1 中央街
人が本当に落ち込んでいるときは何をしても心は晴れない。たぶんわざわざ言葉にするほどのことでもないのだろう。でも僕は今さらのようにそれを思い知っていた。
ずっと家に閉じこもっていても余計に気が滅入るからと母親に言われ、ひさしぶりに街へ出てきたものの、やはり何も変わらなかったのだ。絶望の底にいる今の自分にはどんな光景も薄膜を張ったように不鮮明に見える。近くにある店も妙に遠くに見えた。
僕の名前はエドガーという。エドガー・フレームヴェイン。年は十七。昔はともかく今は何者でもない。強いて言うなら唯一の取り柄を失った空っぽの男だ。なぜそんなことになったのかというと――。
いや、やめよう。今はまだ思い出したくない。
左右を見渡す。いろんな人の姿が目に入る。大声を張り上げて客を呼ぶパン屋や肉屋。昼間から酔って路上で寝ている男。足早にその横を通りすぎていく頬被りの女。裸足で駆け回って遊ぶ子供。あちこちで犬が走り、にわとりが羽ばたき、痩せた馬が尻尾を振っている。辺りは熱気と喧噪に満ちていた。
それもそのはず、ここはローラス王国でも最大級の街だ。本当は長くて立派な名前があるのだが、面倒だから皆は単に中央街と呼んでいる。厚い城壁で囲まれた中央街の安全性はお墨付きだが、それだけに多くの人がやってくるので、いつも過密気味だ。
とりわけ市場の中心にある石造りの泉は大賑わいで、手桶を持った人たちの長い行列がのびている。この街では生で飲める清潔な水が手に入るのだ。まあ日によって少し濁ったりはしているのだが。
僕は順番待ちの人々を横目に見ながら、目的もなく露店通りへ向かう。空気を切り裂くような鋭い悲鳴が聞こえてきたのは、揚げ魚の屋台の前を通りすぎたときだった。
「助けて!」
顔を向けると不穏な光景が目に入る。白い麻のシャツと濃青色のスカート。金髪を丸みを帯びた柔らかなシルエットに切り揃えた可憐な少女が、四人の大柄な男に取り囲まれて怯えていた。からまれたのだろうか。少女は僕より少し年下に見える。男たちは赤ら顔に淀んだ目の、見るからに粗暴そうな荒くれ者だった。




