1 朝
問題ありません――。問題があるときに限ってそう口にする癖が私にはある。自覚しているが、直そうとはしていない。直すほどの問題でもないと考えているからだ。
場合によっては次のような言葉を使うこともある。
「それでいいと思います」
「何も関わっていません。私は中立です」
「私はただ息を吸って吐いていただけです」
大体そんなところだ。人は私のことをなんと呼ぶだろう? 小心者か平和主義者か、あるいはその両方かもしれないが、どちらでもいい。波風を立てないことは逃げではなく、自発的な選択である――場合もある。少なくとも私は今までそう信じて生きてきた。女性との恋愛でいつも最後の決め手に欠けるのも、そのせいだとは思いたくないが。
さておき、私はベイコンという。ひとり暮らしの平凡な男だ。
家族はいない。去年、転んで足を怪我したときは姪のリズがよく見舞いに来てくれたものだが、治ってからはほとんど来なくなった。なんでもエドガーという素敵な恋人ができたらしい。まあ、それは私には関係のないことだ。話を戻そう。
私は城壁に囲まれた中央街ではなく、外に住んでいる。壁の外の南を流れる川にかかった巨大な橋を渡ると、サウザス(サウスタスクが訛ったもの)と呼ばれる雑然とした地区があり、そこは城壁で守られておらず治安こそ悪いが、良質な土と水に恵まれている。陽当たりも壁の中よりずっといい。私にはうってつけの住まいと言えるだろう。
栽培師――それが私の職業だ。小高い場所にある家の裏の畑で、カブとキャベツを育てている。はっきり言って、どちらもまずい。とても売り物にはならないが、これは偽装用だから問題ない。畑の奥の養蜂箱に囲まれた場所で特注の植物をひそかに栽培しており、収入源はもっぱらそちらの方だった。
マリスキューという人物と長年にわたって契約しているのである。
彼女は毎回、珍しい植物の種子を私のもとへ持ち込んでは何種類かの育成方法を指示する。できあがったものの風味を比べ、何が最適な育て方なのかを検証するのだという。
育成の指示は複雑で風変わりだ。特殊な土を使ったり、種と一緒に金属片を埋めたり、獣の骨粉や灰をまくこともある。かなりの緻密さと根気強さが求められる。ただ私は細々とした仕事が得意だから、今のところ先方には満足してもらっていた。そして高額の報酬を得ている。破格の金額と言ってもいい。まあサウザスは盗難も多いから普段はそんなことを口には出さないが。
さておき、あまりのんびりしている暇はない。
「今日は治療院の日だ……」
食卓で朝食を食べ終えた私は、小さな壺のふたを閉めながら自分に言い聞かせるように呟いた。
十日に一度、私はサウザスの外れにある浴場治療院に通っている。近頃、妙に腹が出てきたからだ。
腹が出るだって? そう、目下のところそれが私の悩みである。食事量は変わっていないし、畑仕事も手を抜いていない。にもかかわらず、なぜか下腹部が少しずつ前へ迫り出してきているのだ。太る理由なんて一切ないのに。
重い病気の前ぶれだろうか? 腹に水がたまる病でなければいいのだが。
「……早めに行こう。混み合う前に済ませたい」
私は手早く身支度をする。とくに着飾る必要はない。ウールのチュニックの上に灰色の上着を羽織ると革の袋を肩にかけ、お気に入りの丸帽をかぶってそそくさと家を出た。




