知って貰えれば大丈夫!
「ここの家、庭もしっかりあるじゃない!花とか植えられそう!」
「いいな!ジャガイモとか植えたいな!」
「私は花を植えるから。じゃあ、そっちはあなたの畑でどうかしら?」
「じゃあ、苗とか買いに行こうぜ!」
ロボ丸に壁の後かたずけを依頼して、2人は街まで買い物に出かけた。
ところが、家を出てしばらく歩いたところで、オリヴィアは妙なことに気づいた。
「……ザック」
「ん?」
「さっきから、みんなこっち見てない?」
「うん、見てるな」
「王女だから、有名なんじゃない?」
「いや、そういう感じじゃないと思う」
通りの向こうで、数人の男たちがこちらを見ている。
店先にいた女性も、二人が近づくと隣の人に何かを囁き、二人ともこちらをちらちらと見る。
「……何だろう」
オリヴィアが不思議そうに呟いた、その時だった。
「続報ー!今朝の話についての続報です!」
通りの先から、大きな声が響いた。
「今朝の火災についての詳細!王女殿下に関する最新情報も載っております!」
一人の男が、大量の紙を抱えて通りを歩いていた。
「王女?」
ザックがオリヴィアの顔をちらりと見て、走り出す
「ちょっと、あれもらってくるわー!」
その間も、街の人々には次々と紙が渡り、噂は一層広まっていく
「ほら、やっぱり!」
「さっきの話本当だったんだ......」
ザックがもらってきた一枚の紙
そこには、見覚えのある自分の顔が描かれていた。
『王女オリヴィア、結婚初日に屋敷を全焼』
さらに、その下にはこれまでの悪評まで並べられていた。
令嬢を追い詰め、社交界から遠ざけた事件。
貴族を屋敷に一か月監禁した話
帝国での一連の事件
そして、今朝の火災。
「……すごいな。お前、めちゃくちゃ暴れん坊じゃねぇか」
なぜか愉快そうに笑うザックに、オリヴィアは不満げに口をとがらせる
「確かに、全部記憶にあるけど。私はもうそんなことしません!」
「ハハッ、だよな。なんか今朝からお前、別人だもん!」
こちらの調子が狂うくらいあっさりとした返事に、オリヴィアが戸惑っていると、近くにいた女性たちの会話が聞こえてきた。
「王女様、本当に今日からこの辺りに住むの?」
「もう来てるって書いてある」
「なんでこんな田舎に。嫌だわ……」
「王女様って、とんでもないわがままな人なんでしょう?」
「それに、スラム街の人間や平民は大嫌いだって」
「私たち、なにかされるんじゃ......」
オリヴィアは、たくさんの噂話を聞いて顔をうつむけた。
「ちょっとだけ、田舎なら穏やかに暮らせるかなって期待してたんだけど......」
やがて、何か思いついたように顔を上げる。
「なあ、みんな知らないから怖いんだろ?」
「え?」
ザックはそう言うと、突然、通りの真ん中へ歩き出した。
「ちょっと、ザック?」
「ならさ!俺、ちょっと挨拶してくるわ!」
そしてザックは十字路の真ん中で止まり、大きく息を吸い込むと
「こんにちはーーーーーっっ!!」
「!?」
「俺たち、今日この街に引っ越してきましたーーー!!」
「ちょっとぉ!?」
「ザックです!よろしくお願いしまーーーす!!」
号外を手にしていた町の人々が、ぽかんとした顔でザックを見ていた。
「あ!あと、こっちが俺の嫁のオリヴィアです!」
「紹介しなくていいから!」
「仲良くしてやってくださーーーい!!」
「もう!やめてよ!!」
ザックの腕をつかんで困り果てた顔で必死に止めるオリヴィアをの様子を見ていた女性が、
戸惑いながら横にいた友人に声をかける。
「……あれ、王女様......だよね?」
「たぶん……」
「なんか、思ってたのと違うわね」
そんな声が聞こえ、ザックは満足そうに頷く。
「ほら!」
「何が『ほら』なのよ……」
「ちょっとは知ってもらえただろ?」
「知ってもらえたのは、あなたの声の大きさだと思うけど」
「ははっ!毎日挨拶してれば、そのうちなんとかなるって!」
「そういう、ものなのかしら?」
最初は戸惑っていた店主も、二度目にザックが店の前を通った時には、少しだけ笑って手を上げるようになった。
「お、また来たな」
「おう!」
オリヴィアはその様子を、少し不思議そうに眺めていた。
「……すごい」
「何が?」
「ついさっきまで、私の顔を見るだけでみんな逃げていたのに......」
「そりゃ、さっきまでは知らなかったんだからな」
「顔を覚えてもらえばいいんだよ!」
「……そんな簡単なことなのかな」
「さぁ?なにもやらないよりいいんじゃねーの!?」
ザックの大きな挨拶に最初は警戒していた人々も、しばらくたつと苦笑しながら返事をするようになっていた。
「すごい......」
オリヴィアのつぶやきにザックは嬉しそうにうなずく
「よし!最後は花だな!」
「そうですね」
二人が向かったのは、街の小さな花屋だった。
色とりどりの花が並ぶ店先で、オリヴィアはしゃがみ込み、一つ一つ苗を眺めていく。
「これも綺麗……」
「こっちはどうだ?」
「可愛い!」
「じゃあ、全部買うか」
「でも場所足りるかかしら?」
「仕方ないな。俺のジャガイモ畑半分分けてやるよ!」
「あははっ、いいの?」
そのやり取りを聞いていた老婦人が、二人の会話を聞いて足を止めた。
「あら、お花を植えるの?」
「はい。庭に少しだけ」
「そう、よかったら私の庭のお花なんだけど増えちゃって。いまみんなにお裾分けしてるのよ。あなたも一つどうかしら?」
老婦人が差し出したのは、可愛らしい紫色の花の苗だった。
「え?かわいい!いいんですか?」
「丈夫な花だからね。初心者でも育てやすいのよ」
「……ありがとうございます」
「私はあちらの丘のほうに住んでいるの」
「そうなんですね!じゃあ、近所かもしれません!私も今日あの丘のあたりに引っ越してきました。オリヴィアと言います」
「あら、あなたがあの?ふふっ、ずいぶん可愛らしい方だったのね。じゃあ、これからよろしくね」
老婦人は笑って、そのまま歩いていった。
オリヴィアは花を大事に両手に抱えて、しばらくその背中を見送っていた。
たった一人。だけどなんだか、街の人に受け入れてもらえたような気がして、沈んでいた気持ちが温かくなる。
「……嬉しい」
その日の夕方、二人は家に戻ると、さっそくもらった苗を庭に植えた。
「ここにしようかな」
「そこなら日当たりもいいな」
「ちゃんと大きくなるかしら」
「なるだろ!俺のジャガイモだって、きっと大きくなるぞ!」
「ふふっ。じゃあ、競争ってことで」
二人で土をならし、水をやる。
今朝こちらの世界に突然来てしまってから、目まぐるしい一日だった。
最初は絶望した状況も、この夫がいればなんだか何とでもなるような、そんな気がした。
ルシウス
「なぜだ!悪評が思ったより広まらない。くそ。閣下のために、私がもっと頑張らねば……!」
※本人、そのころ街の真ん中で大声で挨拶しています。




