茶ぶりすぎる……」
熊がまた氷を割った。ソロンの土が、また盛り上がる。——保つのは、あと何秒だ。
……指先の感覚を、思い出す。術式に触れて、線を一本ずつ外していく、あの手つき。あれを、そのまま魔力に持たせる。
一度目は、形になる前に散った。指先の震えが、そのまま魔力に伝わっていた。——もう一度。
付与の魔力が、形を取った。
細い脚に、薄い羽。胴の先から、針みたいな口が一本突き出ている。指先ほどもない、頼りないのが一匹だけ。
……まるで、蚊だ。
それが、術式の隙間から、するりと内側へ潜り込んでいく。
「……なんかまた蟲みたいになりました」
「……もう驚かん」
ソロンが、呆れたように呟いた。
アルミ玉越しに、蚊の行き先を追う。握った玉が、手のひらの汗で滑る。
まず狙うのは、殺意の線じゃない。体を作り変えている方の線だ。
そこがほどければ、この馬鹿力も、傷の塞がる速さも落ちる。外からの拘束が、通るようになる。
蚊が、その線に取りついた。一本ほどく。すぐに自己修復が繋ぎ直す。繋ぎ直される前に、次をほどく。
熊の脚を包んだ土が、今度は砕けなかった。
「どうなっている」
「たぶん、うまくいってます」
……というか、あっさりすぎないか。
腕を焼いて、膝から落ちて、指先の感覚をなくしながら、一本ずつ外してきたあれは、何だったんだ。最初からこれで良かったじゃん。
……いや。一本ずつ外してきたからこそ、その手つきを魔法に持たせられたのか。
この技に名前をつけるとしたら——寄生蟲だろうか。
パラサイトが、内側から食い続けた。
熊の体が、震え始めた。術式の防御反応——パラサイトを排除しようとする抵抗だ。
「グオオオオオッ——!!」
固めた土が、内側から砕けた。熊が拘束を引きちぎって、こちらへ突っ込んでくる。
「アオイ、足元だ!」
反射的にフロスト・バグを呼んだ。氷の蜂が折り重なって、板になる。
突進が、それを砕いた。——でも、勢いは死んだ。熊が、前のめりに崩れる。
だが、すぐに前脚で地面を掻き、頭を持ち上げた。
「次。左へ下がれ」
左へ跳びながら、バグ・スウォームを熊の顔へ放つ。
……一人で戦う時より、頭の負担が軽い。
その間に、パラサイトを殺意の線へ向かわせる。
末端から一本、また一本。——私の指がやっていたことを、そのままなぞっている。
最後に、殺意の核へ食いついた。
熊の体から力が抜け、荒い息だけが残った。
抵抗が緩んだ隙に、ソロンが拘束を重ねる。風で上体を押さえ、土で脚を固め、氷で封じた。
今度は、熊は暴れなかった。
……止まった。でも、角も紋様も、あのままだ。
中がどうなったのか、この目で見ておきたい。
拘束された熊に、近づいた。
離れて覗いていた時は、蚊の周りを追うのが精一杯だった。
手のひらで、肌に触れる。
アルミ玉越しに、術式の全体が見える。
……巨大だ。視界の端まで、術式が走っている。鹿の時とは桁違い。
殺意の線は、もうない。赤い目は薄れているけれど、うっすらと赤みが残っていて、紋様はそのままだ。
……以前のトールと同じ。殺意は消えても、作り変えられた体は残る。
トールの時にも、見えていた領域だ。角を伸ばし、体を膨らませ、目を赤くしている、作り変えの方の術式。あの時は、核を消すだけで手一杯で、手が回らなかった。
——蚊は、まだそこにいる。
……このまま、最後までやらせてみるか。
蚊が、術式の中をゆっくり移動していく。太い線を辿って、繋ぎ目を探して、見つけたところに口を差し込む。
一つ、外れた。次を探しに行く。また、外れる。
角の付け根を支えていた線が、ほどけ始めた。
時間がかかった。額を汗が伝う。ソロンは何も言わず、拘束を保ったままでいる。
熊の体が、軋んだ。
突き出ていた角が、根元から縮んでいく。せり上がっていた背が下がる。鉄塊みたいだった爪が、短くなる。全身の赤い紋様が、毛の下へ沈んで、消えた。
最後に、目の赤が、すっと抜けた。
「戻った……」
そこにいたのは、森で見かけてもおかしくない大きさの、一頭の熊だった。
こちらを見ている。本来の動物の眼差し——疲れて、困惑している、ただの熊の目。
玉を握った指が、固まったまま開かない。
トールの顔が浮かんだ。——あの時見た線には、境目がなかった。
……送っていた魔力を、切る。中の蚊が、ほどけるように消えていくのが分かった。
ソロンが、手を下ろした。
脚を固めていた土が、ぼろりと崩れる。風が緩む。氷が水になって、地面に染みていった。
熊は、よろけながら立ち上がると、森の方を向いて、そのまま帰っていった。
「……行った」
「……角も、目の色も、消えたな」
「はい。全部、外せました」
緊張が切れた途端、私の膝から力が抜けた。
「……つっかれた」
「情けない。わたしの方が年寄りだぞ」
「都合のいい時だけ年寄りにならないでください」
ソロンは答えず、しばらく黙っていた。
それから、庭の隅へ歩いていった。
薬草の鉢の間で、いつもの鹿が首を上げる。ソロンが、その首に手を添えて、こちらへ連れてきた。
「……こいつも、頼めるか」
角は、依然として残っている。紋様も。あの時、殺意は消したけど、それ以外は元のままだ。
角も、目の色も、あのままだからな——さっきの先生の言葉が、今になって繋がった。戻せば、この鹿は森へ帰れる。
……熊にできたなら、こいつにもできる。
「……はい」
鹿の角に触れた。アルミ玉越しに見る。——予想通り、体を作り変えた術式が、そこにあった。
もう一度、蚊を組む。今度は、一度で形になった。
それを、作り変えの術式へ向かわせる。
ソロンが、鹿の首を押さえたまま、見守っている。
角が少しずつ縮む。紋様が薄くなっていく。薄く残っていた赤みも、目から完全に消えていく。
鹿は、痛がらない。皮膚に固まったかさぶたが、自然に剥がれていくみたいだった。
完全に元の姿——普通の鹿。短い角。紋様なし。優しい黒い目。
鹿が私を見て、それからソロンの方へ歩いていった。鼻先をソロンの胸に押しつけて、何度も擦りつける。
ソロンはしばらく黙って受けていたが、やがて一度だけ、首の毛を撫でた。
その手で、ソロンは鹿の背を森の方へ軽く押した。
鹿は、森へ駆けていった。振り返らない。葉擦れの音が遠ざかって、やがてそれも消えた。
鹿の消えた方を、ソロンはまだ見ていた。
「……よかったんですか。引き止めなくて」
「帰るべき場所に帰っただけだ。……だいたい、お主が勝手に押しつけていった鹿だろう」
その鹿が日向で腹を出して寝ているところまで、さっき私に話してたくせに。
「少しは寂しいんでしょ」
「…………」
返事はなかった。鹿が寝ていた日向の窪みを、ソロンが爪先で均した。
日が傾き始めた頃。
ソロンが縁側で茶を飲んでいる。湯気越しに、私を眺めていた。
ソロンが、もう一つの茶碗をこちらへ押しやった。
……反射で、身構えた。
「……腕試しの続き、やるんですか」
「その様で何ができる。飲め」
押しやられた茶碗は、今度はちゃんと手の届くところで止まっていた。
「……あの蟲。初めて組んだのだろう」
「はい、寄生蟲って名付けました」
「……お主、たまには『光の矢』とか『聖なる盾』とか、そういう煌びやかな名前を付けようと思わんのか」
「見た目が蟲な時点でそういうのは無理でしょう……。それに機能が分かりやすいのが一番じゃないですか。寄生蟲。強そうでしょ」
「その『寄生』というのが、完全に悪役なのだ。助けた熊も、恩人に蟲を送り込まれたと知ったら、また別の殺意に目覚めるぞ」
「その時は、また抜きます」
「……終わらんではないか」
ソロンが、茶碗を置いた。
「……お主の才能、魔法使いより魔法開発の方にあるのかもしれんな」
「勘弁してくださいよ、蟲の図鑑がこれ以上増えても、誰も喜びませんって」
ソロンが、急に咳き込んだ。
しばらく止まらず、口元を押さえた手を、そのまま袖で拭う。
……あれだけ土を掘り返したんだ。喉もやられる。
ソロンは何事もなかったように、茶碗を取り上げた。
頭の隅で、さっきの熊を反芻していた。組み方の癖が、鹿の時とは違う。しかも、街の近くに。
嫌な感じだ。
日が傾き切った頃、ソロンが立ち上がった。
「……バディの返事は、来たか」
「……明日、会う予定です」
予定というか、これから作る予定だ。
「ふむ。——腕は、見た。文句はない」
ソロンが、戸口の方へ一歩、体を向けた。
「……これで、寝つきも良い」
「……はい」
火と氷、二つの群れを別々に動かせた。
ずっとできなかったことが、先生の前でできた。熊相手にも、ちゃんと通じた。
今になって、口の端がじわじわ持ち上がってくる。
……地球じゃ、一匹も飛ばせないのに。
木戸を閉めて、坂を下りた。街の音が、また近づいてくる。
——私を止めるものは、もう何もない。




