高級酒事件② 作戦会議
「ひとつ聞きたいことがある。答えたくなかったら、気にせずに言ってくれ」
「どんな質問する気なんですか」
アハハと笑い飛ばすが、ルイの表情は真剣そのもの。私、規約違反でもした!?と焦り始めたところで、ルイの口からは思いがけない言葉が飛び出した。
「恋人の有無が知りたい」
「…恋人ですか!?ええ〜?ナナちゃんは恋人より『推し』に命賭けてるのでいないと思いますよ」
「違う、エミリアに聞いてる」
え?私?びっくりしすぎてナナちゃんのことかと勘違いしちゃったよ。恥ずかしい。ちゃんと人の話は聞かないとね。大慌てで「いません」とだけ答えた。
「婚約者は?」
「私は貴族じゃないですし、そんな相手いませんよ」
「どんな相手に惹かれる?」
好きなタイプは?と聞かないところが何かもうお上品だね、ルイ。聞きたいことはひとつだけのはずだったのに、面接か何かですか?終始真剣な様子の彼に釣られ、私も真面目に返答する。
「一途で絶対に浮気しない誠実な人です。泥酔しているところに、世界を揺るがす爆美女が現れても、私のこと以外は眼中にない!みたいな!分かります!?私の中身を丸ごと好きでいてくれる人がいいですね!(早口)」
何を隠そう元彼と別れた原因は浮気だ。何なら私が浮気相手だったらしい。ふざけるなよ。
「じゃあ、相手は年上、年下、同い年。どれがいい?」
「年下…ですかね?」
元彼は年上だったし、私の周りで同い年の異性といえば騎士団所属の幼馴染が真っ先に思い浮かんだ。幼馴染は仕事には忠実だけど、女性関係は誠実とは言い難い…。
消去法で適当に答えたのに、ルイは「だよな?」ととっても嬉しそうに微笑んでいる。
「何か企んでます?突然どうしたんですか?」
「いやあ、本当に。自分でも分かんねえや」
「仕事のしすぎで疲れてるんじゃないですかね?更に追い打ちをかけて新境地を目指しましょう!ってことで、仕事の話しますね〜⭐︎」
「うわあ、絶対上司にしたくないタイプ」
「ルイが魔界のテッペンで良かったですね?」
「エミリアが部下になっても、厄介な気はするけどな」
「こんなにいい部下は中々いませんよ?」
ルイと冗談を言い合いながらも、しっかりと手は動かす。
ついこの前知り合ったばかりなのに、彼と話す時間はとても心地が良い。
「あれ?倉庫の平面図がない…ちょっと裏から取ってきます。すみません」
…心地よすぎて油断した。
「急いでないから何時間でもどうぞ」
「ありがとうお兄ちゃん…!」
「だからそれやめろ!」
ルイは突然のお兄ちゃん呼びに照れたようで、少し顔を赤くしている。超可愛いじゃん… !
魔王様ってこんなに可愛いものなのね?
そんなことを考えながら、エミリアは小走りで作業部屋へと向かった。
「こんにちは、魔王様。…遅くなりましたが、こちらをどうぞ」
ナナはお茶を出すタイミングを完全に見失っていて、エミリアが離席した隙に慌てて持ってきたのだ。
(だって魔王様ってもっとこう偉っそうで下界と関わるかよボケェ!なイメージがあったのに、エミリアさんとお話しする時の魔王様のあの穏やかで優しい顔といったら…恋人を見てるかのようなんですもの!さすがに邪魔はできないっ!)
「ありがとう、ナナさん」
「ヒエッ!私の名前覚えてくださってたんですね。てっきりエミリアさんにしか興味がないのかと思っていました」
まさか、とルイヴァンは苦笑し否定したが、何か思う事があったようだ。神妙な面持ちで口を開いた。
「……エミリアって魅了魔法の使い手?」
「そんな話は初めて聞きましたよ」
「そうか……」
(綺麗なお顔が憂いを帯びているので、私が話を聞いてあげるべき?……私に解決できるといいのだけれど)
「…あのう、何か気になることがございましたか?」
「…いやー、四六時中エミリアの笑った顔と台詞が頭に浮かんできて、非常に困惑しているといいますか。顔が見たくてたまらないといいますか」
ナナは『それってエミリアさんのことを好きになられたということではないでしょうか?』という言葉を必死に飲み込んだ。
(魔王様の感覚は人とは違うのかもしれないし、下手なことを言うのはやめておきましょう…)
「…………季節の変わり目で、心も乱れるのでしょうか?」
必死に考えた結果、季節が味方をしてくれた。←
少々苦しい言い訳かと思ったが…
「え………?あー、そういうことか…。腑に落ちたわ。ナナさん天才だな」
ルイヴァンはあっさり信じていた。
「鈍感すぎやしませんか!?ええ!?」
「そうでもないと思うけど」
(いやいやいや、鈍感ですよ。何ですか季節の変わり目って!)
(絶対あれだよこの人。小さい時からモテすぎてトラウマある系の人なのよ。幼少期からあまりにも美しいものだから、信頼し慕っていた侍女に襲われそうになって、そこから女嫌いなのよ。そんな彼だからこそ、まさか自分が女性を好きになる日がくるなんて思いもよらないんだわ。きっとそうよ。つまりこれが初恋なのね…!?)
ナナの脳内では、偏見と妄想が大暴走していた。
兎にも角にも彼の恋心を利用して、これからも万屋にどんどんお金を落としてもらおう!と、ナナは考えた。←
「まずは万屋に足繁く通って、エミリアさんとの仲を深めていきましょう!そうすれば、季節の変わり目でも情緒は安定してくるかと!もちろんこのことについては、誰にも言いませんので安心してくださいね?」
「何から何までありがとうございます」
(私は格下すぎるのに、魔王様がなぜかペコリと頭を下げていらっしゃるわ。なんてピュアな方なのかしら)
「一部エミリアさん目当ての依頼者がいらっしゃるので、魔王様も根気よく短いスパンで通ってくださいねッ⭐︎」←煽ってる。
「…………ちょっと待って、客の中にプライベートでも会ってるようなやつがいたり…あー、聞きたくねえ…胃が痛くなってきた」
「いないと思いますよ〜、今のところは⭐︎」
エミリアさんは第一印象でよく好感を持たれるんだけど、見た目どおりのふわっふわぁ〜な性格しているかと思いきや大間違い。中身はアル中で逞しくて毒舌で血気盛ん。そこのギャップで冷めちゃう人が大半。でも分かっていない。このギャップこそが最大の沼。好きなったらもう抜け出せない…!
魔王様見る目ある〜〜!!!
それに魔王様って思ってた以上に話しやすい。
「エミリアさん、たまに常連さんからプレゼント貰うんですよね。アクセサリーは突っ返してるんですが、お酒だけは受け取ってて。お酒を受け取ったときのエミリアさんの顔、目がキラッキラしててすごく可愛いんですよねぇ。庇護欲をくすぐられるというか。プレゼントなら酒一択です」
「アクセサリーをプレゼントって、ガチのやつじゃん…。あーでもめちゃくちゃ分かる…俺があげた物を毎日身に付けてくれてるとか想像しただけで嬉し泣き止まらん。肌だぞ肌。エミリアの肌に直接、俺の、プレゼントが。泣ける、尊すぎて死ぬ。これも季節の影響か……甘く見てたわ」
ナナはルイヴァンにアドバイスを伝え続けるが、煽りまくっていることに気付いていない。←
そうこうしていると、やっとエミリアが戻ってきた。
「すみませんっ!なぜか本の山に埋もれてて、救出に時間かかっちゃいました」
「いいよ、何日でも待つ」
「それはさすがに帰りましょ?あ、ナナちゃんお茶ありがとう〜!」
「お気になさらず!お二人でゆっくりお話されてくださいね♪」
「それが魔王様は仕事が立て込んでるみたいなの。私の事前準備が甘くて更に時間無駄にしちゃったから。でもルイ、安心してください!五分以内で帰れるように全力を尽くします」
「……俺は何時間でも何日でもここにいたいけど」
「何言ってるんですか〜!いつも仕事の合間に抜けてきてますよね?部下を困らせたら駄目ですよ」
あと五分でエミリアさんとの時間が終わるとなって、魔王様が少しショックを受けている!?と察したナナは、ここでまた営業トークをぶち込んだ。
「そうですよねぇ!お忙しいですよね!出張費用も出して頂けるなら、指定した場所に出向いてお話をすることも可能ですよ?料金表お渡ししておきますね♪」
「さすが、営業うまいな」
魔王様が私の営業能力を褒めてくださっている隙に、『夕刻に出張した場合、業務が終わり次第直帰なので、完全にプライベートです!!夕食ご一緒するのはどうでしょうか?応援しています♪』と書き足した。
「では、私は外出しますのでエミリアさんお店お願いしますね〜」
ルンルンなナナちゃんをルイと二人で見送り、目の前の彼に資料と地図を見せながら話を切り出そうとしたが…
ルイは先程の料金表に釘付けだ。興味あるのかな?…まあ、忙しいんだもんね。魔王様だもんね。そりゃそうか。
「もっと早くお伝えするべきでしたね…すみません」
「いや、全然?同じ紙を店にも貼ってくれてるし、俺がちゃんと見てなかった。……それよりさ、これって依頼相手が自宅指定した時も行ってる?危険な時とかないの?」
「依頼人の身辺調査は最初に店長がやってくれてますし、危ない時とかはなかったですかね…?追加料金もかかるので、あまり利用する人がいなくて、今まで二回しか行ったことないんですけどね」
「へえ…」
「もしかして、心配してくれてます?」
「多方面で心配してる。エミリアに何かあったら、相手はどう始末したものか…」
「ルイって魔王の鏡ですね…!一市民の私をそこまで心配してくれるなんて…!良い噂流しときます」
(ウインクしてまかせろ!とでも言いたげに親指をたててるけど、魔王目線で言ったわけじゃないんだよな。本当に猪突猛進なエミリアが個人的に心配で……)
げんなりするルイヴァンに、エミリアは早速仕事の話を始めた。
酒蔵で王城専用の高級車が作られた後、全てが城の倉庫に行くはずが、最近はなぜか街中のとある倉庫にも運び込まれているらしい。
これは店長お得意の裏情報網をのおかげだ。
私一人がいくら聞き込みをしたところで、この情報には辿り着かなかっただろう。
「というわけで街倉庫に潜入をして、取引現場なり書類なりで証拠を押さえるのが手っ取り早いと思うんです。これが倉庫の平面図で…あ、ほら、ここからフラッと潜入できそうじゃないですか?」
「ここが一番出入り多いだろうし、エミリアのフラッとはフラッとじゃないと思う」
「信用ないなあ。じゃあ…こことかどうです?」
「壁ブチ破る気か?潜入の意味ねえ…」
「やっぱり駄目ですか。ん〜…あ!ここは?」
「…うん、そこからが一番現実的だな」
善は急げで今夜決行すると伝えると、ルイもついてくるらしい。
「ま、また!?またですか!?…失礼ですけど、暇…なわけないですもんね。頭おかしくなるくらいには、お仕事お忙しいですよね?何か分かり次第夜中だろうと電話するので、大人しくお城で仕事しててください」
「(クッソ忙しいけど、エミリアに会う事で結果的に仕事の効率は上がるし)気にしなくて大丈夫。俺も行く」
「頑固だなあ」
「闇市での行動見てたら心臓いくつあっても足りないと思うんですよねー。俺いなかったら悪い意味でどうにかなってたと思うんですよねー」
ルイは笑顔だけど、絶対に目が笑っていない。ブラックスマイル…!これは面倒だ…!
「その節はありがとうございました。是非一緒に行きましょう!」
現地集合で、と伝えると万屋まで迎えにくると押し切られてしまった。理由は私が先に潜入しそうだからとのことで。
過保護…!あまりにも過保護!
面倒見良すぎて逆に心配になってきた。
ルイ自身が、王城で都合のいいように使われてないといいけど。
心配しつつも無事に彼を追い返し、静かになった店内で独り言が溢れる。
「報告書全然終わってないや…溜まる一方…」
毎回ルイが同行しているからいらない気もするけど、店の決まりだし、ちゃんとコピーもとっておかないと店長が面倒くさいもんなあ。
「あー……飲みたい……」
流石に潜入前に酒臭いと、相手にバレる危険性があるからね…あー酒が飲みたい。超飲みたい。今日の潜入が無事に終わったら…いや終わらなくても飲もう!絶対飲む!
仕事中ストレスが溜まってきたら…というかほぼ毎日なんだけど、すぐお酒に走っちゃうんだよねえ…
飲みすぎるから酒の匂いが消える薬も愛飲しているが、それも毎日となると…金額も馬鹿にならないのよね。今日は我慢しよう…。
「さあ、やるぞ…」
その後はというと。
私の決意は何処へ。報告書を全部仕上げたご褒美に、とワインを開けてしまいました。現場からは以上です。




