7 コリン
それから私とマクシミリアンは馬でランパシーの村へ行った。
飼育している羊の逃亡を防ぐことはできても人間は楽に乗り越えられそうな低い柵に囲まれた小さな村で、人口は百二十人くらい。それに加えて今はマクシミリアンの配下のレナス衛兵団が十五人ほど滞在しているという。
王都に比べると村は自然との境界が曖昧で、どこにいても湿った土と干し草と家畜の匂いが漂っていた。ここには人間が生きるということの本質がある。そんな感動を覚えるのは私が王宮育ちの世間知らずだからだろう。家は石造りで、屋根は年季の入った茅葺き。村の中央には小さな広場があり、そこの井戸の前には木桶を持った女たちが並んでひそひそとお喋りをしていた。
コリンの家は風車小屋の向かいだった。案内されて中に入ると、棚に様々な木製の玩具や彫刻が飾られており、床にはノミをはじめとした工具が散らばっていた。壁際に小さな寝台があり、そこに敷かれた藁の入った袋の上にコリンが寝ている。額が広くて穏やかそうな顔立ちの、淡い色の瞳をした中年男だった。
マクシミリアンが片手を上げて挨拶する。
「こんにちは、コリンさん。足の加減はいかがですか?」
「これは伯爵様、お見舞いありがとうございます。おかげでだいぶ楽になりました」
「だったらいいのですが。くれぐれもお大事にしてください。ところで今日は紹介したい方がいましてね。驚かせて申し訳ありませんが、こちらはソフィア王女殿下です。村に大事なことを告げるため、王都から直々に来てくださったんですよ」
「……王女殿下がっ?」
マクシミリアンに促されて私は一歩前に出た。ぎこちなくも慌ただしく身を起こそうとするコリンを素早く押しとどめて口を開く。
「そのままで結構です。どうか楽な姿勢で」
「は、はあ。ありがとうございます。それでその……お話とは?」
「話はすべて伯爵から聞きました。ガーゴイルの岩の件で、ずいぶんと怖い思いをなさったそうですね?」
「ええ……。自分があんなものを彫ったのが悪いんです。夜中にあいつが急に動き出しまして、逃げる暇もなく足をやられました」
「さぞ驚かれたことでしょう」
私はいたわるように言った。それから心持ち背筋を伸ばして毅然とした声を出す。
「ですが、これ以上もう騒ぎ立てる必要はありません。先ほど私自身の目で確かめました。あれはガーゴイルでもなんでもない、ただの岩です。この先、動くことも誰かを襲うこともありません」
「それは――」
コリンが反論しかけて、ぐっとこらえる。立場上そうするしかない。威厳を感じさせないように振る舞っているマクシミリアンになら多少の無理は言えても、さすがに王女に異は唱えられないだろう。でも致し方ない。許してほしい。これが私の役割なのだから。
「夜通しの警戒は不要だと私は判断しました。伯爵もレナス衛兵団も本日中に引き上げさせます。以上、これは決定事項としてお伝えします」
私の一方的な通告に驚いたのか、コリンは大きく口を開けて固まっていた。




