10 真相
まもなく僕たちはハンスの肉屋に着いた。店は休業だったが、裏口に回って木戸を叩くとハンスが出てきた。僕とリズをはじめとした大勢の人の尋常ではない様子を見て、ハンスは事態を察したらしい。リズがバートラムの死体の話を切り出すと、大して悪あがきもせずに自分がやったと認めた。
「……バートラムに借金をしていたんです」
ハンスは淡々とした口ぶりでそう語った。
その弱みに付け込んでバートラムはハンスの外出中にひそかに訪ねてくると、彼の妻に不適切な要求を突きつけた。そちらの態度によっては借金の扱いを変えてもいいと卑劣な提案をしたのだという。まさにその最中、ハンスが外出から戻ってきて鉢合わせした。
かっとなったハンスは、たまたま近くにあった片手用ののこぎりを力任せに突き出し、するとそれがバートラムの服を切り裂いて胸の心臓を突き破り、声を出す暇もない一瞬のうちに絶命させてしまったのだという。
片手用ののこぎり?
「骨を切るために刃が波形になってる、骨鋸ってやつです……。無骨な荒い波形で、とくにうちのは使い込んでるから歯がボロボロに欠けてる。バートラムの破れた服と胸の傷口を見れば、誰の骨鋸かすぐにわかっちまうでしょう。だから骨鋸の痕跡を隠すために、よく研いだ包丁で胸の真ん中をきれいにくり抜いたんです」
ハンスの言葉は現実的で、なるほどと思わせる説得力があった。
「その作業中に、はたと思いました。心臓をくり抜くなんて、まるで伝説の心奪の魔法師みたいだなと……。だったらこの際、そいつの仕業に見せかけてやれと思って、妻に新しい服を買ってきてもらって死体に着せました。胸に穴のある裸の死体じゃ、どうしても肉の印象が強すぎて、魔法だと思ってもらえない気がしたんです。だから服を着せました。まあ大きさは微妙に合っていませんでしたが……」
バートラムは顔の広い金貸しだから、死体だけをひそかに処分しても様々な者に調べられて、いずれは突き止められる。人間関係という点においてハンスは極めて疑わしい立場にあるからだ。だったらむしろ恐怖の象徴である、伝説の心奪の魔法師の仕業にでも偽装した方が、まだ安全なように思えたのだとハンスは力なく語った。
こうして皆の前で自白したハンスは、駆けつけた治安官たちに連れていかれ、心奪の魔法師の騒ぎは速やかに終結した。束の間の嵐が過ぎ去り、皆は言葉少なに立ち去る。
「エドガーさん、そろそろわたしたちも行きましょう」
彼女が静かに言った。




