1 状況把握
本物の自分はもう死んでいて、今ここにいる自分はその魂をもとに、今までとは異なる世界で、特殊な形で再構築された存在だと聞かされたら、あなたはどう思うだろうか?
信じられない? 馬鹿馬鹿しい? あるいは驚く? それとも恐怖でパニックに?
私は何も感じなかった。幼い頃からそういう傾向がある。私は昔から感情の起伏というものがほとんどなく、どんなときでも冷静にあらゆる状況に対処できた。
だから今回のように自分が死んだことを知らされ、なおかつそれを事実だと認識しても一切動揺しなかった。
そう、はっきりと覚えている。私は確かに一度死んだのだ――。
大学の講義がすべて終わった、その日の夕方のことである。
私はいつも通り廊下を歩いていた。特別な予定はなかった。実験レポートは前日に提出済みで、帰宅したら簡単な夕食を作って食べ、気になる論文を少し読んでから眠るつもりだった。それ以上でも以下でもない、ごく平均的な一日だった。
異変は校舎の階段を下りている途中で起きた。
突然どくっと心臓が強く脈打ち、視界にノイズが走って揺れる。これはいけないと瞬時に悟った。立ち止まった私はいつものように瞼を閉じ、自分の体調を内側から点検する。水分不足、睡眠不十分、低血糖、いずれも当てはまらない。ということは?
どうやら持病の発作が起きたようだ。薬は忘れずに飲んでいたのに――運が悪い。
バッグには予備の薬も入っているが、指先に力が入らず、深呼吸もできなかった。
次の瞬間、胸の中でスイッチが切れたように何かが止まって意識が薄れていく。あっという間に全身が動かせなくなり、目の前が暗くなった。ブラックアウト。最後に自分の体が前に倒れ込むように空中へ投げ出されたことだけは、かろうじてわかった。
意識の消失。
そして再び瞼を開けたときにはここにいて、残念ながらあなたは元の世界では既に死んだ存在だと聞かされたのである。放っておけば消えてなくなる魂だけを時空を超えてこちらの世界に呼び出し、肉体を再構築させてもらったのだと――。
アルカディオ・ローラスと名乗る、どう見ても現代社会の住人には見えない戦士のような姿の男に、つい先ほどそう説明されたのだった。
話の要領そのものは悪くない。他にも様々な情報を聞かされたが、難しくはなかった。常軌を逸した突飛な内容であることを除けば、いたってシンプルで、少なくとも大学受験の試験よりはよほど簡単だった。
「……そうですか。大体把握できました」
私は呟き、改めて辺りをぐるりと見渡す。
空気は冷ややかで湿り気を帯び、自然光がまったく差し込まないから、場所はおそらく地下なのだろう。そこは恐ろしく広大な地下空間なのだった。
天井は異様に高く、見上げても視線の先にはどこまでも暗闇が続いていて、果てが確認できない。光源は壁のあちこちに取り付けられたランプだけ。床は石造りで、その上に直接、木製のテーブルや丸椅子がいくつも並んでいる。目の届く範囲内には二十人程度の男女がいて、興味と恐怖が入り交じる視線を私に向けていた。ひと言で言うと、非合法な活動家たちの秘密のアジトという雰囲気だが――まあ当たらずとも遠からずなのだろう。好きこのんで、わざわざこんな妙な場所に集まる者はいない。
まったく、とんだことになったものだと私がため息をつくと、呆気に取られた顔をしていた対面のアルカディオ・ローラスが我に返ったように口を開く。
「あの……あまり驚かれないのですね?」
「驚いています。それに、驚いても事態は変わりません。違いますか?」
私はごく当たり前の事実を言った。
「それはまあ……その通りです」




