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転生したら屋敷が燃えていました。わたしのせいらしいです  作者: 虹色日和


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クラリス先生の社交マナー講座

数日後。

オリヴィアは、クラリスの屋敷を訪れていた。


リリアの髪飾りを返したオリヴィアは、残る二人にもアクセサリーが見つかったことと、直接謝罪に伺いたい旨を伝える書状の書き方をクラリスに相談していた。


「書けたわ!ありがとう、クラリス!」

「お役に立ててよかったです!」


(良かった。これでまた一歩前進だわ)


そして――


「そういえばクラリス、今度の夜会なのだけど、私マナーもちょっと不安なのよ」

「マナーですか?」


「えぇ。公爵令嬢よね?」

「はい!」


「だったら、社交界のマナーにも詳しいんじゃない?よかったら教えてほしいの」

「もちろんです!」


「ありがとうクラリス!助かるわ」

オリヴィアは期待に満ちた目をクラリスへ向けた。


(クラリスは公爵令嬢だもの。きっと、高位貴族にしか分からない社交の作法があるはずだわ)


ルシウスからもらった『私だってもう淑女!5歳から始める淑女のマナー』

にも載っていなかったことだって、きっとあるだろう。


そして、夜会会場を模したセッティングが整うとクラリスは自信満々に料理を指差した。


「では、まず食事の作法からです!」

「はい!」


「夜会では、料理が運ばれてきたら、まず最初に全種類を少しずつ確認します!」

「確認?」


「毒が入っていないかです!」

「……毒?」


(毒見……?夜会のマナーに、そんなものがあるの?)


困惑するオリヴィアをよそに、クラリスは当然のようにフォークを手に取ると。

「こうです!」


一気に全部を口の中へ放り込んだ。


「…………えっ!?」

オリヴィアの目が点になった。


クラリスは、ハムスターのようなほっぺたでもぐもぐと料理を咀嚼すると、にっこりと笑顔を作り


親指を立てる


「大丈夫です!」

「ごめんなさいクラリス、このマナーは本当にあるの?」


「はい!お母様からは、まず私たちが食べないと、皆様も安心して召し上がれないと言われています!」

「なるほど……?でも、なぜ私たちが?毒見役とかは居たりしないのかしら?」


「んー。高位のものが率先して毒見をすると安心できるんじゃないですか?」

「なるほど。そういう考え方があるのね!」

クラリスは自信満々に頷いた。


「お母様も、そうおっしゃっていました!」


公爵夫人までそう言っているのなら、間違いはないだろう。

「良かった。そんなマナーがあったのね!」

「はい!これなら皆様も安心して召し上がれます!」


「でも、一気に食べなくてはだめなのかしら?」

「はい!他の方も早く食べたくて待っているので、手早く済ませるのがコツです!」

クラリスは誇らしげに頷く。


「たしかに……!」


ルシウスにもらったマナー本には載っていなかった作法だ。

オリヴィアは感心した。


(やっぱり、高位貴族ならではの作法ってあるのね……!)


そんな作法は、なかった。

正確には、一般的な社交のマナーではない。


ベルクロード家の人間が同席すれば、料理に毒が入っているのではないかと警戒する者もいる。

だからこそ、まずベルクロード家のものが率先して料理を口にする。

万が一に備えて解毒薬も用意しているし、何より、相手に安心して食事を楽しんでもらいたい。


それが、ベルクロード家で代々教えられてきた毒を扱う一族ならではの、作法だった。



「では次は、お飲み物です!」


「飲み物は、まず少量を口に含みます」

「ええ」


クラリスが飲み物を持ち上げ、一口飲む。


そして………


持っていたハンカチにペッと、吐き出した。


「…………え?今。吐き出した?」


クラリスは何事もなかったかのように、ハンカチを広げる。

「はい。次に色と香りを確認します」


そしてハンカチをじっと見つめたかと思うと、においをクンクンと嗅ぎ始める。


「それから、口の中に違和感がないか確認します」

クラリスは舌を口の中でうねうねと動かし、慎重に確認する。


「たいてい、色と香りを確認している間に毒があれば口にわずかな違和感が残ります」

「…………なるほど」


「問題ありません!」

そして、残った飲み物を普通に飲み干した。


「なるほど……飲み物にもそんな確認方法があるのね」

「もちろんです!高位のものは毒にも気を付けなければいけませんから!」


「知らなかった……」

「私も小さい頃から教えられてきました!」


クラリスは得意げだった。


「やっぱり高位貴族ともなると、こういうことまで気をつけるのね!」

「はい!体は大事ですから!」


これが一般的な高位貴族のマナーではないことを、クラリスは知らなかった。


そしてオリヴィアも知らない。

「毒使いの家だからこそのマナー」と「高位貴族のマナー」の違いを。


「最後は、ご挨拶です!」

クラリスが背筋を伸ばした。


「ご挨拶は、とても重要です」

「ええ!」


オリヴィアも姿勢を正す。

「まず、相手の前に立ちますそして――」


クラリスの首が、


だらぁ……


と前へ垂れた。


「これです!」

「…………!?」


オリヴィアは目を瞬いた。

「…………え?本当に?」

「はい!!」


クラリスは自信満々に頷く。

オリヴィアは困惑しながらも、頷く。


(全然美しくはなかったけれど………大丈夫かしら)


「じゃあ、次はオリヴィア様もやってみてください!」

「分かったわ」


オリヴィアは困惑しながらも、クラリスの動きを忠実に再現した。


首を、


だらぁ……


「…………??」

今度はクラリスが首を傾げた。


「クラリス、どうだったかしら?」

「うーーん。なんか……違うというか……」


「もう少し背筋を伸ばして、もう一度、やってみてください!」

「こう?」


オリヴィアは背筋を伸ばし、首を……


だらぁ……


っと下げる。


「あれぇ…………?」

「…………??」


二人は顔を見合わせて首をかしげる。


「……こう、でしたっけ?」

「……分からないわ?」


「もう一度やってみましょう!」

「そうね!」



だらぁ……


だらぁ……



そうして、迷宮入りしたお辞儀を繰り返した結果。


「でも私、これで怒られたことないから、大丈夫だと思います!」


それは、当然だった。

クラリスがこのお辞儀を習った幼い頃には、きちんとできていたのだから。


ただし、それから長いあいだ実践していなかったせいで、今では見る影もなく退化している。


それでもクラリスの中には、「この作法は褒められた」という記憶だけが、確かな自信として残っていた。


「良かった!なら……この世界ではこういうマナーなのね!」

「多分!」


「クラリスが公爵令嬢で良かったわ。私の知らない、高位貴族ならではのマナーをたくさん教えてくれてありがとう!」

「とんでもないです!お役に立てて嬉しいです!」


二人は満足そうに顔を見合わせ、笑いあった。


「ねえ、クラリス」

「はい?」


「今度の夜会なんだけど……良ければクラリスも、一緒に参加してくれないかしら?」

「私も……ですか?」


「ええ。久しぶりでしょう?」

「……そうですね」


クラリスは少し考えるように視線を落とした。

「私、夜会に出るのは久しぶりなので……少し緊張します」


「そうなの?」

「はい」


「小さい頃は、毒使いだから怖いとか、気持ち悪いとか言われることもあったので……」

その言葉に、オリヴィアの表情が曇る。


「クラリスは、怖くなんかないわ」

「……ありがとうございます」

クラリスは嬉しそうに笑った。


「でも、久しぶりに行くとなると、やっぱり少し緊張しますね」

「大丈夫よ。私も一緒だから!」


オリヴィアは胸を張った。


「それにね……実は、今の社交界ではちょっと妙なことになっていて」

「妙なこと?」


「私が出る夜会では、みんなアクセサリーをつけてこないらしいの」

「え…………なんでですか?」


オリヴィアは、社交界で以前起こったアクセサリーの騒動についてクラリスに説明する。

オリヴィアは少しだけ肩を落とした。


「だから、クラリスにも一緒に参加して、そしてもしよければ――アクセサリーもつけてきてほしいの」

「アクセサリーを?」


「そう」

「せっかくの夜会だもの。みんなに安心してアクセサリーをつけても大丈夫だということを、知らせたいの」


「…………なるほど。そういうことなら、分かりました!」


「本当!?」

「はい!」


クラリスは胸を張った。


「せっかくですから、とびきり素敵なアクセサリーを選びますね!」

「ええ!ありがとう、クラリス」


その夜。


クラリスは、自分の持っているアクセサリーをすべて並べていた。


「久しぶりの夜会……せっかく誘っていただいたんですもの」

「ちゃんと準備しなくてはいけませんね!」


クラリスにとって、それは久しぶりの社交界へ戻るための――


とーーっても、大切な準備だった。

ドリンクはハンカチに慎重に吐き出しながら飲むのに、食べ物は全種類を一気に口へ詰め込んで、豪快に噛み砕くベルクロード家。謎ですねー。


「液体は慎重に!固形物は気合い!」

固形物のどれかに毒が入っていても、まぁ大丈夫だしどれか特定できるのでしょう。

知らんけど

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