ハンバーガーを食べよう
美樹はショッピングモールにやってきた。
「ママはお買い物が長くて、ちょっと退屈」
美樹がぬいぐるみに話しかけている。
それを見た父親は、娘が退屈しない様に一生懸命に気を引こうとしていた。
それと同時に、
「ぬいぐるみに愚痴るなんて可愛いなぁ」
なんて思ったりもしている。
娘は本当にぬいぐるみと会話しているのだが。
まぁ普通の人は、ぬいぐるみが活動できるとは思わないであろうから、父親が真実に気付けないのも無理はない。
父親の位置からは見えないが、美樹の問いかけにハナはウインクで応えている。
「パパまだぁ?早くゴハン食べたいなぁ。ママまだかなぁ」
娘の退屈が止まらない。
「美樹ぃぃゴメンなぁ。ママはお洋服選ぶの大変なんだよ。許してやってくれ。でもお腹空いたよな?お昼はハンバーガーだから。美樹はハンバーガー好きだもんな」
「うん!大好き!パパは知らないけど、ハナもハンバーガー好きなんだよ!」
そんな事を言う我が娘を微笑ましく見守る。
本当の事を話しているとは知らずに。
美樹の抱いているハナは、話せる事が出来る様になった事によりエネルギーの摂取が必要になった。
摂取方法は人間と同じで食事から摂る。
ただし、体の小さいハナが必要とする食べ物の量は極めて少なくて済む。
それ故、美樹が自分の食事をぬいぐるみに分け与えている事に誰も気付かない。
ぬいぐるみのハナが摂取した物質は消化器官で消化吸収され、残ったものは体外に排出される。
これも美樹がこっそりと処理している。
量が少ないので、ティッシュ一枚で余裕で処理できる。
「パパぁ。ハナもお腹空いてるから早くしてって言ってるよ」
ハナが最小限の動きでコクコクとうなずいている。
「はいはい。今メールしたから大丈夫だよ。ほら。五分で戻って来るってさ」
父親はスマホのメール画面を娘に向けた。
父親の言う通り母親は五分で戻ってきた。
両親はチーズバーガーのセットを。
娘にはチーズバーガーの単品とオレンジジュースを注文した。
美樹は、両親のセットからポテトフライを頂戴する。
そして、それをこっそりと膝の上にいるハナの口もとへと運ぶ。
ぬいぐるみがポテトフライを咀嚼する姿は相当不気味だが美樹には馴れっこだ。テーブルの下で行われている事なので両親からも他の客からも死角になる。
この受け渡しが一番安全だ。
ただ注意しなければいけない事がある。
ぬいぐるみの材質は布だ。
ケチャップやソースが表面に付着すると簡単には拭き取る事ができない。布地が吸収してしまうからだ。
そうなると洗濯するしかなくなる。
美樹は自分のチーズバーガーからパティをちぎり、ハナの口元に運ぶ。美樹の小指の爪くらいの大きさの欠片だ。ハナは口のまわりに油分が付かないように大きく口を開いて受け取る。
ムシャムシャとするハナを見守りながら自分もチーズバーガーにかぶりつく。
それを両親が優しい表情で見守る。
平和でなごやかな時間が過ぎていく。
そんな楽しい時間ではあるのだが、その日の午後に事件は起きる。




