家族の事件 その1
お天気がいい。
お散歩が気持ちいい。
今日は三人で来れて楽しいな。
美樹の両親は大満足。
ママはショッピングが出来て、さらに大満足。
すれ違う他のお客さんたちも皆ニコニコ笑顔。
ワンちゃんを連れている家族も多く見かける。
ワンちゃんもはしゃいでる。
「美樹もワンちゃん飼いたいでしょ?ねぇママ。美樹が小学生になっら責任感とか出て来るからワンちゃんとか飼ってもいいよね?」
父親の頭の中では、去年くらいから練っていた計画だ。機は熟したと思ったのか、ここで妻に提案した。
「えー。でも犬って部屋の中に毛とかまき散らすでしょ?部屋が汚れちゃうわよ。パパの髪の毛とかでも気になっちゃっているのに、これ以上私の仕事を増やさないでよ」
父親の笑顔が固まった。
これは可愛い我が娘の為の提案なのだ。
感受性豊かな人間に育ってほしくて考えていた計画。
それを妻は自分の仕事が増えるからと……
「パパー。私にはハナちゃんがいるから大丈夫だよ」
美樹は思っている事を素直に自分の父親に伝えた。
しかし、父親は自分の娘が気を使って発言したものと受け取ってしまった。
家族の空気が少し変化した。
「おい……ママ。僕たちは美樹の親なんだよ。まず第一に自分の娘の事を考えるべきじゃないかな?掃除なら僕も手伝うからさ」
「美樹ちゃんがいらないって言うだから要らないわよね。ねぇ美樹ちゃん?」
母親は意地悪を言っているつもりはない。
ただ天然なだけなのだ。
この空気を読めないだけ。
しかし、幸運な事に、この場に一人だけ空気を読める人物がいた。美樹の抱き抱えているぬいぐるみである。
空気が読めるぬいぐるみは美樹に聞こえるだけの音量で話しかけた。
そのアドバイスを聞いた美樹は、運動会のヨーイドンのポーズを取る。心の中でカウントダウンをスタート。『ドン!』で父親の胸の中へ飛び込んだ。
そしてぬいぐるみがくれた助言通りの台詞を話す。
「パパぁ。ありがとう。ミキのために考えてくれたんでしょ?でもね。ワンちゃんはまだいいんだぁ。ちゃんと自分でね……えっと……あっ、お世話したいからね。もっと大きくなってから飼いたいなぁっ思っているんだ。パパありがと。だぁい好き!」
若干詰まったが、なんとかセリフをいい終わった。
美樹の腕の中でハナちゃんがウインクしている。
「美樹ぃ!わかったよ!パパも美樹のこと愛しているからね!」
九死に一生を得た。
その事に家族誰も気付いていない。
台詞を発した本人の美樹ですら、幼過ぎて気付いていない。
わかっているのは喋るぬいぐるみだけだった。




