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とある邪神の新婚旅行

混沌の神殿には3人の御使いがいる。

長女はおおらかで、時に厳しく、一部信者からは「ママ」と呼ばれるほど、愛されている。

確かにその物腰や胸部はそう呼ばれるにふさわしい。

彼女は神殿を取り仕切り、長く、信者達の拠り所となっていた。


次女は冷たい感じがするが、その実、姉にも劣らぬ世話焼きだ。

ただ、言葉を選ばぬその物言いに、大いに勘違いされ、落ち込む日も多い。

彼女は錬金と信者達の健康を考え、時に見送り、信者達からの尊敬を受けている。

しかして本人は「ツンデレ」と呼ばれることを、事の他嫌がっている。


長男はその容姿からは女性にしか見えない。朗らかで快活な様は、男の子のそれだが

道を踏み外しそうな信者が団結するなど、問題も多い。

なお、本人は遊び友達と思っている。

彼は信者の言葉を届け、神託を受け取る事が出来た。

今はまどろんでいる混沌ではあるが、ときおり言葉を発する。

意味が在るのか無いのか、不明な場合が多いが、彼にしか受け取れないそれは

神殿で最も重要な仕事だ。ちなみに彼は、神託のことを「寝言」と呼んで憚らない。


そんな神殿の日々は、数十年にも及んだ。

その昔、神殿が狂気に襲われ、多数の信者が死んだそれを、3姉弟は収めて退けた。

また、大神殿からの要請もあり、ここに神殿を運営する事を許されたのだ。

そしてその監督役として、ミニストレヤ()()()が頻繁に訪ねている。

その姿は変わらない。いつもの修道服。いつもの黒いベール。

神殿の一室、応接の間で4人は向かい合っていた。


「ナーシャ、ナータ、リョーシャ。元気そうで何よりです。日々の勤めは如何ですか?」


以前より柔らかくなったその物腰。彼女は3人に尋ねた。


「皆、善く御主の言葉を聞き、実践しています。とても嬉しい事です。」


ナーシャの笑顔がほころぶ。


「皆健康。生きるものも逝くものも、みな安らか。日々是好日。」


淡々と語るナータ。


「みんな元気だよ!みんなの声はちゃんと御主の下へ届いてる。でも最近、寝言が少なくなってきてるねー。そうだ!友達も仲良くしてくれて、僕うれしいよ!」


リョーシャが奔放に答える。


「そうですか。好い事です。ですがリョーシャ。奔放なのは貴方の性質、変われとは言いませんが不心得者が幾分多い様です。自重なさい。」


そう告げる彼女にリョーシャはむくれる。

ナーシャはころころと笑い、ミニストレアを見る。


「お姉さま。今日お越し頂いたのは、お願いがあるのです。」


「そろそろ皆落ち着いた。頃合。」


「友達とお別れは寂しいけど、戻らなきゃ。」


3人は告げる。

ミニストレアは無言のまま、3人を見つめているようだ。

そして深いため息を一つ。


「大神官様。リュウヘイ。そして貴方達も()()のですね。」


多くは語らないその声には、深い寂寥があった。

3人の言葉に彼女は頷いた。そしてベールを外す。そこにはうら若い娘の顔があった。

目じりを拭いながら3人に語る。

3人は彼女の元に近寄り、その手を取った。


「あの時から()()()()のです。お姉さま。お姉さまとの日々は、とても幸せでした。」


「お姉ぇ。お姉ぇは大事な人。寂しいのは解る。でも、必ず時は来る。」


()()()()()()は嫌いだから言うね?もう少し先になるけど姉さまとまた会えるよ?」

「知っています。知ってはいますが、それでも寂しいのです。皆、私を置いてゆく・・・。それが私の業・・・・・・。

ナーシャ。貴方は脇が甘い。不心得者は処しました。

ナータ。貴方はもっと物語を読んで、言葉を覚えなさい。

リョーシャ。いくら嫌いだからといえ、禁忌を破るのはいけません。私は大神の信者なのですよ?・・・・・ああ、近頃涙脆くなったのは、良い事なのでしょうね・・・。」


ぽたりぽたりと、4人の手に涙が落ちる。


「姉さまの涙は、暖かい。きっと()()()()()()のお気に入りになる。

役目は辛いけど、必ずそうなる。おんあるじが言ってる。これは神託、禁忌じゃない。」


リョーシャが神託を使い、慰める。

涙は溢れ出し、その顔をぬらす。口元はしかし綻んでいた。


「ありがとう・・・ありがとう、リョーシャ。神託まで使って、こんな私を気にかけてくれるのですね・・・・・・。」


ナーシャが言う。


「もう少しで、大神より神託が降ります。その時、あたし達は還ります。」


「後釜は皆大丈夫。教えられる事、伝える事はみな伝えた。」


「あとの事は姉さまにお願いする事になるんだけど、ごめんね。」


「・・・みんな・・・。」


ミニストレヤは泣きながら3人をかき抱いた。


「解りました。混沌の御使い様。後は万事、このミニストレヤにお任せください。皆様、ケイオス様とリュウヘイをよろしくお願いしますね。」


その声は事務的ながらも、慈愛と感謝に溢れていた。



◆◆◆◆◆



「だーりん。だーりん。今年も竜紅草がきれいに咲いたよ。」


漆黒の巨石の前、ケイオスは花を添えた。

割れたあとが残るそれは、さる神殿にあった賢者の石。だがその効能は失われている。

ただの漆黒の巨石。巨大な墓標。

彼女は巨石にもたれかかり、空を見上げる。


「だーりん。だーりん。今日は空が蒼いねぇ。お日様も気持ちいい。」


大きく伸びをして、巨石に頬を当て、眼を閉じる。

漆黒の首輪が巨石に当たり、こつりと音を立てた。

そこに3つの影。


()()()()()()()()()。」


「にい様、()()()くる。」


「僕らはおんあるじの元に戻るけどねー。」


3姉弟はケイオスの元に来ていた。

ケイオスはそのままに、3人に言う。


「そっか。だーりん、()()()()()のか。ふふ、覚えてないだろうけど、うれしいなぁ。」


姿勢はそのままに、その表情に笑みが浮かぶ。


「兄様を探しなさい。見つけたら、兄様に仕えなさい。」


「にい様、すごく頑張ってた。()()()には勿体無い。」


(あかし)は惹かれあうよ。その為の(あかし)だよ。がんばってね!」


ケイオスの笑顔から、涙が滴る。


「また、だーりんに会えるんだ・・・。だーりん。だーりん。・・・。」


さわ、と風が吹く。3人の姿は消え、墓石に抱きつくケイオスだけが残る。


「まだ始まったばかり・・・。だーりん。だーりん。僕、つらいよ・・・・・。」



◆◆◆◆◆



ある街で、男の子が生まれた。その子が5歳のとき、大賢者が彼の才能を認め、弟子とした。

大賢者にはなぜか首輪が、男の子には首に痣があった。


ある寒村に女の子が生まれた。その子が生まれてすぐ、首輪をつけた賢者がやってきた。

貧しい村人は彼女を売った。首の痣が呪われているとされたからだ。

その村人に支払われた金は冬を越せても余りある、十分な額だった。


ある貴族の家に子供が生まれた。男の子だった。しかしてその首にはぐるりと痣があった。

エルフの娘がやって来た。首輪が付いていた。貴族はエルフを側役としておいた。


ある森に狼の子が生まれた。オスだった。その首には不自然なほど白い毛があった。

エルフの娘がやってきて、その子供を連れ去った。


ある都市に男の子が生まれた。彼は類稀な才能を発揮し、人々から尊敬を受けた。

彼は何故か結婚せず、その90余年の生涯を閉じた。

彼には晩年に雇ったヘルパーの少女がいた。何故か首輪があった。


とある兵士がいた。彼は前線の衛生病院で死にかけていた。

最後に彼が見た景色は、首輪を付けた従軍看護婦の泣き顔だった。


その航宙士官は初めての船を任された。

サポートには最近開発された、人型有機ドロイドがついた。

少女型の有機ドロイドには、何の為か、漆黒の首輪が付いていた。


首輪を付けた少女の話は、伝説となり、悲恋の物語となり、首に痣のあるものを探すという。


人が銀河に散り別れ、その故郷は、今、閃光を発し、従えていた星を消し飛ばし

やがて暗く、冷えて、散った。



◆◆◆◆◆



神域に7つの存在が鎮座し、そのうち一つは巨大だった。それぞれの存在には小さな影があり対となって、そこに在った。

しかし1柱だけ、その姿がおぼろげな1柱だけ、3つの影を従えていた。

今それらの前に、二つの姿が有る。

共に手を繋ぐ二人は、男の子と、首輪を付けた銀髪の少女だった。

二人は真っ直ぐに巨人を見すえている。


「人の身で、良くぞここまで辿り着いた。渡り人。」


巨人の重い声が労う。


「私も嬉しく思うわ。渡り人。ケイオスも良くぞ辛酸辛苦を乗り越えました。おめでとう。」


巨人の影が、優しく労う。


「ふん。ようやくか。時間のかかることだ。」


「・・・・・・。恋人繋ぎ・・・嫉ましい・・・・・・。」


「お前は黙ってろよ。話が進まねぇんだよ」


「他の渡り人はすでに名を得て、動き出しているのに、なんとも悠長な事だな。」


1柱が感情を隠そうともせず、そうのたまう。

すると、おぼろげな姿の1柱に侍る3つの影は、口元に手を当て、含み笑う。


「眷属が我らを嗤うか。」


剣呑な波動があたりに満ちる。


「・・・うるさいねぇ。・・・眠れやしないじゃない・・・・・・。」


おぼろげな影から声がする。


「混沌の。眷属の躾がなっておらぬな。」


嗤われた1柱が、不快の波動を隠さずにいう。


「・・・うちの子達は良い子ばかり・・・。嗤われるはその短慮と知りなさい・・・・・・。」


その波動を諌める程に、侮蔑の波動が満ちてゆく。


「あいも変わらず、力だけは大神とかわらぬ。忌々しい。」


舌打ちと変わらぬ波動を向け、押し黙る。

巨人はその様を静観していたが、おもむろに言葉を発する。


「これより、神生の義を執り行う。渡り人、ケイオスにはその権利があり、義務がある。」


「異議なし」


6柱の声がそろう。


「渡り人。この世界の神には名がある。それを持って神格とし、伴侶を娶る。お前にはその権利があり、条件は整っている。」


両の腕を挙げ、巨人は言う。


「渡り人よ、ケイオスよ。お前達の名は、何とするか?」


そう告げられる。

彼とケイオスはそれぞれを見やり、微笑み、頷く。


「大神。私どもは恐れ多くも「混沌」を名乗りたく思います。」


彼は言う。ケイオスは頷く。

途端、場は混乱の波動が満ちる。

大神と当の混沌以外、困惑と憤怒の波動で満ち溢れている。


「鎮まれ。」


大神は言う。その波動は、場の乱れをかき消し、静謐が辺りを覆う。


「お前達には思うこともあろう。混沌はそれ一柱で神格を纏う特異な性質を持つ。だからとは言え、古の神格の一つを名乗るには、()()とも格が足りぬ。」


「私どもでは、荷が重いと?」


「そう言うことだ。」


「私ども()()でここに在られる5御柱と同等の権能は持っております。また、ケイオスは混沌の分け身。資質は十二分にございます。」


怒りの波動が、満ち満ちる。


「不遜も極めると、こうまで不快極まる物か。なんとも大言壮語を放つものよ。」


1柱が言う。


「言うに事欠いて、自らを()と呼ぶとは、いささか無礼が過ぎはせんか?」


別の1柱が諫言を述べる。

それぞれの神が、それぞれに不快を表明する中、3柱だけが押し黙っていた。

大神。混沌。そして愛の女神。

とうとう場は、二人を糾弾する場へと変わった。

それぞれがそれぞれに二人を罵る中、大神は呟く。


「この喧騒の中、身じろぎもせず笑うか・・・。言う事は本当かも知れぬが・・・しかし・・・。」


躊躇う大神。


「もはやこれまで。大神よ、この者と混沌を封印する裁可を賜りたく。」


1柱が大神に告げる。


「・・・・・・許可する。」


とうとう大神は言った。

それに慌てたのは愛の女神と、大神の影。


「お待ちを!大神様。」


2柱は懇願するが、皆は取り合わない。


「「「「この者達に封印を」」」」


宣言は成され、混沌のおぼろげな影が光に包まれる。

3つの影は慄き離れ、光は球となり、その形を小さくしていく。


「混沌は放埓すぎる。これより、混沌は我が管理する。」


大神の声が轟く。


「異議なし」


他の御柱の声が重なる。


「次はお前達の処遇だ。不遜なるもの。」


光球が落ち着き、脈動を始めたころ、1柱が言う。

()()は落ち着いて、大神達と対峙している。

焦ることなく、慌てることなく、淡々と皆を見やる。

愛の女神は思わず二人の前に顕れ、大神の影は、大神の前にふさがる。

そこに声が響く。


「凍れ」


2人と3柱を残し、時が止まったように、凍りつく。


「バカ息子。いつまであたしのダーリンを辱めるの?ダーリンもすこし性格が悪くなった?」


丸い光球と化した混沌の前に影が形を成し、長い黒髪、切れ長の目、豊満な体を白と黒の意匠を使ったドレスを纏った女性が、2人の前に近づく。その後ろを3人の眷属がつき従う。

愛の女神は眼を見開き、驚きを隠せずにいる。

大神は押し黙り、その影は困惑した風に大神を見上げる。


「久しく姿を成さないと思えば、これか。」


大神は厳かに、だが呆れたように、そう言う。


「女性の神格にしたの。それにこの姿はダーリンの理想にジャストフィットさせたのよ。ねえ、ダーリン。」


「俺の今の好みは、こういうのだ。」


そう言うと、ケイオスを抱き寄せる。

混沌はけらけらと口元に手を当て、笑う。


「やっぱりダーリンったら、性格が悪くなったわ。ひどぉい」


「妬かないのか?」


「妬くもんですか。ねえ、ナーシャ、ナータ、リョーシャ、ケイオス?」


「「「御主は変わった。佳い女は嫉妬しない」」」


3人は声をそろえる。


「あたしは混沌。混沌は僕。だーりんは僕。あたしはダーリン」


ケイオスは宣言する。


「億京の年月はあたしとだーりん(ダーリン)を強くした。だーりん(ダーリン)は凡百の渡り人とは違う。」


「そう言う事よ?バカ息子。前々から狙っていたようだけど、お見通しなのよ。」


混沌は二人の肩を抱いた。抱き寄せ、笑みを綻ばせ頬すりをする。


「どう言う事なの?!」


愛の女神は思わず叫ぶ。分けが解らない。そもそも何故自分は凍らされていないのか。

意図がわからない。


「ああ、アスティ?あなたバカ息子を唆したでしょ?ああ、怒ってはいないわ。怒るとしたらバカ息子の方よ。

貴方には()()()()()を知ってもらうわ。その上でお願いもあるのよ。」


「混沌よ。わたしには何が何だか・・・。」


最も混乱しているのは、大神に寄り添う影だった。


「気にしないで。アマツヒメノカミって長いわね。アマティって呼ぶわ。いいかしら?」


「それは光栄ですが、何か軽くないですか?それからバカ息子って・・・。」


あまりにもフランクなそれに、困惑が溢れる。頭の上にクエスチョンマークでも浮かんでいるかのようだ。

大神は頬杖を付き、ため息と共に言う。


「もともと混沌はこういう神格なのだ。まさか女性格を選ぶとは思わなかった。」


「お黙り。バカ息子。本当にし様が無い子。ダーリンまで封印する気だったなんて。そんなことしたら

あたし暴れるわよ。」


十二分に堪能したのか、二人から離れると腰に手を当て凄んでみせる。

傍から見ればただのポーズなのだが、アマティは慌てた。

姿を見せた時から、この女神はいろんな意味で危ないと思っていたからだ。


「お鎮まりください!混沌の女神様!」


思わず駆け寄ろうとするアマティを手で制し、あっけらかんとした顔でのたまう。


「アマティ落ち着いて。そんな事にならないから。そんな事、ダーリン達が許さないから。」


指差された二人は呆れたように同時に肩をすくめる。


「こっちに振るなよ。」「()()()がそんなことするわけない。」


2人のこれもまたフランクな物言いに、アマティの混乱は増していく。


「あら?ダーリンのいう事なら、あたし素直に聞くわ?。」


「笑うしかねぇな。」


「今のあたしは封印された哀れな神格。ダーリンの権能でどうにでもなってしまうの。ねえ、ダーリン

あたしを征服して?。」


手を組み、懇願するように上目使い、涙目で彼を見つめる。


「御主サマは相変わらず戯言がお好きなようで。」


彼はあさってを向き、感情のこもらない声で答える。


「もう!本気なのにぃ・・・。ねえ、ケイオス?」


「あたしも本気。征服して。もう居なくならないで。」


彼女は彼の手を取り、胸元に引き寄せ見上げる。


「茶番は楽しんだか?」


その言葉に。混沌の様子が一変する。


「お黙り。バカ息子。」


言葉は軽いが、その声音は凍りつき、重々しい。

顔を向けもせず、言い放つ。

大神はその言葉に、押し黙るしかなかった。

腰に手を当て、大神を見ようともせず、ただ2人だけを見る混沌。


「ねえダーリン。そもそも事の起こりは何だと思う?。」


「世界を励起させるためだろ?」


「建前はね。」


「おやめなさい!混沌!それ以上いけない!!」


紡がれようとする言葉を察したのか、愛の女神が割ってはいる。


「アスティ。貴方も同罪なのよ?共同正犯っていうの?知らないではすまないの。それにダーリンはもはや混沌を継ぐ者。知る必要が在るわ。」


その言葉に口を紡ぐしかなくなる。


「アマティ。貴方は何も、何一つ悪くない。むしろ被害者だわ。全てバカ息子のせい。」


事の次第を知るアマティはただ俯くだけだった。

混沌はアマティに近づき、そっと手を触れる。優しく、我が子の手を取るように。


「確かにこの世界には()()()()が必要だったの。それがアマティ、貴方よ。」


そう言うと、優しく、優しく抱擁する。


「この世界に界渡りをするためには、混沌の渦を通らなければならない。上位存在とて剥き身では混沌を渡れない。その為に殻が必要。」


「じゃあ、()()は・・・・・・。」


彼は大神を見やる。その姿に動じた様子は無い。

ただ肘をつき、皆を眺めている。

混沌はアマティを優しく放すと、2人の元に戻って大神を睨みつけ、言った。


「バカ息子が異界の姫を見初めたのが始まり。ダーリン以外の者は魂の殻にされたの。ダーリン?他の神が得意げに言うチートって言うのはね、混沌で擦り切れた魂を繕う為の()()に過ぎないのよ。

ダーリン以外は、ただの歯車でさえ無いの。消耗品だったわ。アマティが強く言わなければ、彼らは消えて散るだけの存在だったの。ダーリン?ケイオス?覚えておきなさい。」


顔だけ2人に向け、混沌は語る。


「そもそも混沌はね?神格を持っちゃいけないの。混沌は掻き回される。それは渦が中心を作らない様にするため。でも、バカ息子は禁忌を破った。見初めた姫の為に、()()()を呼んだ。」


大神を見上げ、睨みつける。

視線が合うが、2柱は動じる事は無かった。


「世界と世界は惹かれあっても、交わる事は無い。近づき離れるのが(ことわり)。それをバカ息子は世界を大義名分に、あたしに言ったわ。「世界に道を」って。

世界を繋ぐ為には渦が必要。渦を鋭く、他の世界に穿つの。その間に界渡りは行われる。

でもその後は?

核を持った混沌は?

渦の中心は?

世界を穿つまでに掻き回された混沌は?ダーリンに言った世界が安定して不安定っていうのは、界渡りが行われた後の反動。そしてあたしが活性化したせい。今この世界の核はあたし。」


大神は苦虫を噛み潰した顔をして、混沌を睨む。

それを見た混沌は笑みを浮かべる。


「そもそもあたしは存在する事に厭いていた。この世界はほどなく寿命を迎えると思っていたわ。なのに()()()()()()()()()()()()()って言う。もう大激怒よ。」


呆れたしぐさをしてみせる。大神は動じない。

その姿に混沌は侮蔑の笑みを見せ、鼻で笑う。


「じゃあ、俺は・・・?」


男の子は言う。答えは判っている。しかし、確かめずにはいられない。


「界渡りは、渦を穿つだけじゃダメなの。渡るための時間が入る。それがアンカーよ。()()()()()は何とかしろという。だから、アンカーは()()()()()()()。」


その告白に、彼は動じる事は無かった。

言われてもいたし予想はしていたからだ。永い永い年月は、彼に気づきを与えていた。

混沌を見ることなく、大神を見つめる彼。恨みも怒りもその目には無かった。


「つらつらと世界を見たわ。こんなし様もない話、どうでもよかった。だから選ぶ相手はどうでもいい者にしようと決めたの。

165億の人間をつぶさに見たわ。使えそうな魂もあったけど、一番目を引いたのは、一番最初に見たダーリンだった。みっともなく足掻き、苦しんでなお生に執着している。その未練がイメージにぴったりだった。

最後になって、皆にダーリンを切り捨てろと言われたけど、あたしがはじめて見初めた男なのよ?放すわけ無いじゃない。大事に()()()で包んで、この世界に呼んだわ。その魂をすり減らさず、無傷・・・とはいかなかったけど、他の才能ある凡百より、ダーリンの存在は強固なの。チート(パテ)を必要としないほどに。」


そして彼女は嘲笑の笑みを浮かべた。


「他の連中は、凡百を救世主に見立てて悦に入っていたけど、あたしには噴飯物だったわ。

そうしてあたしはダーリンとケイオスに試練を課した。あたしに近づく為。あたしに成る為。時間がかかるのは当然の事だわ。あたしがおとなしかったのはね。待っていたの。2人を。」


大神を見据え、腕を組み振り返りもせず2人に訊ねる。


「ねえダーリン。あたしの望みは何?」


「一つになることだったな。」


大神を見据え、視線はそのままに彼は答える。


「そう、ダーリンと一つになる事。ねえケイオス。あたしの望みは何?」


大神を見据え、彼に腕を絡ませ、彼女は言う。


「だーりんを産む事。あたしもだーりんを産みたい。」


「その為には核が必要。でも、混沌に核は必要ない。これを解決する方法が、一つだけあるの。

あたしが夢を見ればいいの。ダーリンと一緒にいられる素敵な夢。そもそもお前が色ボケしなければ、あたしは夢見るままに、世界は安定し、いずれ弾けていたわ。」


倦んだ様に、それぞれを見やる大神。

二の句を告げられぬほど、やり込められたのか、それとも、反撃を伺っているのか。

その態度と波動からは読み取れない。

アマティは青ざめ、震えて告げた。

大神からは、それしか方法がないと聞かされていたから。

自身もそれしかないと思っていたから。


「それではあたしは・・・・・・。」


「アマティ、あたしの可愛い娘。貴方を娶る方法は幾つか在ったの。穏便にね。ただ時間が掛かったの。双方の世界に負担がかからない方法は幾つか在った。それをこの色ボケ息子はあなたに早く会いたい一心でやらかしたのよ。

アスティ。あなたも善意とは言え、背中を押すような真似をするなんて。おかげで苦労させられたわ。」


彼女は俯き、何もいえなかった。


「でも感謝もしてる。ケイオスを酷い目にあわせたけど、彼女はすばらしい器に成長したわ。アスティ?貴方があたしに自覚を促さなければ、こうも事は進んでいなかった。」


腕を広げ、楽しげに手を叩き混沌は言う。


「さて。このままじゃ、混沌はさらに煮立つわ。あたしが起きている限り。そして、今の二人に、そのまま混沌は扱えない。あたしがいるから。だからケイオスが必要なの。あたしのこの体が必要なの。ダーリン。ケイオス。これからあたしは貴方達を産むわ。貴方達に、混沌に馴染ませる為。」


再び、2人を抱きしめる混沌。

力強く、優しく。


「そのような事が許されるとでも。」


低く苛立った波動を乗せ、大神がのたまう。


「バカ息子。許す許さないじゃないの。そもそもあたしがこうして在る事が問題なの。それをいまさら面子を気にするなんて、だからお前はバカなのよ?」


2人を抱きながら、顔を向け嘲る様に言う。


「あたしは二人を産んで、夢を見る。ケイオスと共に。ダーリンと一緒に。」


ほほをすり合わせ、幸せそうな顔は、険悪な雰囲気を忘れさせるほど。

それを見たアマティの心は、少しほぐれたようだ。


「でも()()()、貴方は封印されております。如何様な方法を?」


「アマティ、あたしの可愛い娘。混沌を封印する事は、世界を封印する事。そんな自殺行為出来る訳無い。神格のみを封印しようとしたようだけど、考えが浅くて嫌になるわ。ねえ、バカ息子。それにしてもあたしがまどろむにちょうどいい揺り籠が出来たわね。」


けらけらと笑う混沌に、大神は苛立つ様に言った。


「我が、我らがそれを許すとでも?。」


二人を放すと、表情を一変させ大神を睨む。


「黙れ、間抜け。」


混沌は冷たく言い放つ。

その物言いに大神は激怒した。その波動は神域を揺らし、2柱は思わず膝を着く。

2人は震えながらも持ちこたえ、混沌と大神から眼を離さない。


「バカな息子。原初の渦のひとつより一人生まれ、光を欲した哀れな息子。その気持ちは今ならわかる。でもね。」


混沌の波動が、神格が膨れ上がるが、その姿は変わらない。

否。

その周囲には不可視ながらも、何かが渦を巻いている。

空間が罅割れ、名状しがたい()()が見え隠れする。

大神は眼を見開き、2柱は怯え、ただ見守る。

3つの影は平伏し、ただただ震えている。

混沌は吼えた。


「誰が己の欲するままに振舞えと言った!!!己は世界の全てだと、誰が定義した!!!

この世界は()()()だ!!あたしが手を出さぬからと、傍若無人!もはや許さぬ!!!」


罅割れは広がり、名状しがたい()()が、その()()を伸ばす。

大神は混沌に向け右腕を突き出し、握りつぶす仕草をした。

混沌の周りは景色が歪み、名状しがたい()()は、押し戻される。

だが歪む空間のまわりに、()()()()を延ばす。

それはとぐろを巻き、大神に向かい伸びてゆく。

左手を突き出す大神。その前に輝く模様の壁が出来る。

()()がその壁に当たると、黒い粒を撒き散らしながら、その壁をじわりじわりと侵食する。

大神は吼える。混沌に無数無限の雷が降り注ぎ、原初の世界の光が降り注がれる。

()()は痺れ、焼かれながらも姿を消す事は無く、とうとう大神の腕を捕まえる。

壁を侵食している()()は、それを喰い破り、もう一つの腕を捕らえる。

両手を封じられ、大の字に広げられ吊られる神。


「愚か者に鉄槌を!!!」


再び吼える大神。それは怒りではなく、苦痛。初めて感じる魂からの激痛。

途端、大神は存在してから初めて、悲鳴を上げた。名状しがたい()()から流れ込むのは

生の混沌。存在をかき回され、如何なる感覚も、存在も解らなくなり、絶望すら希釈される。

そのくせ、激しい怒りは満ち、怨差が溢れ、後悔が止まらず、歓喜が鎮まらない。


「思い出しなさい。愚息。原初の頃、お前の感じていた全て。矮小な自分を!。」


その混沌に縋り寄る影。アマティが混沌に縋る。


「お鎮まりください!大神をお許しください!!」


「この程度じゃ、この愚物は判りはしないわ。原初に戻してやり直させようかしら。」


「お止めください!この方を奪わないで!!」


その言葉に、何かを感じた様にケイオスが言う。


あたし(こんとん)。もういい。」


「・・・・・・そうねぇ。アマティからそんな風に言われたら、止めるしかないわね。」


途端、()()は消滅し、大神は崩れ落ちる。そこに駆け寄るアマティ。

大神を抱きしめ、気遣い、泣きながら声をかけ続けている。


「ずいぶん甘いわね?あたし(ケイオス)


物言いに反して、優しい眼をする混沌。


「その気も無いのに。甘いのはあたし(こんとん)。」


泣きじゃくるアマティと茫然自失の大神を前に、1人と1柱は言う。


「さあ、お仕置きも済んだことだし、本題に入りましょうか。」


混沌は二人の前に向き合い、膝を突き抱きしめた。


「ダーリン、ケイオス。これから貴方達は私に入ってもらうわ。皆で溶け合いましょう?」


「ああ、ずいぶん待たせて悪かった。これからは永遠に一緒だ。」


言葉は短いが、しっかり混沌の眼を見て、彼は微笑みながら言う。


「これでもう、離れる事は無い。(こんとん)は本当にだーりんの妻になる。」


ただただ嬉しそうに、ケイオスは宣言する。

そうして彼とケイオスは浮かび上がり、光に包まれ胎児の姿勢をとる。

そのまま光球となり、混沌の腹部に吸い寄せられ、その中に消えていった。


「やっと・・・。やっとダーリンと一つになれた・・・・・・。」


その目より滂沱の涙があふれ出でる。

混沌は腹部にてを当て、言葉もなく、落涙する。

愛おしそうにその腹を撫でるその様は、まさに母のそれだった。

しばらくそうして、顔を上げると2柱に言った。


「アスティ、アマティ。これからこの体はただの孵卵器になるわ。()()()()()()()()()()()二人には面倒を見てもらいたいの。」


「あたしがそれを引き受けるとでも?」


憮然とするアスティ。

そんな彼女前に、混沌はけたけたと笑い、少し意地悪な顔で言う。


「アスティに贈る罰は、あたし達を守ること。あの間抜け達からね。」


立ち上がり、アスティに前に立つとその手を握る。


「それに貴方は、あたし達がどんなに恋焦がれていたか、知ってるはずよ?」


「それを言われちゃ、断りきれないじゃない。・・・・・・解ったわ。」


懇願を苦笑いで返すアスティ。

どのような事になろうと、そのつもりだったのだ。ただ、易々と請け負うのが癪なだけだった。


「いまからあの封印を揺り籠に眠る。間抜けたちには適当に封印されたとでも言っておいて。愚息。貴方もそう言えば皆信じるでしょ。」


「・・・・・・本気なんだな。本気で渡り人と一緒になるつもりなのだな。」


「当たり前でしょ?貴方がアマティを見初めたのと同じ。アマティを連れて来たのと同じ。あたしとダーリン達はもう永遠に一緒になるの。」


「その為にこれだけの事を・・・?」


心底呆れた風に、信じられないという風に、愛の女神は言う。


「そう、アスティ。コレだけの為。その為にあたしが変質するほど時間をかけた。あたしには世界に匹敵する大事な出来事。」


優しく腹部を撫で、満足げに微笑む。幾つかイレギュラーもあったものの、うまく事が進んだ。

そんな混沌にアマティが詰め寄る。

怒り半分、困惑半分と言った体だ。


「お気持ちは解ります。しかし、大神に対する仕打ちはあんまりです。」


半泣きで抗議するアマティ。それに困り顔で答える混沌。


「ごめんなさいとは言わないわ。でも、すこぉしだけ、アマティに悪いと思っているのは本当よ?だからあたしは()()()()()()()で済ませたんだし。」


持ち直した大神は、畏れを含ませながら、アマティに言う。


「本気なら、私は今頃混沌の渦の一つにすらなれなかった。この神域すら、飲み込んで。母の言は本当だ。」


「あたしの本気に対抗できるのは、ダーリンとアマティ、貴方達だけよ。貴方達だけは、あたしから()()()()()()()からね。他の有象無象の魂は、可哀想だけど()()()()()()

だけど、あたしとケイオスは一つになる。ダーリンの妻になる。手ごわいわよ。」


けらけらと笑い、いまだ納得の言ってない風のアマティを抱きしめ、その髪を撫でる。

彼女は最初の気持ちを維持できず、しまいには苦笑いで答えるしかなかった。

そんな混沌にアスティは問う。いくらよりしろとは言え、混沌は今や()()()()()。器など用意しても意味がなさそうに思えたからだ。


「混沌。貴方の器をケイオスが収めきるとは思えない。どうする気?」


アマティを抱いたまま、皆に言い聞かせるように、混沌は答えた。


「あたしはまどろむ。そして夢を見る。ケイオスと名を変え、夫の傍に侍ると言う夢をね。それが混沌を鎮める唯一の方法。

その為にケイオスに自我を持たせ、器を育てた。彼女(あたし)は期待に答える。」


「それではあなたやケイオスの意思はどうなるの?」


アスティは問う。混沌は答える。


「それはその時の夢次第よ。あたしはケイオス。ケイオスはあたし。最初からね。」


混沌は思う。さぞや不自由な事だろう。身が捩れるほど、もどかしいだろう。だが、それで良い。

そうでなければ、今と変わらない。混沌は凪ぎ、そしてたまに揺らぐ。それだけでよいのだ。

楽しげに手を打ち、混沌は期待に満ちた顔で光る封印を見やる。


「さあ、何時くらいに生もうかしら?人の子は十月十日だから・・・じゃ早すぎるわね。100年と十月・・・は長過ぎね。アスティはどう思う?」


「いくら嬉しいからといって、はしゃぎ過ぎよ?あなた。」


呆れたように、諦めたようにアスティは答える。ただ、その顔に険はない。

混沌は大いに笑い、そして告げる。


「じゃあ、これから眠るわ。誰にも邪魔させないで。お願いよ。特に愚息!。あたし達の()()を台無しにしない様、気を配りなさい!。」


「生々しすぎます!!」


混沌のあまりの言葉に、顔を赤く染め、アマティは言う。

当の混沌はただ微笑み、アマティに答える。


「ごめんなさい。でもね。ずっとずっとこの日を待っていたの。この時を望んでいたの。貴方達を見ていた時からね。

じゃあ、往くわ。」


異形3体が恭しく混沌の後を付いていく。

混沌は光球に近付くと手を触れた。


「融けよ。」


混沌のその言葉で、今まで凍っていた神々が動き出す。

そして混沌の姿は淡く朧になり、そして消えた。

3体は光球を支えると、アスティの元に行く。


「「「アスティ様。御主ともども、しばらくお世話になります」」」


「もう、解ったわよ・・・。大神よ。よろしいですか?」


「そうするよりあるまい。」


大神は大儀そうにそう言い、アマティを抱き寄せる。

ざわつく神々。封印は成されたのか、何が起こっているのか。それぞれが言い合い、神域に混乱の波動が満ちる

そうして場の困惑が最高点にあるとき、大神は告げた。


「混沌は()()()封じられた。不遜な者達は封じられた。これで終わりである。」

そう言い放った。


「アスティの()のそれは・・・?」


封印を司る神が問う。


「混沌である。愛の女神より慈悲をと願いがあった。せめてもの情けだ。」


「それでは・・・。」


「これで騒動は終わりだ。神生の儀は終わった。」


その言葉に騒ぎは収まり、神々は消えるように立ち去る。

最後に残るは大神とその妻。そして愛の女神達。


「「「大神よ。御主よりのお言葉を上奏したく。」」」


「・・・・・・述べよ。」


「「「世界は掻き回されてこそ。」」」


大神は壮大に溜め息をつき、その伴侶はそれに微笑んだ。



◆◆◆◆◆



それから神々には瞬き程度の、永い時間が過ぎた。

散った星は集まり、光を生み出し、星を従えてゆく。

そのうちの一つが命を産み、育み、実を成した時、神域での出来事。

幾たび目かに、神々がそろっている。今回は、新たな上位存在が芽吹いたという事で、皆、集ったのだ。


「ここに新たな存在が芽吹いた。」


「二つの存在に幸あらんことを。」


2柱の男女が並んでいる。付き従うは3人の子。寄り添うは愛の女神。

神々がそれぞれに祝福の言葉を授ける。

辺りは暖かい波動に満ち、皆、落ち着いている。


「それではお前達、お前達に名を授ける。」


大神は言った。辺りは鎮まり、次の言葉を待つ。


「これより混沌を名乗る事を赦す。是は定め。異論は認めぬ。」


途端、場は凍りついた。混沌の名乗り。しかも異論は認められない。どういうことだ?


()、ケイオスは混沌となった。これは変えられない。()は戻ってきたわ。皆、よろしくね。」


「俺は混沌の伴侶。2柱で一つの混沌。これで世界に矛盾はなくなるはず。そうでしょう?」


「ここに愛の女神アスティが宣言する。この2柱は正当なる存在。混沌より産み出て、あたしが育てた。」


「大神の伴侶、アマツヒメノカミが宣言します。この2柱はあたし共が祝福を授けたと。」


それぞれの絶対的とも言える物言いと宣言に、辺りに言葉はない。

その中で、絶叫に近い声で封印の神が言う。


「確かに混沌は封された!なのになぜここにいる!?」


途端、場は沸き立ち、それぞれがそれぞれに困惑と怒りを顕にする。


「僕はちゃんと封印され、眠っているわ。でも、一度形を成した混沌を御せるのは、混沌だけ。それだけの事よ?」


「大神よ!どういうことです?!」


「混沌は鎮まり、凪いでいる。むしろこの場のほうが荒れているくらいだ。そも封印の。自分の成した事が信じられぬと?」


「確かに成しました!成しましたが・・・。この場はどういう・・・。」


「では我らを信用できぬと?」


大神はそう威嚇するが、内心は冷や汗ものだ。強弁もここまで来るともはや言い掛かりもいい所だ。

だが、はったりが功を奏したのか多少の不満は残る物の、場は鎮まり安定した。


「是にて名付けを成すものとする。2柱には、混沌を御し、凪を安定させる事。これを使命とする。」


「謹んで承ります。大神よ。」


「大丈夫。混沌が荒れることは、僕と夫がいる限り、ないわ。」


そう言う2柱。しかして神々の1柱が問う。


「アスティよ。説明をしてもらえるか?」


「説明も何も、今この場、このままよ?混沌は我ら神々と同じ、2柱で一つの権能を司る。それだけの事。今までの混沌が不安定だっただけよ。」


アスティはこともなげに言う。アマティがそれに補強をする。


「夫は言いました。不安定な混沌を呼び起こした責を何としても償わねばと。我らはそれを成しただけです。」


その言葉にもはや場は何もいう事が出来なくなった。


「と、いうことね。もう、文句は言わせないわ。僕と夫は、混沌と成る。」


「俺とケイオスは、混沌と成る。」


「・・・・・・異議なし。」


少しの間をおいて、神々が承認する。


「新しい神よ。そなたの名は何とする?」


「僕が名づけて良い?良い名前があるの。」


「ケイオスに名づけられるなら、これほど嬉しい事はない。」


「あなたの名は”コルクルム”。ダーリン、コルクルム。僕の夫。」


そうして大神がいう。


「では混沌よ。その権能で混沌を統治するがよい。」


「承りました。」「もちろんよ。」


「では芽吹きと名付けはこれまでとする。」


大神は宣言する。神々はそれぞれの領域へと還ろうとする。

そして。


「じぁあ、あなた。行きましょうか?」


「そうだね、ケイオス。行こうか。」


「ケイオス!?コルクルム!?あなた達何言ってるの!?」


丸く収まりそうな場に投げられた小石に、アスティは悲鳴に近い言葉を上げる。


「何って、ねえ?」「そうだよな?」


3人の子らは二人の後につき、恭しく腰を曲げる。二人は手を繋ぎ、満面の笑みで皆に告げる。





「「これから新婚旅行に決まってる!」」





◆◆◆◆◆



場は沸き立つ。

世界はかき回される。

しかして混沌は凪いでいる。

なべて世界は、事も無し。

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