6 大麦畑にて
「とまあ、そういうわけです」
長い話に一区切りがついてマクシミリアンが軽く咳払いした。
「右足を負傷したコリンさんは、他にも村人が襲われるんじゃないかと危惧しました。すべては自分の責任だと――。ガーゴイルなんかを彫ったせいで悪しき命が宿ってしまったのだと自責の念に駆られたんだそうです。あの岩はきっと今までも夜になると動き回っていたんだ……と、そんな報告を部下から聞きまして、調べることにしました。ここもレナス伯領ですからね。民の不安はなるべく取り除きたい」
「なるほど、経緯はわかったわ。それで宮廷に来られなかったのね」
「ずっと部下とランパシーの村に逗留中だったんです。寝たきりになったコリンさんの頼みで、夜にガーゴイルが動き出さないように見張っていました」
そう、と私は呟いて、少しの間どんな言い方をするべきか考えた。
「伯爵……あなたの本当の狙いは何?」
「狙いとは?」
畑の大麦を揺らす淡い風の中、マクシミリアンが喜劇役者のように眉を持ち上げる。白々しい男だなと私は苦い気分になった。
間近で見れば一目瞭然。この岩は確かに巨大なガーゴイルの頭部を思わせるが、それだけだ。命の片鱗も宿っていない。もしも魔物の気配が少しでもあったら、ローラス王家の血を引く私なら必ず感知できる。岩石はどう取り繕っても、ただの岩石にすぎないのだ。
そしてそのことをマクシミリアンが理解していないはずがない。彼は態度こそ飄々としているが、頭は決して悪くなく、むしろその逆だと私は睨んでいる。
「とぼけても無駄よ、伯爵。この件をどう収拾する気? あなたのことだから既に何か考えがあるんじゃない?」
「どうもこうも。頭でいくら考えても、それだけで物事は解決しません」
「伯爵……」
「聞いてください、殿下。ぼくはレナス伯として無事にこの件を収めなくてはならない。怪我人も出ていますし、できれば何事もなく穏便に解決したいんです。じつのところ機会を待っていました。首を長くして」
「機会? どういうこと?」
「あなたがぼくを助けに来てくださるのを待っていた――と、ここは正直に打ち明けてしまいましょう。本当は期待していたんです。そして折り入って協力して頂きたいことがあります、他ならぬ殿下に」
まったく、やっぱりそうだったのか。この男、想像以上の曲者だと思いながら私はため息をついた。でも決して不快ではなく、油断するとなぜか口元がほころびそうになる。
「あなたらしい回りくどいやり方ね。それで何を協力すればいいの? 手短に教えて」
「では少しお耳をお借りします」
そしてマクシミリアンはしなやかに一歩下がると声を落とし、驚くべきことを語った。その突拍子もない内容に私は内心開いた口がふさがらなかったが――。
最終的には彼の提案を受け入れた。理由を尋ねられたら、こう答えるしかない。彼の仮説が本当に正しいのか、そのやり方で解決できるのか、好奇心を刺激されたからだ。端的に言うと面白そうだった。ここはひとつお手並み拝見といこう。




