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裏亜種  作者: 羽月
◆ その他 ◆ [ その他視点 ]
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【イズミ先生視点】 悪魔と賭け事(下) ※本編6話目読了後推奨

 ネタバレがございますので本編小説『死神亜種』の6話目読了後を推奨します。

 悪魔と賭け事(中)の続きです。


 本日もどうぞ宜しくお願い致します。



 いよいよ対面を果たした黒学と死学の生徒達。

 …………結果、私は頭を抱える羽目となった。隣でニヤニヤ笑っているだろう男は視界に入れない。今あの顔を見たら脳を介す前に脊椎反射で殴ってしまいそうだ。思わず深い溜息を吐き出す。

 入室前、死学の生徒達に念を押したのにも関わらず入口の時点で赤面する生徒が続出してしまった。……それはもうあちら側にほぼ勝利が確定したものと言って良いくらいに。

 私が見ていた中で確実に堕ちていないと言い切れる態度を取ったのは男女一人ずつの計、僅か二人だけだった。その数の少なさにもだが…………それよりもその二人の中にあの子がいることに驚きを隠せない。

 ____ヒイラギ。

 ……まさか万年学年最下位のあの子が無事だとは思わなかったのだ。全くの予想外だが例え一人でも……ほんの僅かでも可能性が増える方が良い。現在彼女は机に伏せていてこちらから表情を読み取ることは出来ない。だがまだ堕ちてはいないように見える。

 堕ちなかったもう一人の男子生徒に目を遣ると、赤面はしていないが黒学の生徒と仲良く談笑している姿が伺えた。……こちらは平手打ちまでは難しいかもしれない。何せ話している相手は女だ。相手を殴るなど余程の事がなければ仕掛けないだろう。こちらからけしかける訳にもいかないし……望みは薄い。


「俺の勝ちですね」


 私が渋い表情でいると勝ち誇ったように男が話し掛けてきた。眉間に皺を寄せジロリと首だけでそちらを向く。


「……まだ決まった訳ではありません」

「あぁ、すみません。そうですね」


 謝りつつもにやけた顔はそのまま……落ち着け、私。気が付けば手の平に爪が食い込むほど拳を握り締めていた。これを本能のままに解き放つ事が出来れば…………いや、駄目だ。

 生徒の面前生徒の面前、と呪文の様に何度も心中で繰り返して自分に言い聞かせ、ゆっくりと細く息を吐き出ながら拳を緩める。

 一発でも殴れば多少なりとスッキリするだろうにそれが出来ない。先程から苛々が 募りに募って、これ以上我慢できるか自信がなくなってきた。……誰でも良いから私の代わりにこの男を渾身の力で殴ってはくれないだろうか。勿論その事は見逃す。逆に私は褒めちぎるだろう。

 そんな私を知ってか知らずか……いや、確実に前者なのだが、男は生徒を観察しつつ呑気に話を続ける。


「2人、ですかね。――あ、ほらイズミ先生、男子生徒の方はしな垂れかかれても無抵抗ですよ」


 彼の視線の先に私もそれを合わせる。確かに抵抗してないように見えなくもないが、ここで認めてしまうとあとはヒイラギだけになってしまう。……それは何とか避けたい。


「……そうですね。でもまだ顔は赤くなっていません。好きにさせてるだけだと思いますが」

「……クク……まぁ、良いでしょう」


 笑いを抑えながらそう言う男を横目で睨みつけた。おまけしてやると言外に言っているのだろうが事実は事実だ。

 それからは堕ちないことを願いつつ不本意ながら隣の男と2人で暫く生徒達の監視を勤めた。




「――おや、死学の女子生徒が何やら話しているようですね」


 一行に進展のない様子に本来の仕事である監視を行っていると隣からそう声が聞こえた。

 私も彼の視線を追って見てみると確かにヒイラギが黒学の男子生徒と喋っている。両手で口元を覆っていてその表情はあまり伺えないが、まだ堕ちていないようだ……いや、寧ろ――――避けている?


「黒学の男子生徒がハンカチ出してますし……彼女鼻血でも垂らしてるんじゃないですか?」

「違いま――」


 彼を睨みつけ、視線を彼女へ戻した時、信じられない光景が目に映り、私は思わず言葉を飲み込んだ。

 ガタンッという大きな音が講堂内に響く。


「な……ッ!!」


 隣から驚きの声が上がったのがどこか遠くで聞こえた。私は目を見開いたまま固まる。

 ……今何が起きた?

 私は一瞬自分の目を疑ったが隣の男の反応を見る限り、今し方見た光景は現実のものらしい。

 椅子から落ちて床に倒れている黒学の生徒。そして彼を無表情に見下ろしているのは____ヒイラギ。

 私の目が確かなら間違いなく彼女は黒学の生徒の顔面に踵落としのような回し蹴りを喰らわせた。喰らった相手の鼻からは止め処なくダラダラと血が流れている。平手打ちなど比較にならない……それは誰から見ても明らかな拒絶。

 床に倒れている生徒に汚いゴミを見るような視線を向けて彼女が口を開く。……唇の動きを読むと彼女は確かにこう言った。


『テメェで使えよ、鼻血垂れ』


 無意識に口角が上がるのを感じた……私は今物凄く意地の悪い顔になっているだろう。隣を見れば珍しく眉間に皺を刻んで彼女を凝視する男が立っていた。

 ヒイラギ、よくぞやってくれた。


「私の勝ちですね」


 私がそう言うと返事の代わりに舌打ちが返ってきた。今まで言葉巧みにからかわれ続けていたが……やっとこの男に意趣返しができた。とても清々しい気分だ。

 これだけでも賭けに勝った価値はあるが____


「では、今後私の事を呼び捨てで呼ばないで下さいね」


 忘れず勝ち分を頂くとする。

 今後一切近づくな、関わるな、と言いたい所だが同じ学年の教師同士、それは不可能に近い。だから私は可能であるその条件を出した。これで少しは苛々が解消するだろう事を願う。

 私がニコリとそう言うとまた返事の代わりに舌打ちが聞こえた。




誤字・脱字などあれば報告して下さると有難いです (´・ω・`)

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