11 後日談
それからしばらくして私はロムに求婚された。
なんでも私の怪我が完治するまで待っていたらしい。もちろん私は喜んで承諾し、教会で素晴らしい結婚式を挙げた。多くの人々に祝福され、その日は人生で最も幸せな一日となった。
一年後には子供が生まれた。可愛い男の子だ。夫婦で相談した末にエドガーと名づける。エドガー・フレームヴェイン。のびのびと自由に育ってほしい。心配することは何もない。ロムの常人離れした武の才と、我が家に伝わるドラゴン催眠の力があれば向かうところ敵なしだからだ。私はそう思っていたのだが、意外にもロムの考えは少しばかり違っていた。
男の子はやはり肉体そのものが強靱であることが望ましい。しかし自分が特別だと知らされたら驕りが生まれ、日々の地道な鍛錬を怠るかもしれない。それでは強さが中途半端になる。だから成長しきるまでドラゴン催眠の件は秘密にしておきたい。伝えるのは二十歳になってから。その頃には肉体も十分に成熟しているだろう……。
そんなロムの考えに私は賛同し、息子にはドラゴン催眠の力を伝えずに育てることにした。少年時代は真っ当に剣と馬の腕を磨かせよう。エドガーがロムのような男に育つのも悪くない。私とロムが鍛えれば、きっと誰よりも強くなれるだろうから。
しかし私のその願いはかなわなかった。
エドガーが一歳で、まだ物心がついていない頃の出来事である。傭兵仲間が心奪の魔法師の隠れ家を突き止めたという知らせを持ってきた。
なんでも西方に、かつて流行り病で滅んだリュカルヴァという町がある。今は廃墟と化したその場所のどこかに心奪の魔法師は身を潜めているのだそうだ。
ロムが心奪の魔法師に並々ならぬ敵意を抱いていることは以前から知っていた。しかし即座に飛び出していくとはさすがに予想していなかった。
「エドガーを頼む!」
そう言ってロムは単身、リュカルヴァの廃墟へ向かったのだが――。
残念ながら生きて帰ってはこなかった。
戻ってきたのは心臓を奪われて殺された可哀想なロムの遺体。私は三日三晩泣き明かした。やがて少し落ち着くと決意を固め、ドラゴン退治の仕事からすっぱり足を洗った。
エドガーのためにも私は死ぬわけにいかない。この先は母子ふたりで慎ましく遺産で生きていこう。それでいいし、それがいい。ただ無事に生きてさえいければ……。
後年、エドガーが父の仇である心奪の魔法師と戦うことになるとは、このときは夢にも思わなかった。




