社交界準備 服選び
「ただいまー!」
「おかえり、ザック。あのね――」
「閣下!!」
ザックがランニングから戻ってくると、ルシウスがオリヴィアを押しのけるように前へ出た。
「おう、ルシウス。来てたのか」
「はい!ちょうど今、社交界デビューのお話をしていたところです!」
「ああ、舞踏会?」
「ええ。閣下のお召し物について――デザイン案をいくつか書かせていただきました!」
「いつの間に書いていたの、あなた?」
「まずはこちらですが、閣下の凛々しさを引き立たせる濃紺を基調としたデザインでございます!」
「そして次はー」
「へー。ルシウス、うまいな!でも、適当でいいぞ?別に」
「よくありません!」
「軍服とかじゃだめなのかな?」
「だめです!!」
「だめなのか。ちゃんとしてるからいいと思ってたよ」
「嫌です!閣下の記念すべき社交界デビューですよ!!?」
「嫌なのか。じゃあ、まあ……ルシウスに任せるよ」
「はい!では次の案です!!」
「おう!ありがとなルシウス!」
「じゃあ、オリヴィアの服見に行こうぜ!」
「え?」
「……え?」
「私の?」
「おう!だってさ、こういうのって夫婦で合わせるだろ?俺、オリヴィアに合わせて作るから!」
「夫婦…………」
急に放たれた夫婦という言葉に、オリヴィアの顔がぽっと赤くなる。
「俺、オリヴィアのドレス姿見てみたいし!そういえば、見たことないんだよな俺」
「閣下ーーーー!!私の話を聞いていましたか!?」
後ろから悲痛な声が飛んできた。
「聞いてる聞いてる1だからさ!俺の服は後でルシウスが決めてくれるか?」
「それはもちろんです!!」
「うん。サンキュ。じゃあ俺着替えてくるわ!」
颯爽と去っていくザックを見送り、ルシウスが悔しそうにつぶやく
「あなたの服はどうでも良いのですが、閣下に恥をかかせぬよう、私も選びます!」
「え、あなたもついてくるの?」
「当然です!閣下の服を決めるためですから!!」
それからしばらくして。
三人は、王都でも名の知れた仕立て屋を訪れていた。
「こちらが、今季おすすめのドレスでございます」
「わぁ……」
次々と運ばれるドレスに、オリヴィアの目が輝いた。
「こちらなどいかがでしょう?」
店員が淡いピンクのドレスを広げる。
「とっても可愛い!」
「却下です」
「え?」
間髪入れず、ルシウスが口を挟んだ。
「閣下にピンクは違います」
「私の服なんだけど!?」
「あなたにも……まあ、似合わないのでは?」
「じゃあ、こちらの黒は?」
「黒も違う!」
「なんで!?」
「閣下には地味すぎます!!」
「だから、私の服なんだけど!?」
「あなたにも……まあ、似合わないのでは?」
ルシウスは真剣そのものだった。
「閣下の溢れる素晴らしさを、もっと存分に体現する色でなければいけません!!」
「……なあ、ルシウス」
「はい!」
「ドレスって、オリヴィアが選びたいものを選ぶんじゃないのか?」
「俺は、ピンクでも黒でも合わせるからさ。オリヴィアに選ばせてやってくんねーかな」
「…………ですが。その場合私もピンクを着用することに………」
「え、なんであなたが?」
「そりゃあ、私は閣下の右腕ですから。そろえるのは当然のことでしょう」
「…………当然のことなのかしら?」
「いや、今はオリヴィアの服選んでるからさ。お前は俺の服だけ選んでくれればいいから」
「……かしこまりました」
「ん。よろしく!そういえば、ルシウスって今日出勤じゃなかったか?」
「はい!なので先ほど早馬を走らせ、遅刻する旨は伝えてあります!」
「そこまでして来たの!?」
「もちろんです!閣下の社交界の華々しいデビューに比べれば、軍の仕事など些細なことですから!」
「それ。軍人失格では…………」
「ルシウス、大丈夫だ。ありがとうな。決まったらちゃんと連絡するよ」
「留守を任せられるの、お前だけなんだからさ。俺の服はほんと後でいいし。今日は仕事行ってこいよ」
「閣下……」
ルシウスは胸に手を当てた。
「……承知しました」
そして、キッとオリヴィアのほうに鋭い視線を向ける
「では……くれぐれも、閣下に相応しいものを」
「だから私の服だってば」
「…………ピンクは………」
「何よ」
「……いえ。どうか、閣下をよろしくお願いいたします」
「はいはい」
「では、失礼します!」
ルシウスはやっと店を出ていった。
「……なんか、ルシウスがいつもごめんな」
「……ううん。あなたが凄く慕われてるんだって分かるから、嫌いじゃないわよ」
「そっか」
「……好きでもないけど」
「……そっか」
「ふふっ。私が選んでいいって言ってくれてありがとう。ザックも一緒に選んでくれる?」
「おう!」
そうして二人で選んだドレスは、上品な淡いピンクだった。
仕立て屋を出たあと、二人はアクセサリー店へ向かった。
「俺、こういうの全然わかんねぇんだよな……」
ザックは店内を見回すと、店員をこっそり呼び、何やら小声で相談する。
やがて、店員がいくつかのアクセサリーを持ってきた。
「わぁ……」
その中の一つに、オリヴィアの目が止まる。
小さな石を一粒だけあしらった、シンプルなネックレスだった。
「これ、綺麗……」
「じゃあ、それにしよう」
「え?」
「似合うと思う。オリヴィアにも、さっきのドレスにも」
ザックが笑うと、オリヴィアが嬉しそうに頷く。
「じゃあ、これにする!」
「よし!」
するとザックは、同じ石をあしらった小さなブローチを手に取った。
「じゃ、俺はこれ」
「お揃い?」
「うん。アクセサリーくらいは俺らお揃いでつけようぜ」
「……うん」
胸元に下げるネックレスを、そっと指で撫でる。
憂鬱だった社交界が、ほんの少しだけ楽しみになった。
ルシウス「…………ピンク」




