別世界
人助けが好きだった。
昔、困っていた友達を助けてあげた時から、世界が変わって見えるようになった。
右を見れば忘れ物をしている人が、左を見れば重たい荷物を運ぼうとしている人が。少し意識して周りを見るだけでも、困っている人はたくさんいることに気付いた。
それから、積極的に人助けをするようになった。忘れた物を貸してあげたり、一緒に荷物を運んであげたり。仲直りの手伝いもしたし、恋のキューピットになったこともあった。
人助けをすることで、みんなが幸せになれる。自分が少し苦労するだけで、みんなを笑顔にできる。
それが、自分よりも他人を優先し、人助けを生きがいとする風槍秋斗という男の性格だった。
ある日のこと、夜の街を一人歩いていた時だった。ビリビリという音とともに、路地裏の方から少し光が漏れていた。
すぐ光は収まり、音も聞こえなくなった。
「なんだ、今の……?」
路地裏の方を見るが、暗くて何も見えない。しかし、気になったので奥まで進んでみることにした。
夜の路地裏はとても暗く、スマホの灯りを頼りにして慎重に進む。
路地裏の奥まで来ると、誰かが倒れているのが見えた。
「……!だ、大丈夫か!?」
急いで駆け寄り、その人物を確認する。フードのついたローブを纏っており、僅かに見える灰色の髪はフードにより覆われている。外人なのか紫色の瞳をしており、背丈は小学生くらいの子供だった。
「うぅ……痛い……」
意識を取り戻したのか、少女がゆっくりと目を開けて起き上がる。
「き、気が付いたか?なんでこんなところに子供が……とにかく、警察に連絡を」
「──っ、君だ……」
そう呟くと、ローブを纏った少女が小さな目を大きく見開いて、こちらに迫ってきた。
「ね、ねぇ……君、人間……?」
「え?な、何言ってんだ?もしかして、記憶障害か……?それなら、救急車にも」
「に、人間?本当に……?」
「あ、ああ……人間だけど……」
しつこく人間かどうかの確認をしてくる女の子。ふざけている様子には見えず、その気迫に押されて思わずそう返してしまう。
(なんだこの子……よく見たら裸足だし、格好もおかしいよな……普通の子供には見えないし……)
やはり警察に届けよう。そう考えた時、女の子が縋り付くように呟いた。
「お願い……シアン達を、助けて……」
その言葉を聞いた瞬間、今まで頭で考えていたことが全て吹き飛んだ。
「分かった」
「えっ……?」
即答されるとは思わなかったのか、女の子はポカンと口を開けて秋斗を見た。
「い、いいの……?」
「ああ、何か困ってるんだろ?大丈夫だ、俺が助けてやる」
この女の子が何者なのかは分からない。だが、助けを求められたなら、助けないわけにはいかなかった。例え、面倒ごとに巻き込まれてしまったとしても。
「あ、ありがとう……じゃあ、早速移動、しないと……」
女の子は傍に落ちていた杖のようなものを拾い、その小さな手で秋斗の手を力一杯握ると、呪文のようなものを唱え出した。
「……?何やって──」
次の瞬間、視界が光に包まれた。
目を開くと、驚くべき光景が目に入ってきた。
先程までの暗い路地裏はそこには無く、青い空、広い草原、そしてたくさんの子供。しかも、皆普通の子供ではなく、翼が生えていたり、ツノのようなものがついていたり、獣の耳があったりと、人とは思えない生物達がそこにはいた。
「な、なんだここ……」
(あれ、さっきまで夜だったよな?それに、ここどこだ……?)
非常識的な光景に空いた口が塞がらない。どこを見ても見覚えのないものしか映らない。
何が何だか分からずにいると、一人の女の子が近づいてきた。
「シアンちゃーん!おかえりー!」
「あ、シトラス……ただいま……」
シトラスと呼ばれたその女の子は、秋斗の隣にいた女の子に思い切り抱きついた。
「大丈夫だった?怪我とかしてない?」
「う、うん……向こうに着いた時、ちょっと気を失ってたみたい、なんだけど……」
「えー!そうなの!?大変だったね〜」
シトラスという子をよく見てみると、天使の輪が頭の上に浮いており、白い翼が背中から四つ生えている。桃色の髪を二つに縛っており、可愛らしいツインテールを作っていた。
「えっと……」
訳の分からない状況に困惑していると、秋斗の存在に気が付いたシトラスがペコリと頭を下げながら挨拶をした。
「あ、初めまして!私はシトラスって言います。見ての通り天使です!それでこの子が」
「シアン……リッチ……」
「と、言うわけです!」
「どう言うわけ?」
自己紹介だけされても何も分からず、首を傾げる。
「そ、そうでした!人間さんには、こっちの状況の説明をしないとでした!とりあえず、向こうまで移動しましょう」
シトラスについて行くと、先ほどの草原からは考えられないような大きな町が見えてきた。
そこには、見たこともないような生き物達が楽しそうに生活していた。しかし、ここにいる人達も全て子供だった。
町の中を少し歩くと、一つの家の前に着いた。
「ここが私達の家です!どうぞ、上がってください」
「お、お邪魔します」
家の中は想像よりも普通の造りになっており、少しだけ驚いた。
「何もなくてすいません。そこの椅子に座っていただければ」
言われるがまま椅子に座る。机を挟んで向かいにシアンとシトラスが座った。
「それでは、説明させていただきます」
「ああ、頼む」
シトラスは可愛く咳払いをすると、ゆっくりと説明を始めた。
「ここは、人間さんが住んでいる世界とは別の世界。リンブルと言います」
別の世界?リンブル?コイツは一体何を言っているんだ?
「すいません、突然こんなことを言われても混乱されるかと思います。ですが、リンブルの住人達が人間さんとは違うことは見て分かると思います」
「そう、だな……お前らも人間には見えないし……」
「ここでは、様々な種族が共存する、とても平和で穏やかな世界でした。どれだけ力を持つ者でも、決して悪事に使うことはなく、皆で助け合い、手を取り合って生活してきました。ですが……」
「ある種族が、暴走を始めた……」
「暴走?」
「……はい。その種族はヴァンパイア。彼女らは謎の力によってヴァンパイア以外の全ての種族を幼児化させてしまったのです」
「全ての種族が幼児化……?」
確かに、周りに子供しかいないと思ったが、幼児化しているなんて想像もしていなかった。
「幸い、体が小さくなったこと以外はほとんど変わりはありませんでした。少しだけ本来の力が出ないようになっていますが、それでも充分戦える。そう思い、約5000人の力に自信のある人達がヴァンパイアを止めに向かいました」
「それで、どうなったんだ?」
「……皆、返り討ちに遭ってしまいました。説得を試みても聞く耳を持たず、そのまま戦闘になってしまったそうです。そして、全員がボロボロになって帰ってきました」
この世界の住人達がどれほど強いかは分からないが、シトラスの表情を見るに相当深刻な状況なのが伝わってきた。
「相手の目的がなんなのかはまだ分かっていませんが、もし攻め込まれたりでもしたら大規模な戦争になってしまうかもしれません……」
「シアン達は、それを避ける為に、君を連れてきた……」
「え、俺?」
突然話題に上がり、気の抜けた声を漏らしてしまう。
「私達の力が通用しない以上、彼女達を止めるには人間さんの力が必要なんです。そのために、シアンちゃんに貴方を連れてきてもらいました」
「えっと、どういうことだ?まさか、この世界の奴らが止められない相手をなんの力もない俺に止めろって言ってるのか?」
「はい、そのまさかです」
「いや、無理だが?」
確かに助けてとは言われたが、そんな要求をされるなど誰が予想できただろう。
「勝手なことを言っているのは分かっています!突然連れ出してしまったのも謝ります!ですが、私達には貴方しかいないんです!」
「お願い……」
シトラスとシアンが同時に頭を下げる。しかし、秋斗に何かできるとは思えなかった。
(……いや、そうでもないのか)
なんの力もない人間にこれだけ頭を下げて来ると言うことは、秋斗にも何かできることがあるということだ。それならば、力になってあげられるかもしれない。
(でも、やっぱり怖いな……)
もしかしたら、死ぬかもしれない。そんな恐怖が秋斗の言葉を詰まらせた。
「……やっぱり、無理ですよね」
「えっ」
「し、仕方ないですよね。もし私が人間さんの立場だったら、絶対に断ると思いますし。なんの見返りもないのに、こんなこと頼まれて迷惑ですよね……」
シトラスが言っていることは正しい。普通なら、こんな頼みすぐに断る。元の世界へ戻してくれるのなら、このまま帰してもらえばいい。
しかし、秋斗は迷っていた。困っている人が目の前にいて、助けられるかもしれないのに手を差し出さない。それは、秋斗自身を否定する行動だった。
「……なぁ、一つ聞きたいんだがいいか?」
「は、はい。なんでしょうか?」
「俺じゃなきゃいけない理由はなんだ?他の人間を連れて来ることはできないのか?」
「それは……」
人間の力が必要なら、秋斗よりも有能な人間を頼ればいい。秋斗をここまで連れて来られたのだから、別の人間を探すことも難しくないはずだ。
「……実は、人間さんの世界へ行けるのは、シアンちゃんを含む数人しかいないんです」
「そうなのか?」
「はい。そして、人間さんの世界へ行く為には特別な素材で作られた杖が必要なんです」
恐らく、シアンが秋斗を連れて来る時に持っていた杖のことだろう。
「その杖を作るための素材を集めるのに十年はかかります。そして、その杖の使用は四回が限界。つまり、こちらへ連れて来る分とあちらへ帰す分で回数の上限に達してしまうんです」
「そ、それなら、もっと慎重に人を選ぶべきだったんじゃないか?もし、俺が邪な考えを持った悪い人間だったら」
「それは、大丈夫……」
「な、なんでだ?」
「一目見た時、すぐ分かった。この人は、すごくいい人だって……」
「シアンちゃんの洞察力はすごいんです。人の本質を瞬時に見抜くことができます。シアンちゃんが人間さんの選抜に選ばれたのもそれが理由です」
そんな重要な役割を任せられるということは、シアンはかなり信頼されているようだ。
実際、秋斗に邪な考えなどないし、心の底から助けになりたいと思っている。シアンの洞察力は本物だろう。
「それに……」
「それに、なんだ……?」
「大丈夫って、言ってくれたから……」
「───!」
その言葉を聞いた瞬間、秋斗が悩んでいたものが全て吹き飛んだ。
(そう、だよな……一度助けるって、大丈夫だって言ったんだ。それなのに、死ぬのが怖いからって逃げるわけにはいかないよな)
断って帰るのは簡単だ。だが、その選択をした場合、この世界はどうなる?
確かに、この二人とは出会ったばかりで何も知らない。命を懸ける必要もない。
(それでも、困っている人を見捨てるなんて俺にはできない)
「……分かった。俺は、お前達の力になる。それでたくさんの人が笑顔になるのなら、俺はなんだってする」
「ほ、本当ですか!」
「どれだけ力になれるかは分からないが、やれることはなんだってやるさ」
死への恐怖が消えるわけではない。だが、それ以上に助けてあげたいという気持ちが上回った。それ故の選択だった。
「ありがとうございます!本当にありがとうございます!」
「ありがとう……」
二人が感謝の意味を込めて頭を下げる。シトラスに関しては嬉し涙を浮かべていた。
「じゃあ、えっと、これからよろしく頼む」
「は、はい!よろしくお願いします!」
「……よろしく」
これなら長い付き合いになるであろう二人と握手を交わした。
「そういえば、人間さんのお名前をお聞きしていなかったですね」
「そういえば、自己紹介してなかったな」
リンブルへ来てから驚きと困惑の連続だった為、名乗る機会がなかったから仕方ないのだが。
「風槍秋斗だ。秋斗って呼んでくれればいい」
「分かりました、秋斗さん」
「しゅーと……うん、分かった」
お互いの名前を認識したところで、今後のことについて話し合う。
「それで、俺は何をすればいいんだ?ただ敵陣に突っ込めって訳じゃないだろ?」
「もちろん、そんなことは全然ないですよ。秋斗さんにはこれを着けてもらいたいんです」
そう言って、手のひらサイズの箱を取り出し、蓋を開けた。
「これは、指輪か?」
「はい。この指輪こそ、秋斗さんが必要な最大の理由です」
シトラスは箱の中から指輪を取り出すと、説明始めた。
「この指輪は『セイギの指輪』と言います。約500年前にエルフの森で見つかった物です」
指輪にはサファイアのような青い石がついており、とても綺麗な状態だった。
「最初に指輪を見つけたのは、フェルノートというエルフでした。彼女が言うには、森を歩いていたら突然目の前に落ちてきたらしいです」
「紙と、一緒に……」
「紙?」
「はい。指輪の近くには一枚の紙も落ちていたんです。そこにはこう書かれていました」
『セイギ、チカラ、ヒトノコトトモニ』
「どういう意味かは分かりませんが、何か重要な物というのは確かだったので、指輪を調べてみることにしたそうなんです」
そして、色々と調べてみたところ、次のようなことが分かったらしい。
一つは莫大な魔力が込められているということ。
一つは何しても傷つかないということ。
一つは何か強大な力を秘めているということ。
「そして、それは人間さんにしか使えないということが分かったんです」
「人間にしか、使えない……」
ここで、やっと秋斗が必要とされている理由が分かった。
「要は、その指輪を使えばヴァンパイアに対抗できるもしれないってことか」
「はい。ですが、大きな問題も抱えているんです」
「大きな問題?」
「はい……実は、この指輪の使い方が分かっていないんです……」
「そ、そうなのか?」
「人間以外、使えなかったから……この町にいるみんな、使い方分からない……」
「それは、そうだな……」
こんな大それた指輪があるならどうにかなると思ったが、そう簡単にはいかないらしい。
「とりあえず、この指輪をはめてみたら何か起こるんじゃないか?」
「そうですね。それでは、お願いします」
何が起きるか分からないが、何もしないわけにもいかないので指輪をはめてみる。
「………………」
「どうですか?指輪や体に変化はありますか?」
「……いや、何も起きないな。流石にはめただけじゃダメか」
「何か条件があるというのは分かりますけど、それがなんなのか……」
早速行き詰まってしまった。どうしたものかと頭を抱えていると、シアンがある提案をしてきた。
「エルフの森に行ったら、何か分かるかも……」
「確かに、私達は人伝で聞いた情報しか知りませんから。ご本人に聞けば何か分かるかもしれませんね」
「え?本人?それって500年も前の物なんだろ?」
「この指輪を見つけたフェルノートさんはまだ生きていますよ?」
衝撃の事実に空いた口が塞がらなかった。
「え、エルフってそんな長く生きられるのか?」
「そうですね。個人差はありますが、数千年は生きるとされていますよ」
「……ちなみに、お前ら二人は何歳なんだ?」
「秋斗さん?女の子の歳を聞くのはタブーですよ?」
「すいませんでした……」
普通に怒られた。よく見ると、シアンも怒っているように見える。無表情なので分からないが。
「実は、私もシアンちゃんもフェルノートさんには会ったことがないんですよね」
「そうなのか?その指輪はフェルノートって人に貰ったものなんじゃないのか?」
「確かに、見つけたのはフェルノートさんですが、指輪自体はこの町に保管されていたので」
「なるほどな……」
誰も使い方を知らないのだから、フェルノートという人も知らない可能性が高い。だが、今は少しでも情報が欲しいので、行動を起こさなければいけない。
「よし、じゃあ早速エルフの森ってところに行くか」
どれくらいの距離を移動するかは分からないが、早めに行動するに越したことはないだろう。そう思い立ち上がると、シトラスに呼び止められた。
「あ、それなんですが、出発は明日にしませんか?」
「え?なんでだ?」
「しゅーと、多分疲れてる。それに、エルフの森に行くの、数日はかかるから……」
「そういうことです。今日はここに泊まっていってください!」
確かに、この世界に来てから緊張しっぱなしだったし、精神的にも辛い状態が続いていた。それに、まだこの世界についての知識が浅い。色々と聞いておいて損はないだろう。
「分かった。なら、お言葉に甘えさせてもらおうかな」
「では、明日に向けて色々と準備しないとですね」
「ん、頑張る」
エルフの森への出発に向けて準備をしてから、シトラス達の家でゆっくり過ごすことにした。
明日の準備も終わり、一息ついた頃。シトラスが突然こんなことを言い出した。
「では、今から質問タイムにしましょう!」
「質問タイム?」
「はい。秋斗さんはまだまだ分からないことが多くあると思います。ですので、秋斗さんが知りたいと思ったことを何でもお答えします!あ、もちろん、分かる範囲でですけどね」
後から自分から聞くつもりだったが、こういう場を設けてくれるのはありがたい。
早速、いくつか気になっていたことを聞いてみることにした。
「さっきから疑問に思ってたんだが、何でお前らは日本語が話せるんだ?」
そう、ここは別世界。当たり前だが日本ではない。それなのに、二人は出会った時から日本語で話している。たまたま、この世界の言語が日本語だったなんてあり得ないだろうし、気になることではあった。
「それはですね、先程話した杖のおかげなんです」
「杖の?」
「はい。この杖には、一定の範囲内に入った人は私達の言葉が分かるようになる魔法がかけられるようになっているんです」
「へぇー、便利なもんだな」
「そして、秋斗さんの話す言葉は自動的に私達の話す言葉に変換されて聞こえるようになるんです。この魔法は一度かかったら何かない限り解かれることはないので、言語問題は気にしなくても大丈夫ですよ」
リンブルに連れてこられた時もそうだったが、相変わらず魔法がとても便利なものなんだと実感する。
「じゃあ次は、リンブルについてもう少し詳しく教えてくれ」
「分かりました!」
シアンは元気よく返事をすると、この世界について説明してくれた。
「先程も言いましたが、リンブルは様々な種族が共存する世界なんです。基本的には、種族別に町を作ったりして生活していますね。例を挙げるなら、エルフはエルフの森で。獣人種は獣人の里で。という感じですね」
「へぇー。じゃあ、なんでここは色々な種族がいるんだ?」
この町に来た際、天使やリッチ以外の種族もたくさんいたのを思い出す。というか、パッと見たところ天使もリッチもこの二人以外いなかったのだが。
「それは、ここがどの種族でも暮らしていいことになっている、自由の町と呼ばれる場所だからです」
「……元々暮らしていたところから、移住してくる人が住むところ」
「なるほど。てことは、二人もそうなのか?」
「あーいえ、私達はちょっと例外なので」
「そうなのか?」
「まぁ、その話はまた今度にして、説明の続きをしますね!」
「お、おう」
明らかに話を逸らされたが、話しづらいことだったのだろう。気になりはするが、深く聞かないでおくことにした。
「同じように、敵であるヴァンパイアも町を作っていました。今は、いつの間にかできた大きな城に住んでますけど……」
「城」
「すごく、おっきい……」
「シアンちゃん、その言い方は誤解を生むよ」
「シトラスもそういうこと言うなよ……」
話が逸れてしまったので、話を戻すために質問をする。
「種族って具体的になにがいるんだ?」
「そうですね。先程話したエルフや獣人種、サキュバスや竜人などもいますね。正直、色々な種族がいるので、全部説明するのは難しいですね」
「そんなにいるのか。シトラスは天使らしいけど、天使がいるなら神もいるのか?」
天使といえば神の使いという話を聞くが、実際はどうなのだろう?
「いえ、リンブルに神はいません。あ、最初からいなかったわけではなく、いなくなったという方が正しいですね」
「いなくなった?なんでだ?」
「それは私もよく知らないんですね。そもそも、天使自体私以外見たことないですし。世界は広いですから、どこかにいるかもしれませんけどね」
シトラスの認識では、天使はシトラスしかいないらしい。神もなぜいなくなったか分からないようだ。
「まぁ、私自身なんで生まれたかよく分かってませんし、私のことを聞くのは時間の無駄だと思いますよ」
「そ、そうか。分かった」
この世界についてしるつもりが、シトラスについての謎が深まってしまった。いつか分かる日はくるのだろうか?
「せっかくだし、エルフについてもう少し聞かせてくれないか?明日からエルフの森に向かうんだし、予め色々と知っておきたいしさ」
「分かりました。では、説明しましょう」
多くの種族がいることは分かったが、せめてエルフだけでもどんな種族か聞いておきたかった。
「エルフの森にはエルフともう一つの種族が住んでいるんです。それは」
「妖精……」
「……シアンちゃん。私が説明してるからセリフ取らないで……」
「………………」
セリフを取られたシトラスが落ち込んだ様子を見せる。シアンがどこか満足そうにしてるように見えるのは気のせいだろうか。
「そ、それでですね。なぜエルフと妖精が同じ場所に住んでいるかというと、妖精にとってエルフの森は住みやすい環境だからなんです」
「それって、妖精側にしかメリットはないのか?」
「そうですね。ですが、エルフ達は住む場所に困っていた妖精達を快く受け入れたんです」
「そのエルフ達は優しいんだな」
「もちろん、妖精達もエルフ達が困っていた時には力を貸していたそうですよ。リンブルは助け合って生きていく世界ですから、こういうことはよくある話なんですよね」
助け合って生きていく。とても素晴らしい言葉だ。困っている人には手を差し伸べる。逆に自分が困っていたら手を差し伸べてくれる。そういう関係が多くあるからこそ、この世界は平和のままでいられたのだろう。
(そんな平和な世界を壊そうとするヴァンパイア……許せないな……)
秋斗が闘争心を燃やしている中、シトラスは説明を続けた。
「ここで、エルフにはどんな力があるかを教えておきますね」
シトラスは人差し指を立てると、ライターくらいの火をぽっと出した。
「まず、エルフはとても魔法が得意な種族なんです。ただし、火を使う魔法は使えません」
「おぉ……」
初めて見る魔法に興奮を隠せない秋斗。魔法を生で見たら誰だってこんな反応をしてしまうだろう。仕方ない。
「シアンちゃんも魔法は得意ですが、エルフは習得が難しい回復魔法を使えるんです」
「……シアンも使える」
「まぁ、シアンちゃんはリッチなので回復魔法を使ったり使われたりすると、体が浄化されて死んじゃうんですけどね」
「ダメじゃん」
「………………」
あ、拗ねた。
変に張り合おうとする辺り、シアンは負けず嫌いなのだろうか。
「回復魔法ってよく漫画で見たりするけど、どのくらいまで回復してくれるんだ?」
「マンガというのは分かりませんけど、実力のある方なら腕の再生くらいなら余裕でできると思いますよ。まぁ、私は使えないのでなんとも言えませんが」
「マジか……すごいな回復魔法」
「と言っても、回復魔法を使うほどの怪我をする人なんてほとんどいませんでしたし、もしかしたら使えないエルフもいるかもしれませんね」
「それだけ平和だったってことだもんな。まぁ、そんな魔法が使えたら便利なのに変わりはないだろうけど」
「その代わり、回復魔法は大量の魔力を使うので一日に何度も使えないというデメリットもあります。並の魔力量では、切断された腕や脚の再生をしただけで魔力切れで動けなくなると思いますよ」
回復魔法は強力だが、デメリットも大きい分使い勝手が悪いということか。こういう便利な能力には代償が付き物だしな。
「とまぁ、こんなところですね。丁度いい時間ですし、今日はそろそろ寝ましょうか」
「明日も早いしな。ところで、俺はどこで寝たらいいんだ?」
さっき家の中を見て回った際、寝室のような場所があったが、そこで秋斗が寝るわけにもいかないだろう。二人に悪いし、そもそも女の子のベッドで寝るのに抵抗しかない。
「安心してください。私達の寝室とは別に、お客さん用の部屋もありますから!」
「……普段、使う機会ないけど」
「何のためにあるんだよそれ……」
「ま、まぁまぁ。掃除はしっかりしてますから、秋斗さんはそこでお休みください」
「分かった。色々とありがとな」
「いえいえ!では、おやすみなさい」
「……おやすみ」
部屋の場所だけ教えてもらい、そのまま解散となった。
お客さん用の部屋は言われていた通り掃除はされており、とても綺麗だった。しかし、ほとんど使われないのもあってか、ベッドと小さな机以外何も置かれていなかった。
「はぁ……」
溜まっていた疲れが一気に溢れ出し、そのままベッドにダイブする。今日だけで色々なことが起き、頭が痛くなりそうだった。
「明日から、頑張らないとな……」
既に限界がきていたのか、そう呟いてすぐに眠りについた。




