Hot Crossroads
土曜の昼、学校が早く終わったクミとエイミは渋谷の町をうろついていた。
とある試験に撃沈したクミは土曜にも関わらず落ち込んでおり、長い前髪で顔を隠しているせいでエイミにはクミの表情を伺い知る事ができなかった。
クミがやっとの事で言葉を発するも、それはエイミには理解不能な言葉だった。
「……dis……sapointed」
「え?なんて?」
「I……was……dissapointed」
「アイワザディッサプインティッ?」
「そう」
「どういう意味?」
「失望したって意味よ」
「何に?っていうか日本語でおk」
クミはやっとの事で顔を上げたかとおもうと、ガニ股で両手を開いて叫びだした。
「この『英語クイーン』と呼ばれたクミ様が、TOEICで500点しか取れないという事実によ!」
大げさなクミとは対照的に、エイミは冷静な顔で言った。
「そりゃ、三流高校でクラスの一番でもねぇ。世界は広いって事でしょ」
「簡単に言ってくれるわね。今までクラスメイトに散々もてはやされて調子乗った結果がこれよ。所詮 the frog in the well does not know the ocean だったのね」
「だから日本語で喋りなさいっての」
必ずしも英語力がテストの点数とは関係ないはずだが、試験に追われた高校生であれば点数に一喜一憂するのも無理もない事である。
なおもいじけたように声高に叫ぶクミ。
「私なんてただ、なんでも英語にしたいだけの英語博士でしか無かったのよ。ネイティブにはなれないの!」
するとエイミが言った。
「じゃあ世界を見てきたら?私、卒業したら海外行くし」
エイミの急な一言にクミは一瞬言葉を失った。
丁度二人は渋谷のスクランブル交差点前の信号で止まったところだった。
「……ちょ、マジで?私より英語のできないあんたが行くなんて馬鹿じゃないの!もしかして私より英語が堪能ってオチじゃないでしょうね!」
「まさか。でも何とかなるでしょ。会話なんて単語だけ知っていれば伝わるよ」
自分より控えめなエイミが進路をしっかりと決めている事にクミは驚いた。
「エイミってば……たくましいのね。お母さん感心しちゃうわー」
「そんな冗談よりクミはどうするの?キャリーアテンダントになるって言ってたじゃない」
信号が青になったので交差点を渡り出す二人。
「そんなの、もっと勉強してからだと思ってたわよ。でもこんな点数じゃ無理ね。潔く諦めるわ」
クミがそう言った瞬間、渋谷スクランブルの大型スクリーン四面が、熱血漢で有名な男の映像に一斉に切り替わり、その大声が交差点中に響いた。
「どうしてそこで諦めるんだ!もっと熱くなれよ!できるできる!絶対できる!今ここを生きていけば、素晴らしい自分になれるんだから!」
その男はたった一五秒であったが、ずっと熱い言葉をスクリーンの向こうにいる者達に投げかけ続けた。
エイミはあまりのタイミングの良さに、何が起こったのか理解するのに数秒かかった。
「うわ、ビックリした。コマーシャルか……クミ、今の見た?」
「何が?今それどころじゃないのよ」
クミには聞こえなかったらしいが、エイミはその熱い言葉に胸打たれたようで、暫くその場から動く事ができなかった。
「どうしたの?エイミ、マックでも食べて帰ろ」
「……ごめん、私今すぐやらなきゃいけない事があるから」
そう言って英美は人々が織り成す交差点を、クミとは別の道に向かって歩き去っていった。




