8 反動
四百年が経った。
四百年……?
思わず額に手を当てる。私のそばには巨大な石が高々と積み重ねられていた。
一体何があったのだっけ? まだ少し頭がぼうっとしている。落ち着いて思い出そう。
そうだ。仲間たちと別れたあと、私は当てもなく世界を旅していた。時折魔物に出くわすと魔法で倒した。それをまた魔法で解体し、スライスしたものに調味料を振って火であぶり、好奇心の赴くがままに食べたりもしていたが――私は食事をしなくても死なないが、味や香りには興味がある――そんなある日、急にすさまじい眠気に襲われたのである。
ああ、これは今まで魔法を使いすぎた反動だとすぐに察しがついた。長い眠りになりそうな気がする。だから自分の周りに魔法で石を積み上げて小さなピラミッドを作り、その奥で横になったのである。安全な場所でミイラのように安らかに眠ることができた。
ところが起きてピラミッドの外へ出ると辺りは様変わりしていた。ここは野原だったはずなのに砂漠になっている。通りすがりの旅人を呼び止めて今がいつなのかを尋ね、それで自分が何百年間も眠っていたことを知ったのだった。
さすがに仲間たちはもう誰も生きてはいないだろう。
「……ローラスに悪いことをしてしまいました」
睫毛を伏せて呟くと、彼方を眺めていた旅人がくるりと振り返る。
「ローラス王国のことですか? 俺、王都に行ったことありますよっ。まさに豪華絢爛、じつに立派な都でした! 機会があれば、また行ってみたいなあ」
「ローラス……王国?」
「あれ? ご存知なかったんですか?」
面食らった様子の旅人から聞き出したところによると、あれからローラスは皆と協力して国を作ったらしい。それがローラス王国ということだ。
初代国王はもちろんアルカディオ・ローラス。今では「救世の勇者」とか「建国王」などの異名がついている。彼は息子である二代国王ジークハルト一世と力を合わせて、国の基礎を構築した。その後も三代国王レオナール一世、四代国王セレナス一世というふうに王国は順調に続いていき、現在はジークハルト五世の統治下にあるという。
私は静かに大きく息を吐き出した。
そうなのか。ほっとした――と表現してもいいのだろうか? 自分の感情が自分でもよくわからないが、きっとそうなのだろう。戻ってくるという約束を私は守れなかったが、ローラスは己の務めを立派に果たした。そして彼の作った王国は今も存在し、人々の心の礎となっている。それは素晴らしいことに違いない。少なくとも頭ではそう理解できた。
「有益な情報をありがとうございました。それでは失礼します」
「あ、ちょっと?」
戸惑う旅人に背を向けて、私は足早に歩き始める。
さて、この先どう生きよう。どこへ行って何をしよう? 見当もつかないが、最初に向かう場所は決まっている。まずはローラスの作った国を見たい。すべてはそれからだ。




