1 ホワイトフォード城にて
中央街の赤の塔で、時を告げる鐘が八回打ち鳴らされる頃――。
応接室の暖炉の火を見ながら私は考えていた。
今まで甥とふたりだけで話をしたことがあっただろうか。
一度もない。甥のバーソロミューのことは幼少期の頃から知っているが、とくに機会がなく、向こうもそれを望まなかった。仮に私が彼の立場でも同じだったろう。いくら親戚でも、二十歳以上も年の差がある大人と差し向かいで語り合うのは、やはり気詰まりなものだ。バーソロミューのように感性が鋭い子なら、なおさらだろう。
それに加えて私、サイラスはこのレナス地方を治める公爵だから、その部分での遠慮もあったに違いない。
バーソロミューは弟の息子である。長男の私が公爵位とホワイトフォード城を継いだため、弟は森の湖畔にある小城――セイラン館を与えられ、そこを居城とした。距離はさほど離れていないが、城主の地位と役割は大きく異なる。弟は公爵家の血を引く小領主として独立したわけだから、レナス公である私に忠誠を誓う立場なのだ。甥のバーソロミューが私に遠慮を感じ、腹を割って話す機会を望まなかったのも無理からぬことだろう。
ところがそのバーソロミューが今日、珍しくこのホワイトフォード城を訪ねてきた。
なんでも新しい馬の試し乗りで近くまで来たため、立ち寄ったのだそうだ。私に聞かせたい興味深い話もあるのだという。
思いがけない嬉しい客人だが、残念なことに彼と親しい息子のラスリーは、私の妻とともに知人の洗礼式へ出かけていた。だったら同席させるべき相手もいないということで、ひとまずこの部屋へ通したのである。聖人の宗教画が何枚も飾られた私的な応接室へ。
「……子供の頃、ここから見える景色はずっと同じだと思っていました」
窓辺で外を眺めていたバーソロミューがぽつりと呟いた。
「そうなのかね?」
私が声をかけると彼が振り向く。
「ええ。でも、この眺めを毎日見るのは案外、楽ではないのですね」
わずかに苦い色を滲ませて微笑むバーソロミューは、二十一歳の金髪の青年。昔は本好きの小柄な少年だったが、今では背も伸び、頼りがいのある立派な男に成長した。黒い衣服に包まれたその均整の取れた長身は、まるで古の英雄を描いた絵画から抜け出してきたかのようだ。ラスリーの話によると、剣の腕は既にバーソロミューの方が上なのだという。時が経つのは早いものだ。だからこそ今を大切にしなくてはならないのだろう。
「物事には様々な側面があるものだ。さあバーソロミュー、こちらに来て座りたまえ」
「ありがとうございます」
バーソロミューが近づいてきて、私が勧めた椅子に腰かける。ぱちぱちと音を立てて燃える暖炉の前で、我々は穏やかに向かい合った。




