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魔法千年の孤独――マリスキューの店で聞いた話によると…  作者: ウニ
【第4話】 カロリーヌ(夜の散歩好き)14歳――彼女は見ていた
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ある夜の一幕

 視線の先で今、すさまじい戦いに終止符が打たれた。


 緊張で身を強張らせてその光景を盗み見ていたあたし――カロリーヌ、十四歳――は安堵の息をふうっと吐き出した。

 人類最強級の戦士と心奪の魔法師の一騎打ち。熾烈な戦いに勝ったのは、やはり心奪の魔法師だった。戦士は無惨に胸を突き破られ、心臓を奪われて路上に倒れている。


 ここは夜のリュカルヴァの町。大陸西方にある田舎町だ。戦闘が終わった今は普段に輪をかけて静かで、物音ひとつ聞こえない。またしばらくはこの静寂が続くのだろう。


 その戦士はつい先ほど、ひとりで馬を駆ってやってきた。そしてこう叫んだのである。


「いるのはわかってるぞ、心奪の魔法師! 出てきて俺と戦え!」


 戦士はまだ青年と言っていいほど若い男だった。どうやら余程の恨みがあるらしく、その怒りを声から感じ取ったのだろう。心奪の魔法師はどこからともなく姿を現した。


「調子に乗るな。私からすればお前ら人間など虫けらにすぎん。まあいい。死にに来たのなら殺してやる。お前の心臓をもらおう」

「ぬかせ!」


 そのやりとりを皮切りに激戦が始まったのである。夜の散歩中、物陰から偶然それを見ていたあたしの他に、辺りには誰もいなかった。あたしだけが見ていたのだ。


 戦士は常人を遙かに超える身のこなしで一瞬のうちに距離を詰めると、猛然と長剣を振り下ろす。ローブ姿でフードを深くかぶった心奪の魔法師は紙一重でその攻撃をかわした。


 しかし戦士はその剣を跳ね上げるようにして再び斬りかかる。なんとか心奪の魔法師はそれも避けたが、安心する暇はない。戦士の追撃が矢継ぎ早に繰り出されたからだ。まるで暴風だ。途轍もない膂力で、彼は重そうな長剣を小枝のように軽々と振り回す。


「くっ……。まさか戦闘特性を持っているとは」


 心奪の魔法師が吐き捨てるように言い、やがてフードが切り裂かれて隠されていた顔があらわになった。あたしはぞっとして爪先まで緊張した。


 フードの下に隠されていた顔は蜥蜴そっくりだったのだ。角が生えているから、正しくはドラゴンの顔だろうか。二足歩行で体形こそ人間だが、首には鱗が生えていて顔は爬虫類そのものである。心奪の魔法師の正体は竜人だったらしい。


「それがお前の素顔か! まさか魔物だったとはな」

「半分は当たりだ。しかし私の正体を見た者を生かしてはおけんな」


 ふいに心奪の魔法師がドラゴンの口を静かに開く。すると口内から紫がかった煙がゆっくりと吐き出され、たちまち辺りは不気味な霧に包まれた。

 しかし煙幕というほど濃厚なものではない。実際、離れた場所から見ているあたしにも両者の様子はうっすら見える。にもかかわらず、なぜだろう。まもなく戦士の様子がおかしくなった。足を止めて剣を下ろし、親しい誰かを前にしたかのように狼狽し始める。


「なぜだ……。どうしてあなたがここに……?」


 どうやら幻覚を見せられているらしい。罪の意識に押し潰されそうな声だった。


「許してください……。あのとき……俺はただ――」


 そう呟いて戦士が剣を取り落とした瞬間、勝負はついた。いつのまにか彼の後ろに回っていた心奪の魔法師がいきなり拳を繰り出したのだ。すさまじい勢いで、それは戦士の背中を突き破って胸から飛び出す。その手にはどくどくと脈打つ心臓が握られていた。


「……ガハッ!」


 心奪の魔法師が腕を引き抜くと、戦士は地面に仰向けに倒れ、その後はぴくりとも動かなかった。たわいもない、と心奪の魔法師は冷ややかに嘲笑する。それから大きく口を開けて、奪った心臓をぱくりと呑み込んだ。そして戦士を一顧だにせず歩き出すと、そのまま夜のリュカルヴァの町の奥へと消えたのだった――。


 もう大丈夫だろう。あたしは静かに物陰を出ると、倒れた戦士のもとへ駆け寄る。


 驚いたことに彼はまだ生きていた。さらに驚くべきことにあたしの存在に気がついた。虫の息だから長くはもたないだろうが、まだ意識があるなんて信じられない。本当に人間離れした生命力だった。


 しかしその意識が正常かどうかは、はなはだ怪しい。


「君……伝えてくれ……」


 やはり意識が朦朧としているらしく、戦士は息も絶え絶えにあたしに語りかけた。


「息子に……一緒にいられなくてすまないと……。そして妻に……愛していると……」


 どうか伝えてくれ――。


 残りの命を振り絞るかのようにそう告げると戦士は絶命した。人は死に際、愛する者を思わずにいられないのか。人間という存在の素晴らしさと悲しさを体現する最期だった。


 しかしあたしは今の言葉を彼の息子にも妻にも伝えない。


 というより伝えられない。悪いとは思うが、無理なのだ。

 だってあたしが何を言っても、彼らには一切わからないのだから。


「ニャー……」


 尻尾を振って別れを告げると、あたしは四本の足で闇の中へ歩き去った。

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