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転生したら屋敷が燃えていました。わたしのせいらしいです  作者: 虹色日和


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それぞれの新居へ

王太子が去ってしばらくザックは腕を組んだまま、その背中を見送っていた。

そして、ふと視線を落とす。


草の上では、オリヴィアがまだ目を閉じて眠っている。


「…………」


その顔をじっと見つめて、ザックは少しだけ首を傾げた。


まあ、昨日あれだけの騒ぎがあったのだ。疲れて眠っているのだろう。


そう思っていた。


けれど、先ほど王太子と話している間

時々、まつげがぴくりと動いていた気がする。


ザックはしばらくオリヴィアを眺めて、やがて何か思いついたように歩き出した。


そして、オリヴィアの上に、大きな影が落ちる。


「…………」


オリヴィアのまつげが、また少し揺れた気がした。


「おーい、寝てるのか?」


ザックはしゃがみ込むと、しばらくその顔をじーーーーっと覗き。


少し口角を上げると、おもむろにオリヴィアの鼻に手を伸ばした。


「えいっ」


むにっ


「――っ!?」


鼻をつままれた瞬間、オリヴィアが勢いよく飛び起きた。


「な、何!!?」

「ハハッ!やっぱり起きてんじゃん!」


ザックは腹を抱えて笑った。


「ずっと目ぇ閉じてるから、本当に寝てんのかと思ったぞ?」


(......バレてた。一番恥ずかしいやつじゃない!)


オリヴィアは真っ赤になった顔を両手で覆い、震える声で確かめた。


「あの……いつから」

「ん?」


「いつから起きてるって……」

「さあ?」


ザックは楽しそうに笑っている。


「まあ、さっきからだな」

「…………」


「なんだよ。そんな顔すんなって」


オリヴィアは何を言えばいいのか分からず俯いた。


さっきまで、2人の会話も聞いていた。


自分の処遇のこと、ザックが自分を一人にするつもりがないこと。


そして――


自分のために、最後まで付き合うと言ってくれたことも。

全部、聞いてしまった。


「……ごめんなさい」


ぽつりとこぼれた言葉に、ザックの笑いが止まった。


「……え?」


昨日までの王女なら、こんなことをされたら怒鳴り散らすか、下手をすれば拳の一発くらい飛んできてもおかしくない。


そう思っていたのに。


目の前ではオリヴィアが、俯いたままじっとしている。

思っていたのと違う反応に、今度はザックが戸惑う番だった。


「な……なんだよ。もしかして凹んでんのか?」


「おーい…………?」

「あのさ。まあ、そんな気にするなって」


それでもなお、しゅんとした顔をする王女に

ザックは困ったように頭をかいた。


「お前も、さっきの話聞いてただろ?」

「王太子も新しい家を用意してくれるって言ってたし」


「……でも」

「家なら何とかなるって」


ザックは焼け落ちた屋敷を振り返った。


「みんなも怪我はなかったわけだし」


そう言って、あっさり肩をすくめる。

後ろでは、侍女が抱き合って「怖かった」と泣いている。


「あー。まぁ、怖い思いはさせちまったみたいだけどさ。誰も怪我してない。な?」

「俺も一緒に皆に謝るからよ。そんなに気にするなって」


おろおろしながら、必死に慰めてくれる。

その優しい言葉が、かえって胸に刺さった。


「……違うんです」

「ん?」


「家のことだけじゃありません」

「昨日のこと……本当に、ごめんなさい」


オリヴィアは、ギュッと固くつぶった目をゆっくり開けて、ザックに顔を向けた。


「あなたを、叩いたことも」


「酷いことを、言ったことも」


「火を、つけたことも……」


そこまで言って、オリヴィアは無残に焼け落ちた屋敷を見た。


「……みんなに、こんな迷惑をかけてしまって。本当に、ごめんなさい」


ザックはしばらく何も言わずじっとオリヴィアを見つめ

やがて、ぽりぽりと頬をかく。


「……まあ昨日は、お前もびっくりしたんだろ?」

「……」


「俺もびっくりしたよ!『暴れるから気絶させて連れてきましたー』って運び込まれてきたからさ!」


「目ぇ開けたら突然ベッドの横に男がいたら、そりゃ驚くよなーって思ってさ!」

「だから、お互い様ってことで」


「それは違うと思います!」

「全然、お互い様じゃありません。」


「驚いても、暴れるべきではありませんでした。本当に、申し訳ありませんでした。」

「お......おう。どうした。別人だな」


オリヴィアは肩をびくっと震わせた。


「じゃあ……お前は悪かったから、謝った。そんで、俺は許した。それでいいか?」

「……え」


「よし。じゃあ、これで終わりな!」

「……本当に、それでいいんですか?」


「いいだろ。もう、謝ったんだから」


「ほら!さっきお兄さんが仮住まいに急遽用意したって、カギと地図くれたんだ!行ってみようぜ!」


「私……本当に一緒に住んでもいいんですか?」

「ん?」


「私と……」

「……一緒に住むって言ってましたよね?」


「ああ。俺たち、昨日結婚したからな!」


ザックは何でもないことのように爽やかに笑っている。

あまりにもあっさりと言うものだから、オリヴィアはしばらく何も言えなかった。


「……ありがとうございます。私も、一緒に行きます」

「おう!」


「じゃあ、新居見に行くか!」

「……はい」


焼け落ちた屋敷を背にして。

2人は静かに歩き始めた。




一方その頃。


王都のとある屋敷では、いつもの朝が始まっていた。


王国屈指の名門貴族。

そしてザックの右腕と評される男――


ルシウス・シャルディエルにとって、朝一番に欠かせない日課がある。


将軍閣下へのご挨拶だ。

今日もいつものようにザックの屋敷へ向かい、髪を整え玄関前に立つ。


「閣下、おはようございます」


「……?」


いつもならすぐに使用人の誰かが出てくる。

しかし今日は、人の気配すら感じられない。


ルシウスは首を傾げながら扉に手をかけ――


「……ん?鍵が、開いている?」


「......閣下?」


静かな部屋に、ルシウスの声が反響する。


ふと、目を落とすと、机の上に一枚の紙が置かれている。

そこには、恐ろしく雑な文字が並んでいた。


------


ルシウスごめん!

おれ、昨日結婚して新しい家にいるから!

場所はここ!!


------


「…………」


ルシウスは目を極限まで見開くと、しばらく紙を見つめて固まった。


そして......


ぐしゃっ!


思わず握りつぶした紙に、ルシウスは慌ててもう一度紙を開いた。


「はっ、いけない……!」

「閣下の字を、つぶしてしまった!」


急いで両手で丁寧に丁寧に、皺を伸ばす。


(くそ、なんということだ。閣下直筆の手紙を!)


「……いや、違う。そうじゃない」


「昨日……けっこん......?」


握り締めていた紙が、再び震える。


「キノウ、ケッコン……シタ……?」


ゆっくりと、紙に書かれた一文を読み返す。


そして、ルシウスの脳裏に、ある女の顔が浮かんだ。


王女オリヴィア。


「まさか……あの女……!」


思い返せば、以前からザックは妙に口を濁していた。


結婚の日取りを聞いても、


「まあ、そのうち?」

「ごめん!まだ決まってない!」

「……まあ、色々あってさ!」


そんな返事ばかりだった。


なぜ教えてくれなかったのか。


答えは一つ!


「あの女!私に知られないように手を回したのか……!」


自分は確かに言ったのだ。

『結婚の日取りが決まったら、必ず教えてください』と。


そして

『必ずぶっ潰します!』


そう宣言した。


......ルシウスは気づかない。

自分の発言が原因で情報を遮断されたことなど。



「許さん……あの女!」

「……必ず、私が閣下を救い出して見せる!」


こうしてルシウスは、新居の場所が書かれた一枚の紙を握り締め――


閣下を不幸にする女は、必ずこの手で排除する。


怒りに燃えながら、新居へ向かった。

※その頃新居は炭だった

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