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高級酒事件③ 証拠


さあ、いよいよやってきました潜入タイム!

街倉庫も目の前!これから乗り込むぞ⭐︎って時に、今日の夕食の話題になったことが運の尽き。


先程まで一緒に隣を歩いていたはずのルイ。それが何故か突然立ち止まり、ドス黒い笑顔を浮かべている。怖い、怖いて。何があったの。


私の夕食の話で、どこか怒る部分あった?


アッ…………、もしかして私が酒臭いから?


それとも、仕事が忙しすぎて俺は夕食まだなのに!という嫉妬(?)からか?



「さっき『幼馴染と血まみレストランで食事してきました』って言った?」


相変わらずドス黒笑顔でジリジリと詰め寄ってくるので、「怖いてお兄ちゃん…!」と思わず逃げだしたけれど。街倉庫の外壁に壁ドンされました……。いや、潜入先の建物の壁で何やってるんだ私達。


魔界は夜型種族も多いので、一本向こうの大通りには人々が多く行き交っている。倉庫の周りも酔っ払いだったりカップルだったりが通行するが、私達のことは誰も気にも留めない。


きっと恋人同士が戯れあっているだけにしか見えないだろう。魔界人て自由だし大胆だしね?


長身のルイが身を屈め、私の顔を真っ直ぐ見つめている。



何この状況。



「え?何か近くないですか?

万屋に仕事前の幼馴染が来てご飯誘われたから着いてったらめちゃくちゃ美味しかった!ワイン飲み過ぎて会計すごい額だったのに、謎に奢ってくれました!って話は確かにしましたけど……」


「俺達つい数時間前まで一緒にいて、夕刻からまた落ち合う約束だったよな?俺との約束の前に他の男と会うとは、いい度胸だなー」


「何で嫉妬した彼氏みたいなセリフ言ってるんですか」


「彼氏…………」



やばい。



ルイの顔が真顔になった。


「ボケたつもりなんです、魔王様に変なこと言ってごめんなさい」


これ私の方からちょっっと顔を近付けたらKiss(キッス)できるぐらい近いよ。いやしないけど。したら殺されるし。殺されなくてもしないけど。何言ってるの私。


あー、だめだ。息止めとかないとアルコールの匂いが……



ルイの距離感が明らかにおかしいので、この話を早く終わらせたい。私は早口で捲し立てた。


「ちょっと一旦離れません?お願いしますはやく離れましょう、このままだとアルコール臭がルイにも」


「俺もエミリアと食事に行きたい」


「そうですよね、お腹空きましたよね。お仕事お疲れ様でした!私だけ食べて飲んですみません。大通りで何か買ってきましょうか!?」


「そうじゃなくて、俺もエミリアと二人で出掛けたい」


?????


「今も二人で出掛「今は勤務中だよな?俺は仕事以外でも、個人的に会いたいと思ってる」


「え?何のために?」


ルイヴァンは何のため?と聞かれても、『エミリアに会いたい』という感情しかでてこないのだ。


「………友人として、仲良くなりたくて……」


自分から迫ったくせに、エミリアの顔が近過ぎてようやく我に帰ったルイヴァン。彼の緊張はピークに達し、ようやく絞り出した声は今にも消えそうだった。


「なるほど!そういうことなら私からも是非お願いします。食事の件は、ちょっと考えさせてください」


「(考えるって、何を?二人で出掛けるのは無理ってことか?怖すぎて聞けねえ…)…………とりあえず、倉庫………入るか…………」


壁ドンから解き放たれたエミリアは、様子のおかしいルイを怪しんでいた。



(やっぱりルイ、お腹空いてる?)




…見当違いも甚だしかった。






その後、しれっと潜入調査開始。


倉庫内は所々明かりがついていて、少数だが人の出入りもある。


今日の衣装は帽子に作業服といういかにもな倉庫管理者っぽさを出してみた。

ルイもいつの間にか地味な作業服に変わっている。倉庫に入るまでは黒のローブを被っていたのに、いつの間に。そもそもローブはどこにいったんだろう?両手は空いてるし身軽。


ははーん、これは魔法だね。

説明がつかないことは大体魔法か、その種族の特性だからね。いいよね、私にはこれといったものがない。


だから気合と根性でこの仕事をしている。

大ピンチこそ楽しいのだ。


今日は何ともスリルのある潜入調査。超楽しい。


ルイが先頭を歩いてくれているので、その辺にあったカートを押す倉庫関係者になりすまし、建物の奥を目指す。


平面図ではこの奥にいくつかの部屋があり、突き当たりに二階へと続く階段がある。


さりげなく辺りを見回しながら歩いていると、ちょうど新しい荷物が運び込まれたようだ。

何枚もの布で覆われていたが、隙間から王城専用酒のラベルが覗いている。


ルイも気付いていたようで、「詰めが甘い」と鼻で笑っている。

余裕だなあ。ルイも私と同じでかなり楽しんでるよね?



二階へと続く階段の手前には見張りだろうか?男が一人立っている。


倉庫内は山積みにされた荷物で溢れかえっており、死角が多い。ルイに言われるがまま、高く積まれた木箱の裏に身を隠した。


彼は「ちょっと待ってて」というと私に背を向け歩き出し…と思ったら振り返り「絶対動くなよ?」と念押し。過保護具合に思わず笑って頷き、大人しくその場で待つ。ルイは数秒でまた戻ってきた。


「影からの情報で、見張りは階段下と部屋の前に一人ずつ、部屋の中は三人が雑談してるらしい」


「影?誰かの名前ですか?」


「影は護衛のこと。名前はポチ」


ま、魔王感ーーー!!影と呼ばれる護衛がいるなんて!名前がペット感あるけどそれは置いといて。


貴族ってすごいなあ…。スケールが違うや。


興味本位で高い天井や左右を目視確認するが、護衛らしき人は見当たらない。 


「影………どこだ」



こちらを見ていたルイと目が合う。どうやら彼は私の行動を見守ってくれていたようだ。なんかちょっと微笑んでるし。幼い子供でも見ているつもりなのか。


「じゃあ、行くか。ポチが見張りを気絶させてるから」


「は、はい」


気絶?目立った物音なんて聞こえなかったけどなあ。

…これ絶対私一人じゃどうにもなってないやつだ。


二階へと続く階段には、気絶しているはずの見張り番がいない。…どこに行っ、いや連れて行かれたんだろう?ちょっと怖いから聞かないでおく。


目的の部屋は二階の中でも一番奥に位置している。

もちろん部屋の前にいたはずの見張りも消え去っている。


このまま順調にいけば、今日で解決するかもしれない。順調すぎて心の中で高笑いが止まらない。まあ、私は何もしてないんだけど。


道中、私の行きつけの酒場のポスターが貼ってあった。


そうそう、ルイと行くならここに連れて行きたいんだよね。私でも手が届く価格帯だし、お酒はもちろん料理も洗練されていて美味しい。オススメは蜘蛛の唐揚げ。あれ?でもルイって普段何食べてるんだろう?……………まあ、いいか。ルイなら嫌だったら容赦なく却下するだろうし。何てったって、魔王だからね。


絶対今じゃないんだけど、ど〜〜してもこの店のことを伝えたかった私は、前を歩くルイの服の裾を引っ張ろう…としたけれど。いかにも高級そうな生地だし破れたり、指紋をつけたら良くない気がする。静まり返ったこの廊下で声を出すのも違うし。でもはやくしないと行っちゃう!と慌てた私は、後ろからルイの手首をぐいっと掴んで自分の方に引き寄せた。


あ、やばい。これって不敬罪では?


ルイの肩が小さく震えたのが分かった。余程驚いたのか、しばらく顔は前に向けたままで振り返りもしない。


……完全にこれはやらかしてしまったやつだ。


私は何事もなかったかのようにスーッと掴んでいた手を離すと、彼がようやくこちらを振り返った。


「………どうした?」


「えっと……ルイ、顔赤くないですか……あ、怒ってますか……?すみません。……え、私不敬罪で殺されます?」


「……………………勘弁して」


やばい私死ぬうううう!!


ルイは片手で赤い顔を隠している。怒りが抑え切れないのだろうか…。


私たちがモダモダしていると、後ろからたまたま来たであろう男に怪しまれてしまった。だがその男の「おい、そこの」まで喋ったところで声は途切れ、床にバタンと倒れ込む。怒りを抑えきれないルイが多分魔法をなんだかんだして倒したんだと思う。



コ ワ イ……



私の頭が警笛を鳴らす。



(一刻も早く証拠を見つけて、ルイに差し出したら処刑は免れる…!?)


私は酒場のポスターをクシャッと丸めポケットに突っ込み、壁に立て掛けられたモップを持って目的の部屋まで走り出した。


「ちょ、おい!一人で行くな!」


「し、死にたくないんです!本当にすみませんでしたああああ!」


「はあ!?今自分から死にに行ってるくせに何言ってんだ」


「追いかけてこないでくださいいいい」


走る私をルイはそれ以上の速さで追いかけてくる。


流石に騒ぎすぎたか、部屋から男達がゾロゾロと出てきてくれた。

「何だお前らァ!侵入者かァーー!」


「そうですそうですーー!!そのままでいてくださいよ!?」


「何言ってんだ小娘ッ!」


男達はナイフや魔道具を構えていたが、そんなの今の私にはどうでもいい。

とにかく体張らなけりゃ、惨殺される。こんなチンピラより、魔王に殺される方が怖い。


猛ダッシュの勢いでモップの先端を男の腹に突き立てようとしたが、それより前に男が倒れる方が早かった。


後の二人も一瞬にして倒れてしまった。


「ちょっとルイいいい!私が殺らないと意味ないんですけど!?」


勢いよく振り返って、すぐ後ろまで追ってきたルイにモップを向ける。魔王相手にモップで何ができるというのか。


「とりあえず落ち着けって!」


「殺られる前に殺るのみ…私がルイを倒して魔王になったら、墓場からアドバイスくださいね」


ルイに真顔で「訳分かんねえから説明して」と言われたので、『手を掴んで近付いたせいでルイが顔を真っ赤にして激怒→私が不敬罪になる→減刑するために男三人組を倒そうとした』という一連の説明をした。話の途中から徐々にルイの口角が緩み、ついには


「もう阿保すぎて無理…」


と言ってお腹を抱えてゲラゲラ笑い始めた。


いや、私も説明しながらどこの阿保の話をしてるのかと思ったよ。そしてルイはどうして笑ってるんだろう。怒ってるんじゃないの?分かんない。魔王が分かんない。取扱説明書ほしい。


「あー腹痛え…。あれは怒ってたんじゃなくて、驚いたのと普通に照れただけだ」


薄暗い廊下で手を掴まれたから驚いた。これについては理解できるけど、照れた?あの魔王が?

真っ赤になってたのもそういうこと?

あの時のルイの心境を想像するが…今度は私がゲラゲラと笑い出してしまった。


「本当に魔王ですよね?手首で照れるって何ですか。許可なく触ってしまったことは申し訳ないですが」


「エミリアと違って俺はピュアだから」


「真顔で言わないでくださいよ。胡散臭さ増してます」


「どこまでも失礼な奴だな」


いやあ、潜入調査中にこんなに爆笑することがあるとは思わなかったや。


扉の手前で倒れている男達を跨いで、カビ臭い部屋の中へと入る。壁一面に古びた棚が並び、所狭しとファイルや物流関連の本が並ぶ。中央のテーブルの上には紙の束が煩雑に置かれていた。


「「あ、あった」」


専用酒の流通経路や時間、関係者らしき人の名前がメモされたものなど。証拠が全てご丁寧に並んでいる。



「もっと大事なところに隠すか燃やすかしておいてほしいですね」


「こいつらはポンコツだったな」



私が次にルイを見た時には、作業服から貴族らしい服に着替えいた。いつの間に…。魔法って便利。


ルイはジャケットのポケットから手のひらサイズの石を取り出し、誰かと会話を始めた。あれは『通信石』と呼ばれるもので、魔石に魔力を流すと、魔石を持つもの同士で会話ができる。通信石を持っているのは、大体が貴族である。それもそのはず、かなり高価な品だから。私も実物を見るのは初めてだ。


通信が終わると、すぐに一階が騒がしくなった。ルイが仲間を呼んだのだろう。多分騎士団の人だと思う。


「暗闇は平気?」  


「大好きです」


「……これ被って俺の後ろ立ってて」


「はい?」


私が答えると同時に、頭上からバサっ!と黒い布が被せられた。これは多分ルイのジャケット?石鹸のような甘い香りがしている。


「……私って人目に触れたらやばい奴でしたっけ?」


「騎士に見られたら面倒だから」


「ああ、事情聴取的なやつですか。確かに面倒ですね。はやく帰って晩酌したいです」


「すぐに終わらせるから待ってて。途中まで送る」


「大丈夫ですよ?慣れた道なので一人で帰れます」


「…俺の誘いを断るとは……」


「皆さんの仕事の邪魔したくないですし、送られるほどの距離でもないので」


「俺はエミリアと話したいんだけど」


「話?何ですか?今でも大丈夫ですよ?」


ルイは今どんな表情をしているのだろう?視界が真っ暗で何も見えない。


送る!必要ない!と押し問答していると、大勢の足音が近づいてきた。


そして凛とした男性の声が響いた。


「魔王陛下、現場の制圧までしていただき感謝申し上げます。只今より部屋を調べさせていただきます」


「よろしく」



視界は遮られているけど、魔王の一言で空気が変わったのがわかった。リーダーらしき人が持ち場を指示し、各々が動き始めたようだ。


すごい、なんか良くわかんないけどルイが部下を従えている。


「魔王っぽい………」


独り言のつもりだったが、ルイには「ぽいじゃなくて魔王本人」と突っ込まれてしまった。


側近のアレンは、ルイの背後にいるジャケットを被った妙な人物に疑問を抱きながらも、いつも通りルイヴァンに話しかけた。


「モリアーティン伯爵が魔法を使用し屋敷に立て篭もったとの連絡がありました。魔法騎士団も応戦しているのですが、数名負傷しており少し時間がかかりそうです。」


ルイヴァンとアレンは幼馴染で、気心知れた中だが、王城関係者がいる場では主君と臣下として接している。


しかし敬語で本音は言いにくい。アレンは王城騎士団に悟られないような位置に周り、ルイヴァンに小声で耳打ちする。

「ルイ、今すぐ伯爵の所に行ってくれない?伯爵側も何か勘付いてみたいでね、何人か面倒な奴を雇ってるらしい。ポチ君もストレス溜まってるみたいだからさ、一緒に連れていって暴れさせてきてよ。本当にポチ君ってルイがいないと手に負えなくてさあ…」


「……ポチの機嫌取っておくか。…三分以内に片付けたい」


もちろんエミリアには何も聞こえていない。

自分のやるべき仕事は終わったので、彼女は『いつまでこうしていればいいのかなあ〜、家にあんまりお酒ないよなあ〜…酒屋でも行こうかなあ〜』といつものことながら酒のことしか頭になかった。


そんなこととは知らず、ルイヴァンが話しかけた。


「エミリア、ちょっと待ってて。一瞬抜ける」


「分かりました。………これまだ被ってた方がいいですか?」


「もちろん」


「分かりました。いってらっしゃい、お兄ちゃん」


「だからそれやめろ」


そんな二人のやり取りを見たアレンは困惑していた。


(女性の声だ。しかし、ルイに妹はいない。それにあのルイの顔………あんなに優しい顔をした彼を初めて見たように思う。………相手の女性はずっとジャケットを頭から被って棒立ちしているけれど……理由は?ルイはなぜそれを被せている?もしや魔物……?まさかルイは魔物に惹かれてしまったのだろうか?魔法で人型にはできたけど顔はそのまま?サイズ感だけでいうと、赤黒い顔から触覚がたくさん出てるタイプの魔物かなあ)


……アレンは斜め上の的外れな推理をしていた。


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