名探偵ザックと、フラグ職人ルシウス
「でも、オリヴィアがやったことじゃ、ねーんだろ?」
オリヴィアは、息をするのも忘れた。
――その言葉に、どう答えればいいのか分からなかった。
「……どうして、そう思ったの?」
「いや、俺が知ってるオリヴィアは、どう考えてもさっきの話の女と全然違うだろ!」
ザックは、少し考えるように窓の外へ目を向けた。
「まぁ。ずっと違和感はあったんだよな。もともと聞いてた噂や初日と、ずっと一緒にいたオリヴィアって、なんかイメージ違うよなーって」
「でも今回の話を聞いて、もう絶対違うだろうなって確信したぜ!」
まるで名探偵にでもなったかのように嬉しそうに推理を発表するザックに、オリヴィアの力も抜けていく。
「いやーー。頭を打つと人が変わるとか言うけど、火事でも人が変わるんだなぁ!」
「……なにそれ」
ザックは、変わらずオリヴィアを見て優しく微笑んでいる。
「まあ、過去にいろいろやってきたみたいだけどさ。何が言いたいかっていうと、そんな真面目に全部背負わなくてもいいんじゃねーの?ってこと」
「でも……」
「だって、覚えてねーんだろ?」
「まぁ、昔嫌な気持ちになったやつらはそうはいかないかもしれないけどさ。少なくとも俺は、今のオリヴィアが昔のオリヴィアに困らされてるなら、それは助けたいと思う」
「……ザック」
胸の奥が、じんわりと熱くなる。
ずっと、自分一人でどうにかしなければと思っていた。
前のオリヴィアが残したものなのだから、自分が背負わなければならないと。
それを、ザックはいとも簡単に半分持ってくれた。
「……ありがとう」
「おう!」
ザックは、いつものように笑った。
「今まで黙っていてごめんね。私、記憶が全部なくなったわけじゃないの。ところどころ覚えてるし……」
「うん」
オリヴィアが、ザックにぽつぽつと自分の気持ちを話した。
記憶が完全になくなったわけではないこと。
前のオリヴィアが何をしてきたのかは分かっていること。
それでも、「記憶がない」と言えば、今さら責任から逃げようとしていると思われるのが怖かったこと。
「……だから、言えなかったの」
ザックは静かに聞いていた
「オリヴィアは……あんまり言いたくない感じか?」
「何を?」
「記憶がないこととか」
「うん。まだちょっと、怖いかも」
「そっか」
オリヴィアは、先ほど見つけたアクセサリーを握りしめる
「うーん……そっかー。なるほどなー」
「うん。せめてこのアクセサリーをきちんと返してからかな」
「どうやって返したらいいんだろう、これ」
「俺、ちょっとルシウスに聞いてみるよ」
「え?ルシウスに?」
「だって、あいつ一応侯爵だろ?」
「侯爵子息ね」
「違うの?」
「ふふっ、全然違うわよ。でも、確かに貴族のマナーとかには詳しい気がするわね」
その日の夕方。
オリヴィアを家へ送り届けたザックは、一人で軍のルシウスの執務室を訪ねていた。
「ルシウス、今いいか?」
「閣下!もちろん!いつでも大丈夫でございます!」
ルシウスは勢いよく立ち上がった。
「どうなさいました!?」
ルシウスは、目をキラキラさせてザックの言葉を待つ
「実はさ――」
ザックは、今日見つかったアクセサリーについて説明した。
前のオリヴィアが持ち主から取り上げ、その後どこかへ隠していたらしいこと。
そして、その中に持ち主が分かるものがいくつかあったこと。
「オリヴィアが、ちゃんと自分で返したいって言ってるんだ」
「なるほど……!」
(あの悪女が自分から返すとは……。さては、閣下の前だから、返さないとは言い辛かったのだな)
これは、思っていた以上に面白い展開になりそうだ。
「それでさ。こういう場合って、どうやって返すのが普通なんだ?」
「そうですね……返却と謝罪の意思を書状で送り、先方の了承を得てから訪問するのが最も無難でしょう」
「なるほど」
ルシウスは、持ち主の名前が書かれたリストを見た
「ただ、このリストの中のリリア子爵令嬢ですが、夜会主催者の侯爵夫人と同じグループの令嬢です」
「へー?」
「近日、ローレンティア侯爵夫人が小規模なサロンを開かれる予定があります」
「へー。そうなんだ?」
「なので、まずは私が侯爵夫人に事情をお伝えしておきましょう」
「まじか!ルシウスありがとう!」
ザックが嬉しそうに笑う。
「はい!どうぞドーンとお任せください!」
ルシウスは嬉しそうに胸を張る。
なぜだか見えない尻尾までぶんぶん振られているようにも見えるのだった
そして、何かを思いついたように急にキリッとした顔になる
「ただ、オリヴィア様が直接いらっしゃればかえって皆様を刺激してしまう可能性もございますので
私が先にサロンへ伺い、侯爵夫人やご令嬢方へ事情をお伝えしておきます」
「なるほど、いつもありがとうルシウス」
「とんでもございません!このルシウスに、全てお任せください!完璧に根回しをさせていただきます!」
「おう、頼んだ!」
(これは、使える……)
ルシウスの脳裏に、いくつもの令嬢の顔が浮かんだ。
彼女たちが、過去のアクセサリーの件を忘れているはずがない。
そして――
その「忘れていない」という感情を、少しばかり利用するだけだ。
私はただ、あの悪女の希望を伝えるだけだ。
全く問題ないだろう。
ルシウスは満面の笑みで答えた。
「これくらい、右腕として当然の務めです!」
そして、ザックが去った後
「……ふふふふふふふふ!」
ルシウスは一人不気味に笑っていた
オリヴィア
「どうしてルシウスが動くと、こんなに嫌な予感がするんだろう?」




