ハナちゃんとの秘密
「うん。もう寝よう。明日はお買い物楽しみだね」
ぬいぐるみが喋った。
短い手がブンブンと揺れている。
「ハナちゃんとお出かけうれしいなぁ」
美樹ちゃんも真似して人差し指をブンブンと振ってみせた。
「でもねハナちゃん。いつも通りミキ以外の人には動いたり話したりしちゃダメだよ。見つかったら大騒ぎになっちゃうからね」
「大丈夫!ハナが動けるのを知っているのはミキちゃんだけだからね。ミキちゃん以外の人にバレないようにする事を誓うよ」
何かで見たのか短い腕をピッとあげる。
宣誓のポーズのつもりらしい。
おばあちゃんからもらったぬいぐるみ。
美樹のおばあちゃんが亡くなって五日目の朝。
彼女は喋り始めた。
最初はテレビ音かと思ったが違う。
「ミキちゃん。泣かないで。おばあちゃんはミキちゃんと一緒の時間をいっぱい過ごせて嬉しかったんだよ。だからミキちゃんが泣いていると、おばあちゃん悲しくなっちゃうからね。元気になって。アタシがずっと一緒にいてあげる。おばあちゃんのかわりにミキちゃんを守ってあげるよ」
ぬいぐるみは美樹を慰めた。
「おばあちゃん……おばあちゃん……」
おばあちゃんの死に悲しみとショックを受けている幼い美樹にとっては、ぬいぐるみが喋った事実など、どうでもいい事だった。
驚く余裕など美樹にはない。
あたりまえの様にいた『おばあちゃん』という存在が消えてしまったショックが、無機物の人形が生きているという非現実を気に出来なかったのかもしれない。
それから一週間。ぬいぐるみは一生懸命に美樹に話しかけた。優しい言葉をかけ続けた。
美樹は思った。
ハナちゃんの中に、おばあちゃんが入ったのかもしれないと。
そうだ。きっとそうだ。
おばあちゃんとは、これからも……ずっと。一緒にいられる。
悲しみや絶望という負の感情から美樹を守ろうと、美樹自身の心が防衛本能を働かせたのかもしれない。
その夜。
美樹はぬいぐるみに顔埋めて泣いた。
そして泣き疲れて眠りについた。




