7 旅立ち
一年が経った。
「サラサ……。本当に行ってしまうんだね」
私の対面でローラスが名残惜しそうに呟く。彼の横ではアデプタスとフレームヴェインが同じように寂しそうな顔を私に向けていた。
ここは解放された人間たちが作った小さな町――その出入口の門だった。町並みはやや野暮ったいが、今後大いに発展するのだろう。町作りに励む男たちの顔は一様に活気に溢れ、女たちも溌剌と立ち働いている。間違いなく未来は明るい。
私たちが魔王を倒したことで、人間が魔人族に虐げられる世界は瓦解した。
生き残った魔人族はあちこちで抵抗を試みたが、そのたびに私やローラスが遠征して倒した。魔物たちは山奥に逃げ、ドラゴンは海を超えて他の大陸へと飛び去っていった。
そして今では魔人族はもうこの大陸に残っていない。もしかしたらどこかに隠れ潜んでいる者がいるかもしれないが、表立って抵抗を企てる勢力は皆無である。
あとは私がいなくても問題ない。人間だけで十分やっていけるだろう――。
そう判断した私は身辺を整理し、しばらく各地を旅して回ることにしたのである。ここに呼び出されて以来、ずっと戦ってばかりだったから、自分が守った世界をもっとよく見てみたくなったのだ。今生の別れではないということで仲間たちも納得してくれた。
「正直言うと、いつまでもここにいてほしい……。でも世界を救った聖女が望むことだ。ぼくには駄目だなんて言えないよ」
ローラスが伏し目がちに言った。風になびく自らの金髪を手で軽く整えて顔を上げる。
「必ず戻ってきてくれ。いつでも君を待ってる」
ローラスが私の目を見てそう告げると、続いて隣のフレームヴェインが口を開く。
「同じく」
いつもながら無口な男だ。しかしさすがに今は感極まった声だった。今度はアデプタスが無造作に頭を掻く。
「……ま、なんだ。俺はこれでも賢者だ。君の行方を調べる方法はその気になればいくらでも思いつく……たぶんな。困ったときは呼んでくれ。地の果てにでも飛んでいく」
おちゃらけた口調で、しかし真剣な顔でアデプタスは語った。私はうなずく。
「皆さん、本当にありがとうございます。最初は思うところもありましたけど、あなたたちと繰り広げた冒険は私にとって、かけがえのない素晴らしい日々でした」
「ああ……。ぼくたちの方こそ」
ローラスが目に涙を溜めて声を絞り出した。
「それでは――行ってきます」
私は一礼すると彼らに背を向けて、静かにその場を立ち去ったのだった。




