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転生したら屋敷が燃えていました。わたしのせいらしいです  作者: 虹色日和


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29/32

仕返しのネックレス

王都にある、国内でも名の知れたアクセサリー店。

その店の前で、オリヴィアは馬車から降りると、入口を見上げた。


かつてのアクセサリー事件の被害者たち。

そして、手元にある髪飾りの持ち主であるリリア子爵令嬢が、ここに集まっている。


(大丈夫。睨まれても何か言われても、きちんと最後までちゃんと謝ろう)


そして意を決して、店の扉を開けた。


「お待ちしておりました、王女殿下!」

「まあ、オリヴィア様!」

「本日はお越しいただいてありがとうございます」


「……え?」


予想とはあまりにも違う歓迎に、オリヴィアは思わず固まった。

そして、その中央には爽やかな笑顔を浮かべたルシウスが立っている。


「王女殿下。本日はお越しいただきありがとうございます」


(え…………誰?)


いつものルシウスではない。

いつもの変態の本性は見事に隠され、まるで絵画から抜け出してきたような完璧な貴公子だった。


「本日は皆様にゆっくりとアクセサリーをお選びいただけるよう、店を貸し切っております」

「そうなの……」

「どうぞ、お手を」


オリヴィアが恐る恐る手を重ねた瞬間、ルシウスはその手をぎゅっと握り込んだ。


「痛っ」


そして、何事もなかったかのように耳元へ顔を寄せる。

「……逃げないでくださいね」


そう言って、甘く笑うと、ルシウスは何事もなかったかのように令嬢たちへ笑顔を向けた。


(怖い……)


オリヴィアは集まった令嬢たちを見渡して、少しだけ背筋を伸ばした。


「皆様、本日は以前、私が皆様にしてしまったことについて……改めて、謝罪させていただきたいと思って参りました」


「皆様がどれほど困っていたのか、当時の私は何も分かっていませんでした。今さらになってしまいましたが、本当に申し訳なかったと思っています」


そして、リリアへ視線を向ける。

「それから……リリア様」

「こちらのことも、ずっと謝らなければと思っていたの。遅くなってしまって、本当にごめんなさい」


髪飾りの入った箱を手に取り、リリアへ差し出そうとした、そのとき。


「あらあら殿下!せっかくこちらに集まったのですもの!先にゆっくりと、店内を見たいですわ!」

別の令嬢が、ぱっと明るい声を上げた。


「……え?」

オリヴィアは、差し出しかけた箱を手にしたまま固まった。


「こちらのお店、貸し切りなのでしょう?普段はなかなか見られないものもございますし」

「そうですわ!」


リリアも、令嬢たちと一緒にアクセサリー選びに気持ちが向いているようだった

「私も、皆さまとアクセサリーを選びたいですわ!」


(リリアさんまで。もしかして、謝罪を拒絶されたのかな……)

オリヴィアが不安に口を開きかけると


「さあ、殿下。こちらへどうぞ!」

「あっ、ちょっと……!」


オリヴィアは、手元の箱を抱えたまま、令嬢たちに促される。


「ふふっ。今度は、誰かに勝手に持っていかれるわけではありませんものね」

オリヴィアの肩が、びくっと跳ねた。


そして、オリヴィアは令嬢たちに言われるがままに棚に並ぶネックレスへ目を向ける。


「まあ、素敵!」

「こちらのネックレスも綺麗ね」


そうして手を伸ばした瞬間――


ヒュンッ!!

「え?」


ネックレスが宙を舞った。


オリヴィアは、伸ばした手をそのまま止める。


「…………?」

「あらー?おかしいですわね」


「最近のアクセサリーは、飛ぶみたいですね?殿下」

「え…………そんなことある?」


オリヴィアは、宝石が消えていった方向を眺めながら首を傾げた。


「まあ、王女殿下。無くなったアクセサリーはお気になさらず。他のアクセサリーも沢山ありますよ?」

「……そうね?」


「見てください、殿下。こちらのブローチもとてもきれいですわ」


オリヴィアが振り返る。


令嬢が、棚の上に置かれた美しい宝石箱を指差している。

「こちらの箱の中ですわ」


箱の中には、美しいブローチが入っていた。


「綺麗……」

そうして、オリヴィアが手を伸ばした瞬間――


パタン!


宝石箱の蓋が閉じた。

オリヴィアが、ゆっくりと顔を上げると、令嬢がにこりと笑った。


「ごめんなさい。こちらの箱、一度閉じたら開かないみたいで……」

「そんな箱ある?」


それから、しばらくして。

オリヴィアがまた次のアクセサリーへ手を伸ばした。


「これもきれい――」


その瞬間、鋭い指笛が響き渡る。


「ピィィィィッ!」

「わん!わんわんわんわん!!」


どこからともなく犬が駆けてきた。


そして、オリヴィアが触れる寸前だったネックレスを口にくわえると、そのまま店の奥へ走り去っていく。


「…………なに?今の」

「ねぇ。今の犬って……」

「ふふっ。元気なワンちゃんですわね」


令嬢たちは笑っている。


ルシウスに視線をやると、ルシウスも実に嬉しそうに笑っていた。


「犬がしたことなら、仕方ありませんね」

「えぇ。犬がしたことですものね」


「まあまあ、もう犬は奥に行ってしまいましたわ。こちらの指輪はいかがですか?殿下」


また別の令嬢が指し示した指輪。

不自然に机の中央に、ぽつんと置かれている。


オリヴィアは、少しずつ理解していた。


(多分、これは自分への仕返しなのだ……)


ならば。

(受けたほうが、良いのだろうか)


そう思いながら、もう一度オリヴィアが手を伸ばす。


すると――


ぐにゃ~~~。


ぐにゃ~~~~~。


オリヴィアの手から逃げるように、指輪が机の上を逃げ回る。


「ちょっと!なにこれ!?」

オリヴィアは思わず吹き出し机の下を覗き込むと、そこには


『うき????』


「え!?猿!?」

猿が、磁石で裏から指輪を動かしていた。


「『うきっ』じゃないのよ!なんで猿がこんなところにいるのよ!」


「ふふふっ。殿下。猿がやったことなら、仕方ありませんわね」

「取られても、文句が言えない相手って、いますものね?」

「ふふふっ。仕方ないですわ」


「なるほど……そういうことね」


オリヴィアは、彼女たちへ向き直った。


「自分のものを突然奪われる。そして、文句を言うこともできない。……そういうことよね」

「え?……えぇ」


「……本当に、悪かったわ」

オリヴィアは静かに頭を下げた。


「今さら、こんなことを言っても遅いのは分かっているわ。でも……本当に、ごめんなさい」


令嬢たちは困惑したように目を見合わせる


「なんだか……すっきりしませんわ」

「私もです」


「これでは、私たちが殿下をいじめているみたいではないですか」

「……怒ってくださったほうが、まだ気が楽でしたのに」

「本当ですわ」


令嬢たちは顔を見合わせる。


「なんだか、思っていたのと少し違いましたわね」


「……ごめんなさい」


オリヴィアは申し訳なさそうに眉を下げ、そして令嬢たちをまっすぐに見て正直な気持ちを伝える。


「でも、過去にしたことは変えられないから。もし皆さんが、まだ何かもやもやした気持ちを残していらっしゃるようでしたら――」


「私は、ぜひ聞きたいと思っているの」


すると、令嬢の一人がにやりと笑った。

「まぁ…………それは、本当ですか?」


「ええ」

「そうですか」


令嬢は、隣の令嬢と顔を見合わせる。


そして――


二人で、こくりと頷いた。

「では、せっかくですもの!」


「王女殿下!」

「はい?」


「こちらも、ぜひご覧になってくださいませ!」

令嬢が指し示したのは、ベルベット張りの大きな箱だった。

蓋が開かれると、中には大粒の宝石をあしらった、目がくらむほど豪華なネックレスが収められている。


「まあ……!すごいわね」

「ええ。とーーっても高価な品なのですわ!」


令嬢はネックレスを取り出すと、ひょいっとオリヴィアの頭に乗せた。

「…………え?」

「殿下!そのまま、そのままですわ!」


「えっ、なに!?どうして頭に乗せたの!?」

「まあ!とてもよくお似合いですわ!」


「似合うとかじゃなくて!」

オリヴィアは、慌てて両手を上げた。


「きゃーー!殿下っ落ちてしまいますわーっ!?」

「動いちゃダメですわーっ!」


「とーーっても、高いものなんですよ!?」

「じゃあ、なおさら困るでしょうが!いきなりこんな高価なものを渡されても、どうしたらいいか分からないわよ!」


「あら。ふふふっ、分かりますわー」

「いきなり高価なものを渡されても困ってしまいますわよねー」


「もーーー。ごめんなさい!悪かったわ。もう絶対に困らせるものを送らないから、頭から下ろしてちょうだい!」


「ふふふっ。失礼いたしました、殿下」

令嬢は笑いながら、そっとネックレスを持ち上げた。


ようやく解放されたオリヴィアは、ほっと息を吐く。


「まったく……びっくりしたわ」

「ふふっ。申し訳ありません」


令嬢たちの柔らかい笑顔とお茶目な仕返しに、オリヴィアは思わず吹き出した。

「もう!あなたたち、本当に――!」


令嬢たちも、つられて笑い出す。

その笑い声を聞きながら、オリヴィアは胸の奥が少し軽くなるのを感じていた。


さっきまで胸にあった重たいものが、少しずつほどけていくようだった。

「……あの」


ふと、オリヴィアはリリアへ視線を向けた。


「リリア様。少し、お時間をいただいてもいいかしら?」

「はい?」


オリヴィアは、傍らに置いていた小さな箱を手に取った。


「こちらを、お返ししたくて」

リリアは目を見開き、それからそっと手を伸ばした。


「……見つかったのですね」

「ええ。遅くなってしまって、本当にごめんなさい」


オリヴィアは髪飾りを差し出しながら、静かに頭を下げた。

「これは、お母様から贈られた大切なものだったのでしょう?そんなことも知らずに……本当に申し訳なかったわ」


リリアは髪飾りを受け取ると、壊れ物を扱うようにそっと指先でなぞった。


「……ありがとうございます。ずっと、戻ってきてほしいと思っていました」

その声には、安堵が滲んでいた。


「見つけてくださって、よかったです」

「……リリア様」


オリヴィアは、もう一度頭を下げた。


「……ありがとう」


今度は、ほんの少しだけ笑うことができた。

長い間、持ち主のもとへ戻れなかったものを、ひとつ。

ようやく、返すことができた。


「よかったですわね、リリア様」

隣の令嬢が微笑む。


「ええ。本当に」


リリアは大切そうに髪飾りを箱へ戻した。

それを見届けてから、オリヴィアは改めて、その場にいる令嬢たちを見渡した。


「皆様も……今日は、本当にありがとう」

「まあ、どうなさいましたの?」


「私、最初は皆様に睨まれる覚悟で来たの」

オリヴィアは、少し困ったように笑った。


「でも、皆様がどんなお気持ちだったのか、今日、少しだけ分かったの」

奪われること。


文句を言いたくても、言えないこと。

物が戻ってきたからといって、それだけですべてが元通りになるわけではないこと。


「だから、これで全部終わりだとは思っていないわ。もし、まだ言いたいことがあったら、いつでも聞かせてほしいわ」


令嬢たちは顔を見合わせた。


やがて、リリアがふっと笑う。

「……そうですわね。そのときは、遠慮なく申し上げますわ」

「ええ。ぜひそうしてちょうだい」


「ふふっ。では、次の夜会では、こちらの髪飾りをつけていこうかしら」

「きっと、お似合いですわ!」


再び、楽しげな声が上がる。

その様子を見ていたルシウスは、少しだけ首を傾げた。


(……あれ?)


想定していたものとは違う。

オリヴィアならもっと、怒ると思っていた。


今日はわざわざ、閣下が外せない用事で不在の日を選んだ。

王女が心酔する閣下の前で猫をかぶらないように。


それなのに。

オリヴィアは怒るどころか、令嬢たちと楽しそうに笑っている。


おまけに、先日あれほど必死に怒りを煽った令嬢たちまで、すっかり機嫌がよさそうだ。

(……なぜ、こうなった?)


そして店の隅では。


「うき?」

猿も首を傾げていた。

※ただし、仕返しされた中身は別人である。


オリヴィア「理不尽だわ」

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