表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/8

あたしのことで喧嘩が起きてしまった

「本日の行動方針をご説明します」


 食事を終えて、リオンが口を開く。3人で話をするとなったので洗い物はグリスにお願いした。リビングに3人、机越しに向かい合う。


「わたくしは村の人々から情報収集をさせていただきます。人々がどのような思想を以てして、裸であることに固執しているのか。なぜ裸であることが健康の礎であると信じてやまないのか、理由を知りたいので」

「了解。さっそくの質問になってしまって申し訳ないけれど、それは呪妖の解決につながる行動だと捉えて問題ない?」

「はい。––––昨日は話が途中で終わってしまいましたが、呪妖が持つ2つの特性、『人間の思想に対する影響』と『半永久的な蘇生』は相互に関与していて、同時に解決することが呪妖の寛解につながる、とわたくし含む王都の人間は考えています」


 すなわち、呪妖Ic-011/Dを寛解に導きたいのであれば、タルト村における問題の解決へ働きかけつつ、同時期にあの妖精を討伐する必要がある、とリオンは主張している。


「我々は聖堂における異変を直視したのみで、村の人間と真摯に向き合っておりません。といってもメイさんやシエラさんは裸の人間とあまり関わりたくないでしょうから、わたくしが情報収集に努めて参ります」


 別にあたしでなくとも知らない露出狂は避けたいだろう、とメイは思った。


「私は何をすれば良いんだ?」

「シエラさんは続けて救いの森の調査を。––––いつでも呪妖Ic-011/Dを戦闘の観点から解決できる状態にしておきたいので」

「わかった。あまりやることはねーと思うがな。場所さえ特定してれば一撃で仕留められることは分かりきっているし、その生息地もこの数日で大体覚えたから」

「おっしゃる通りだと思います。そのため、シエラさんは救いの森の調査があらかた終わり次第、わたくしとは別行動で村の調査を行っていただければ」

「おいおい結局じゃあ私は裸の人らと会話しなければならないのか」

「別に女性だけでも良いです」

「女性なら良いとは言っていないが⋯⋯」

「どうしても嫌というなら」

「そういう訳ではない。あくまでさっきの発言との矛盾を指摘しただけだ。呪妖とやらをカンカイ? するためなんだったら、当然協力する」

「ありがとうございます」

「あたしは、今日何かすることある?」

「メイさんは、本日も待機でお願いします。村、ないしは救いの森で何かが起きたときのため、バッファー、控えのような者として機能していただきたく」

「りょーかい」


 「では、本日はこの役割で⋯⋯」とリオンが会議を締めかけたとき、眉をひそめたシエラが話を遮った。


「おい、姫様」

「はい。何かご質問が?」

「いや、こいつ⋯⋯メイのことだが」

「あたしのこと?」

「ああ。お前」

「メイさんがどうかされましたか」

「この3日間、ずっと待機させられていると思うが」

「メイさんはバッファーなので。何かご不都合が?」

「おかしいと思わないか? 私は姫様の指示でメイ⋯⋯にわざわざ剣まで向けて、無理言ってこの問題に付き合ってもらっている訳だ。それなのにこいつに与えられた仕事は、依頼者宅での待機と、ご飯の用意だけ。何だか雑用みたいで、私は気に食わない」


 シエラはメイにとって意外な主張をした。どうもメイが最前線でなくバックアップとしてしか機能していないこと、リオンがそのような指揮しか取っていないことが、彼女にとって気がかりだったようだ。


「気遣ってくれてありがとう、シエラ。あたしは気にしていないから、大丈夫だよ。むしろあたしの能力を鑑みれば2人についていくのが最適だろうし、それに、バッファーって役割は一見仕事がなさそうだけど、柔軟性がないと対応できないから、あたしは十分に仕事を与えられているって感じてる」

「本人はそう答えるしかないかもな。指揮官である姫様が目の前に居るわけだし。でも、実際問題、国政を担う姫様がコミュニケーションを担当して、私が戦闘を担当している現状、緊急でお前⋯⋯メイが出なければならない事態が発生するとは思えない。そして、仮にそう言った事態が起きたとしても、それはきっとメイじゃ対応できない重大案件だと思う。冒険者としての能力を下に見ているつもりはない。たとえ誰がバックアップであっても私は同じことを言う」


 シエラは案外情熱的であった。きっと––––それはメイの推測にすぎないが––––勇者として王都を護る責務を幼い頃から背負っていた彼女にとって、表舞台に関わらない仕事を与え続けられる状況というのは、無能宣言されていると同等の解釈なのだろう。メイは今の扱いは下積みのようで、むしろ2人の信頼を得るチャンスとすら捉えていたわけだが、華々しい活躍の場がないことをシエラはずっと意識してくれたようだった。


「そうだね。シエラの言う事は一理あると思う。さっきの回答とは別の視点になってしまうけれど、リオンは指揮をとって責任を取る立場だから、万が一のことを考えるとあたしに無理な仕事は振れないんじゃないかな、とも思うよ。だから今の役割分担になるのもあたしは納得できる」

「メイさん、わたくしの立場を代弁してくださり、ありがとうございます。わたくしからお答えするとどうも自己防衛のようで見苦しいですが、ただ1つ、シエラさんにお伝えさせてください。1つの仕事を遂行する上で最悪の事態が生じたとき、それで全てが崩れてしまわないような体制を、わたくしは常に意識していますの。だからメイさんには今のような立場を受け入れてもらっているのです。3人が前線に出て3人が失敗したとき、それは取り返しのつかない事態となります」

「仕事がどーだか知らねえけど、呪妖の問題は世界平和に関わるかもしれねーんだろ? 失敗したときはどうせ世界の終わりじゃねーか。なら私は、最低の事態を想定した安定重視の人材配置よりも、不安定覚悟で高いパフォーマンスを発揮できる可能性を秘めた体制のほうが必要なんじゃねーかと思うな」


 常に最前線で戦ってきた勇者と、国を担う使命を負った王女。異なる価値観の2人が、メイの処遇で対立する。「そもそもこいつに無理な仕事が振れねーなら初めから私の姫様の2人で良かっただろ」とシエラは追撃した。リオンは表情を変えるでも聞かないフリをするのでもなく、ただ言葉をじっくりと噛み締めたように「そうかもしれないですね」と答えた。


「シエラさん。気分を害してしまったのなら申し訳ないですわ。ただ、わたくしもノープランで行動している訳ではないのです。⋯⋯タルト村の問題が解決するまでに、それでもまだメイさんへはっきりとした仕事が割り振られていないのであれば、その時にまたわたくしを批判してください。どのような形で責任を取るかは即座にお答えできませんが、相応の覚悟はできているつもりです」

「責任を取って欲しいわけではない。考えがあるのなら私は咎めない。ある程度、こいつのヘイトを溜めすぎない範囲でな」


 メイはシエラと軽く目が合った。「ええ、もちろん」とだけリオンは答えて、情報収集のため家を出る。


 納得したのか分からないような顔つきのシエラと2人、メイは部屋に取り残された。自然豊かな村だから、こう静かにすると家の外にいる鳥の鳴き声なんかが聞こえてくる。


 そういえば彼女としっかり会話するのは初めてかもしれない、と思いつつ、メイはシエラに声をかけた。彼女も大事な仕事仲間である。


「ありがとね」

「何がだ?」

「あたしのこと気にかけてくれていたみたいで。ちょっと意外だった」

「⋯⋯別にそんなつもりはなかったが」

「あたしがそう思ってるからそういうことなの。だって分かんないじゃん。初対面で殺しかけてくるような人が、普段何考えているかなんて」

「あれは指示を受けただけだからな!?」


 立ち上がったシエラの表情に、メイはどこか幼さを覚える。


「リオンに気を遣ってるとかじゃなくて、本当にあたしは気にしていないの。チームで何かを成し遂げるなら、対立や偏りは必然的に生じると思うから」

「経験があるのか?」

「あっ、いや」


 OL時代の話をしても仕方ないので、メイは口を噤む。


「あのさ、私も詳しくねーけど、冒険者の中で最速のマスターランク達成者なんだろ? たくさんクエストを消化できる中で、その時間を割いてこの村の問題と向き合っている訳だ。そのレベルの冒険者に家事をやらせているだけの状況に、私は引っかかってたってだけだ」

「ご飯作るの楽しいよ? みんな美味しいって言ってくれるし。シエラもさ」

「そういう問題じゃねえよ」

「あたしはあたしなりに2人の力になりたいからさ、こうやって気を遣ってくれるだけでも嬉しい。勇者様の意外な一面も見られるし」

「意外な一面?」

「うん。ちょっと不器用なところとか」

「どこがだよッ!」

「うーん、例えば、あたしのことなんて呼ぶか悩んでそうなところとか」

「⋯⋯っ」


 いつも無表情な彼女の顔が、露骨に赤らんでいる。


「メイ、で良いよ」

「別にずっとそう呼んでるだろ⋯⋯」

「そのつもりならいいけど」

「そのつもりだ」

「そっか。じゃあ、これからもメイでよろしくねっ」

「⋯⋯私はもう出るぞ。救いの森を見に行かなければならないから」


 彼女がまだ19ほどの少女であることは、王都に住んでいれば何となく耳に入ってくる情報であるが、こうも実際の若さを見せられると可愛く思えて仕方ない。勇者様の普段は見られない一面を、メイはどうしてもくすぐりたくなってしまう。


「了解。これからも頑張ろうね、シエラ」

「⋯⋯おう」

「メイって言ってよ〜」


 黙りこくったシエラは、抜刀したその剣を突然メイに向ける。かつての妖精に向けたような魔力は一切感じられない。寝床を襲われたときと違って、メイにも全くの緊張感がない。


「いいか。私がこの剣を人に振りかざすのは、本当に大切なものを護りたいだけだ」

「は、はあ」


 それだけ言ってシエラは家を出た。わざわざ自らに剣を向けてまで護りたいものがプライドだったとしたら、随分と可愛いものだとメイは思った。


 素性のしれなかったパーティメンバーの、意外なあどけなさが垣間見えた。これも大事な仕事だし、労働の醍醐味のように思う。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ