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転生したら屋敷が燃えていました。わたしのせいらしいです  作者: 虹色日和


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20/32

過去は振り返らない!

ライブ終了後

前任者の代わりに真正面から怨念ライブを浴び続けたオリヴィアは憔悴していた。


「いやー!カッコ良かったな!俺あんな音楽初めて聴いたぜ!」

「えぇ。そうね……私もカッコよかったと思うわ」


(歌詞以外だけど………)


その時、後ろからエリックが呼び止める


「よう……王女サマ」

「え……はい」


ゆっくりと近づいてくるエリックに、オリヴィアは少しだけ身構える


「エリック……さん。お久しぶりなのかしら?」

「まさか……お前。俺のことを覚えてないのか!?俺だよ俺!オレオレ!」


急にオレオレ詐欺のかけ子のようになって目を丸めるその姿は、ステージの上と違って年相応の青年に見える。


「えっと、名前は分かるのだけど……ごめんなさい」


エリックの顔が引きつる


「ふんっ。まあ、いい」

「え……いいの?」


「あぁ。いいさ。俺も武者修行でだいぶ変わったからよ」

「武者修行?」


「あぁ。王都公演で初めて王女サマの前で演奏したんだけどさ。あの時はあんた、観客席にベッドを運び込んで寝ちまったんだよ」


(えっ……………………と!!!!!??)


(ベッドを……運び込んで……寝た……!?)


その瞬間、オリヴィアの中で、ぼんやりしていた記憶が一気につながった。


確かに、ある。

心地よい音楽を聴きながら「このまま寝たら最高だな」と思った記憶が。


(待って……それで私、何したって言った?)


(ベッドを運んだの!?……なんで!?)


心地よい音楽を聴いて、眠くなった。

――それは分かる。


(でも……でも、なんでその感想の出力方法が「会場のど真ん中にベッドを持ってこさせて寝る」なのよ!?)


(もっと他にあったでしょう!?)


急に蘇った記憶と、目の前のエリックの怨念が一気に押し寄せてきて、オリヴィアの頭は完全に混乱していた。


「……あの日から、俺は修行の旅に出たんだ」


「もう二度と誰も眠らせない。そんな音楽を作ってやるって」


まだ少年だったエリックは、ギター一本を抱えて旅に出た。


まず向かったのは、独特な奏法を持つ民族の村。

そこで、見たこともない楽器と演奏方法を教わり、音楽の概念が変わった。


次に訪れたのは、三日三晩、音楽を止めずに踊り続けるという祭り。


「これだ……!」

エリックは、ここに自分の求めた答えがあると信じて目を輝かせた


そして翌日、フンドシ一丁で太鼓を叩きながら踊るエリックの姿があった。


「ウォォォォォォ!!」

「エリック!もっと腰を落とせ!」


「こうか!?」

「違う!魂で叩け!!」


「なるほど!こうか!」

「そうだエリック!筋が良いな!」


「魂の叫びだ!!」

「そうだ!!魂の叫びを表現するんだ!!」


ドンドンドンドンドン!!

「ウォォォォォォ!!」


だが祭りの2日目、エリックには強烈な眠気が襲ってきていた。


「くそ。まだ……だ……」

「こんなところで……眠ってたまるか……!」


足がもつれ、視界が霞んでも、エリックは歯を食いしばった。

なお、住民たちは交代で演奏し、普通に寝ていた。



そして、ある時エリックは気づいた。

「……音だけじゃだめだ」

どれだけ音を大きくしても、それだけでは人を惹きつけられない。


ならば――


「音楽そのものを変えるんだ!」


そうして、ギター工房を訪ね、職人たちに相談した。


「もっと身体に響く音を出せるギターにしてくれ!」

「もっと激しく!もっと低く!もっと大きく!」


さらに、演奏方法も、曲調も、舞台の演出も変えていった。


――全てはもう二度と、誰も眠らせない為に。


そしてついに――

エリックは、ロックという新概念を確立した。



「……そうして、今の俺があるんだ!見た目もだいぶ変わったからな!どうだ、これが俺の修行の成果だ!」

エリックは誇らしげに胸を張っている。


「……すごいわ」

オリヴィアは素直に感心した。


何年も、何年も努力して。

音楽そのものを変えてしまうほどの情熱、その努力はどれだけのものだったのだろう。


「本当に、すごい努力をしたのね」

「そうだ!思い知ったか!」


(……何をだろう)


「だがな、実はまだ俺の音楽は完成していないんだ」

「え?」


「これだけは最後に、どうしても確かめなきゃならない」


「なぁ………王女サマ」

「………はい」

オリヴィアは、緊張に背筋をただした。


「今日――」

オリヴィアはごくりと唾を飲み込む


「眠気はあったか?」

「…………?」


(なにその確認……)


いや、違う。この青年にとってはそれが人生を丸ごと変えてしまうほどの大事な問いなのだ。


オリヴィアは、恐る恐る答えた。

「……全くなかったわよ。寝られるわけないじゃない」


「……本当か?」


周りではまだ興奮冷めやらぬ観客たちが、あちこちで今日の演奏について語り合っている。


「えぇ。本当にすごかったもの。最初は少し驚いたけど。とっても、かっこよかったわよ」


エリックは目を見開き固まると、強くこぶしを握り締めた


「よっしゃぁぁぁぁーーー!これで、あの日の借りは返したぜ!!」

「ありがとよ、王女サマ!俺はずっとその言葉が聞きたかったんだ!」


なぜ、感謝されているのだろう。オリヴィアにはよく分からなかった。

けれど、前任者が彼にしたことは謝らなければならない。そう思い、口を開いた。


「あの、エリック?前は失礼なことをしてしまって本当にごめんなさい。あの時の音楽もとても素敵だったわ。」


「ふっ。もう良いんだ!」

「え?」


「今は、もう眠くなかったんだろ?」

「え、えぇ」


「じゃあ、俺はもう満足だ!」


そして、格好つけるように髪をかき上げ


「過去は振り返らない!!それが!!」


「ロックだ!!」


そうキメ顔で親指を立てた彼の代表曲は

今日も過去への恨みで埋め尽くされていた。



「うぉぉおおお!かっこいいぜエリック!!」

「音楽もだけど!お前の生き様とかすげー全部めちゃくちゃカッコよくてさ!!」


「よかったら、軍の士気を上げるような曲とかも作ってくれねぇかな!」

ザックは、少年のようなピュアな眼差しでキラキラしながらエリックに話しかけている。


「絶対士気が上がると思うんだよ!」

「いいぜ!軍のための曲か。面白そうだ!」


「やった!」


エリックが、ふと思い出したように言った。


「俺、今度のローレンティア侯爵家の社交界で演奏することになってんだけどさ、王女サマも来るだろ?」

「社交界?」


「あぁ。2か月くらい後のやつなんだけど、まだ招待状とか来てないか?」

「……届いてないわね」


「私、この間、帝国で問題を起こしてしまったでしょう?だから、公の場にはあまり出さないほうがいいと思われてるのかもしれないわ」


「そうなのか。じゃあさ、俺が推薦してやるよ」

「…………え?」


「俺、ローレンティア侯爵夫人と仲いいんだよ!」

エリックは、当然のように胸を張った。


「じゃあな!楽しみにしてるぜ!社交界!」


どうやら彼は、自分が王女を社交界に推薦できる立場だと思っているらしい。


去っていくエリックの背中を、オリヴィアは見つめた。


なぜだろう。

社交界。前任者の記憶には「つまらない」という印象しか残っていない。


それなのに、なぜだろう。

今は、なんだか嫌な予感がする。


「……気のせい……よね?」


もちろん、気のせいではない。

エリック「ザック!歌作ったぜ!」


『敵は目の前だ!寝ている暇はない』

『寝かせるつもりもない!!』


ザック「かっけー!!」


オリヴィア「待って、敵って……敵よね?」

エリック「当たり前だろ。敵は敵だ」


オリヴィア「……そうよね」

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