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雨のピアノ
彼女はピアノが得意だった。
どうして女性とピアノはこんなにもマッチするのだろう。それは分からない。でもピアノは女性にとって、慣れ親しんだ感情の表現手段であるように思うのだ。
彼女の「ピアノ言語」を僕は解読しようと何度も試みた。
普段、彼女はにっこり微笑むだけでほとんど話さないからだ。
しかしそれはいつも失敗に終わった。
とある雨の日、僕らはただ二人寄り添って夕闇に佇んでいた。
彼女の距離はいつもより少しだけ遠い気がした。
彼女は夕食の下ごしらえを済ませると、いつものようにピアノの前の椅子に座った。
雨の日らしくない、楽しい音楽だった。
でもその音色がどこか悲しげだと気付いたのは、僕が彼女のピアノを理解しはじめてきたからだろうか。
目を閉じておとなしく聞いていると、急にテンポがゆっくりになり、今にも鳴り止みそうなほどひ弱な音になった。
「他に好きな人がいます」
それははっきりと伝わった。
ホロリと零れた彼女の悲しみがピアノの音に乗って、僕の胸に伝わった。
彼女のような表現手段を持たない僕は、ただ別れを惜しむように彼女をギュっと抱きしめた。




