3 賢者の独善
「なるほど……経緯はまあ、わかりました。あなたたちは強大な征服者への隷属を余儀なくされていて、自由を求めて戦っているわけですね?」
「話が早くて助かる。俺たちは魔人族のもとから脱走できた、数少ない反逆児の集まりなのさ。ローラスが主導者で、俺が助言者。世間じゃレジスタンスって呼ばれてる。規模こそ小さいが、長年ひそかに各地で魔人族と戦い続けてるんだ」
アデプタスがにやりと笑って癖のある髪を掻き上げた。
「はあ、そうですか。しかしまだ疑問があります。いくら別世界から呼び出されたとはいえ、私はごく普通の人間ですよ。魔法なんて使えませんが」
「と思うだろ? そこが話の肝になる」
「話はまだ前菜だったんですね」
「極論すれば魔法なんて覚えればいいんだ。習得自体は難しくない。あれを見てくれ」
アデプタスが指差した先には、大きな石造りの台があった。
ちょっとした舞台のようなその円形の台の上には魔方陣を思わせる不思議な模様が刻まれている。しかし全体像を見ることはできない。爆弾でも誤爆したのか、台の上には瓦礫の山が積み重なり、ほとんど埋まっているからだ。
「ここは今でこそレジスタンスの拠点だが、もともとは違う。魔人族の地下実験場だったんだ。やつらは別世界から異界人の魂を呼び出して肉体を再構築する装置を作ってた。なんでも五百億人にひとり適合する、超越的な魂があるらしい。うまくいけばそいつは魔法が使い放題になる。ところが実験中にイレギュラーが起きて、ここは時空が壊れた危険地帯になっちまった。だから魔人族は仕方なく施設を廃棄したんだよ。その後、何年も経って安全になったのを確認してから、俺たち人間が入り込んで本拠地にしたわけ」
連中のやらかしが俺たちの居場所を作ったってことさ、と言って彼は肩をすくめる。
「事故物件を再利用したわけですか……」
確かにこの地下空間は見るからに広大で、人工的に作るのは難しそうだった。
「賢者の仕事は派手じゃない。調べて試してを延々と繰り返すだけさ。気が遠くなるような試行の末、今回ようやくうまく呼び出すことができた。見ての通り、成功と同時に装置は爆発して壊れちまったが……結果の方は上々だろ?」
「つまり私は他に代わりのいない、五百億人にひとりの適合者ということですね?」
私は納得して確認のために訊いた。
「そういうこと! この装置で魂から肉体を再構築された異界人は不老不死になる。寿命は無限。要するに君は魔法を好きなだけ使える不死身の存在になったんだ」
「不死身? 不老……不死?」
さすがの私もその言葉には度肝を抜かれて絶句した。
「最高だろ? どんな怪我でも病気でも君は死なない。寿命も気にしなくていい。何十年でも何百年でも生きられるんだ。いやはや、冗談抜きでたまらんね!」
無邪気に喜ぶアデプタスを隣のローラスが「おい……」と小声でたしなめる。
しかしアデプタスは意にも介さず、自らが成し遂げた偉業に酔いしれ続けていた。ある意味では呑気なその光景を前に、私は無表情で三回ほど深呼吸して冷静さを取り戻す。
もちろん単に頭が冷えただけで、彼の行為を許したわけではない。人を別世界に呼び出して、同意もなく不老不死にするとは――。私には怒りの感情がほとんど存在しないが、不愉快だと思うことはある。この借りはいずれ返さなくてはならないだろう。
とりあえず魔法を覚えたら、それでアデプタスを殺してみるか。その後の身の振り方はおいおい考えればいい。




