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転生したら屋敷が燃えていました。わたしのせいらしいです  作者: 虹色日和


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やべぇ女を貰っちまった

昨日まで、自分の屋敷だったものを眺めながら、ザックはしばらく黙っていた。


黒く焦げた柱。崩れ落ちた屋根。

そして少し離れたところでは、王女オリヴィアが草の上に転がっていた。

昨日、妻になったばかりの女だ。


「家、燃えちまったな」


ザックは焼け跡を見ながら、少しだけ考えた。

昔は、今日寝る場所があるかどうかすら分からない日もあった。


「……まあ、なんとかなるか」


昔と比べて、自分でも驚くほどあっさり納得した。


「いや、やっぱり結構すげえな、これ」


やっぱり納得していなかった。

つい昨日、王から賜ったばかりの屋敷だ。


家具も荷物も、まだ揃いきっていない。

使用人たちだって、王女の新しい生活のために集められたばかりだ。


そのせいか、火の回りがあれだけ早かったわりに、幸い怪我人は出なかった。


「……まあ、自分の家だって思う前に燃えちまったけどな」


ザックはもう一度、真っ黒になった屋敷を見て、少し笑った。



そもそも――

どうして自分が王女と結婚することになったのか。


話は一年前に遡る。


その日、王に呼び出されたザックは、いつものように謁見の間に立っていた。


「ザック。これまでの功績に対して、褒章を与えよう」

「ありがとうございます」


「何か欲しいものはあるか?」

「欲しいもの、ですか?」


改めて聞かれると困る。


食事には困らない。

寝る場所もある。

昔の自分からすれば、十分すぎるほど恵まれている。


だから「特には……」

そう答えて、保留にしてもらっていた。


そして2か月ほど前、軍の定期報告の為再度王宮を訪れたとき、

ザックは、王女の噂話を聞いた。


「そういえば、先日の帝国訪問で王女殿下が問題を起こされたとか」

「またあの王女か。何をしたんだ?」


「それが、呼ばれてもいないのに勝手に帝国に押しかけてわがまま放題した挙句、王宮では侍女に対して酷い言葉をかけて怪我までさせたと。」

「……それは、さすがにまずくないか?」


これまでも、何かと悪評の多い王女だ。

いつか何かやらかすとは思っていたが……


「さすがに、帝国はまずいだろう。」

「あぁ。向こうもかなり怒ってるみたいでな。今、陛下たちは後始末が大変らしい。」


「侍女はスラム出身だったそうなのだが、侍女を傷つけられたことに酷く憤慨しているそうだ。」

「はぁ。王女のスラム嫌いも、ここまで来ると災害だな」



ザックは、胸の奥が嫌な熱を持つのを感じた。


「最低の王女だ。」そう思った。


生まれた場所。

育った環境。

それだけで人間を決めつけられる。


それがどれだけ腹立たしいことなのか、ザックは知っている。


「それで、王女殿下は謹慎中なのか?」

「あぁ。だが部屋でもかなり荒れているそうだ」


「……荒れてる?」

「部屋の中で物を投げたり、怒鳴ったり。誰が何を言っても聞く耳を持たないとか」


「陛下もかなり頭を悩ませていて、このまま帝国側とこじれれば、最悪処刑といううわさも......」


ザックは静かに胸がざわつくのを感じていた。


最初は、ざまあみろ。と思った。


帝国でスラム育ちの侍女を馬鹿にしたんだ。

そのくらいの罰は受ければいい。


そう思っていた。


けれど。


「……処刑?」


思わず聞き返した。


「将軍!いらっしゃったのですか!」

「えぇ。このままでは、という話ですが......」


「……」


胸の中にあった嫌悪感が、少しだけ形を変えた。


王女のことは嫌いだ。

それは変わらない。


人を馬鹿にするような人間は嫌いだ。

スラム育ちを理由に人を見下す人間も嫌いだ。


でも。


「……そこまでじゃ、ないだろ」


(今から会議だから、その時王様にちょっと聞いてみるか。)


そしてそのまま臨んだ王を交えた会議の後、

ザックは王を呼び止めた。


「あの!陛下!王女の話を聞きました!」

「ほう?どうしたザック。保留にしていた褒章の件かと思ったら、王女の話か?」


「はい!あ、褒章?えっと、俺が王女を、もらいます!!」


(……ん?)


王女の処遇を聞いてみるだけのつもりだった。


自分の言葉を頭の中でもう一度再生する。


『俺が。王女を。もらいます?』


「……あれ?」


……今、何言ったんだ?俺。


目の前では王が目を見開いて固まっている。


やっちまった。


ザックは慌てて言葉を続けた。


「ほら、俺はスラム育ちですから」

「王女殿下は、そういう人間が嫌いなんでしょう?」

「だったら、俺と結婚するのは……まあ、罰になるでしょうし?」


「俺も、報奨をもらえる」

「王女殿下も、罰を受けられる」


「……ほら!」

「なんか、ちょうどいいじゃないですか!?ハハッ......?」


自分でも、何を言っているのか分からなかった。


ただ言葉を重ねているうちに、なんだか本当にそれがちょうどいいような気がしてきた。


(言っちまったもんは仕方ねぇ。腹、括るか……)


「だから、俺が引き受けます!」


だからその言葉だけは、王の目を見てはっきり伝えた。




そして昨日。

結婚当日。初めてオリヴィアと対面した。


当日まで大暴れしたせいで結婚式は無くなり、なぜか意識を失った状態で運び込まれた王女が、

ゆっくり目を覚ました。


「えっと……」


どう説明すればいいのか分からなかった。


王女からすれば、最も嫌うスラム上がりの男と結婚させられたのだ。


(絶対に怒ってる......よな?)


だから、できるだけ落ち着いて話そうと思った。


「まあ、急にこんなことになって困るよな」

「俺も勢いで言っちゃってさ!」

「だから、無理に――」


一歩近づいたその瞬間。


バシッ!!バシッ!!


「…………」


見事な往復ビンタだった。


そして。


「近づかないで!」

「いや、ちょっと待てって」


「あなたに触られるくらいなら!このベッドごと燃やしてやるわよ!!」

「いや、それは――」


言い終わる前に、炎が上がった。


「……まじかよ」


布に火が移り、家具へ広がり、部屋を包んでいく。


ザックは扉を開け、力の限り叫んだ

「火事だ!全員すぐに逃げろ!」


「おい!俺たちも逃げるぞ!!」

「だから触らないでって言ってるでしょう!」


オリヴィアは、ザックを鋭くにらみつけたまま勢いよく腕を振りほどく。


「お前!そんなこと言っていたら死ぬぞ!」

「別にいいわよ!どうせ、処刑だったんでしょう?そのうえスラムの人間なんかに触られるくらいなら、そのほうがましよ!!」


「何言ってんだ!!お前!!」

「簡単に命捨てるとか言ってんじゃねぇ!死んで解決するような安い命なんて、どこにもねぇんだよ!!」


思わず怒鳴ったその言葉に、彼女がぴたりと止まった。


「…………」


唇をかみしめるその顔は、泣きそうだった。

少し驚いたような。戸惑ったような。そんな顔。


「……俺が、ちゃんと逃がしてやるから、しっかりつかまれ!」


ザックがそういうと、彼女は目をそらして不服そうに、それでも小さく頷いた。

ザックはそのまま彼女を抱えて屋敷の外へ飛び出した。



そして今、草の上で眠るオリヴィアを見る。


さっきまであれほど騒いでいた女とは思えないほど、静かな寝顔だった。


「……普通の女に見えるんだけどな」

「……まあ、ヤベェ女なのは変わらないけど」


ザックは苦笑した。


最初は嫌いだった。

今だって、正直別に好きとかではない。


でも、あの炎の中で見た顔を思い出す。

泣きそうな顔。


あのときだけは、あいつも本気で怖かったんだろう。


「……自分で言っちまったんだ。しょうがないか。」


家なら、また探せばいい。

スラムにいた頃は、屋根のある場所で眠れるだけでありがたかった。


「小さい家でも、別にいいしな」


そう言ってから、眠っているオリヴィアを見る。


「……ただ......」


「この人、いきなり小さい家とか大丈夫なのか?」


「まあ、なんとかなるか」


そして焼け跡を見ながら、もう一度笑った。



結婚二日目。


夫婦には、家がなかった。

王様「……え、ワシ褒章って言ったよね?

罰ゲーム選んでいくスタイルなの?」


え!?屋敷も燃えた!?

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