2 森へ
ぼくとラスリーは午後の眩しい光の中をそれぞれの馬で駆け抜けた。
念のため武器も持ってきている。訓練用の極めて軽い剣だ。ぼくらは王家の血を引いているから戦闘特性というものがある。これは救世の勇者アルカディオ・ローラスに由来する力で、体の強靱さを格段に高めてくれるのだ。だから危機に直面してもなんとかなると自分に言い聞かせていたが、幸いそんな事態は訪れなかった。
なだらかな丘を駈け降りると、草原は湿り気を帯びて樹木の匂いが濃くなっていく。目的地は近い。
奇妙な人物を見かけたのは、視線の先に鬱蒼とした森が姿を現したときだった。よくわからないが、森の入口で怪しげなことをしているように見える。
「ラスリー!」
ぼくは警戒の声を発したが、もちろん彼も気づいていた。
「わかってる。僕が先行するから君は少し下がれ。気をつけろ」
ここはれっきとしたサイラス公爵領で、ホワイトフォードの城にも近い。怪しい者なら公爵の嫡男である自分が放っておかないという判断だろう。ぼくも速度を落とさず、ラスリーに負けじと馬を走らせる。
やがてその人物に声が届く距離に至り、ぼくとラスリーは馬を止めた。
意外にもそれは若い女の人だった。しかもたったひとりだ。上質なチュニックの上に緑色のロングガウンをまとった、どこか超然とした雰囲気のお姉さんである。
近くには鉄製の火台があり、その上には変わった形の鍋が載せられていた。外で料理でもしているのだろうか? 他にも布の袋や小さな木製の台がそばに置いてある。
「何者だ。ここで何をしている?」
ラスリーが馬上から問いかけると、その人は静かな目で彼を見返した。
「わたしは香草師のマリスキュー。中央街で店を営んでいます。花の香りに誘われて植物の採取に来ました。今は沸かした湯で、草の善し悪しを確かめているところです。誰にも危害を加える気はないので安心してください。高貴な血を引く子供たちよ」




