新婚祝いです!
翌朝
オリヴィアが寝室を出て、朝食でもどうしようかと考えながら廊下を歩いていると――
廊下の真ん中に、人が倒れていた。
「きゃーーーっ!?」
「ちょ、ちょっと!? 大丈夫!?」
「あぁ……朝か」
「朝か、じゃないわよ!」
顔を上げたのはザックだった。
「なんでこんなところで倒れてるの!?大丈夫!?」
「あぁ。寝てた」
「寝てた!??」
「うん」
ザックは何事もなかったように起き上がる。
「どこで寝ようかなーって、昨日フラフラしてたんだけどさ。まぁ、どこでもいいかなーって!」
「よくないわよ!」
「まぁ、よく寝れたからおっけーだろ!」
「おれ、どこでも寝れるんだぜ!」
「なんで自慢げなのよ……」
オリヴィアは額を押さえた。
「いいから、寝室で寝ればいいじゃない」
「え?いいの?」
「いいわよ。あんなところで寝られる方が困るもの」
「じゃあ今日からそうするわ!」
「ただし!ベッドは離してね!」
「なんで?」
「なんでって……!」
説明するまでもないでしょう、と言いかけた、その時だった。
コンコン。
玄関から、控えめなノックの音がした。
「……誰かしら?」
オリヴィアが扉を開ける。
そこに立っていたのは、クラリスだった。
「おはようございます、オリヴィア様」
「あら!クラリス。おはよう」
「この前のお茶会では、たくさん物を壊してしまったでしょう?」
「そのお詫びに、新婚祝いを持ってきました!」
「新婚祝い……?」
「はい」
クラリスは手にしていた箱を、すっと差し出した。
中には、透明な液体が入った、小さな注射器が何本か並んでいる
「……これは?」
「筋肉増強剤です!この前、将軍様が『俺も、あの薬使ったらムキムキになれるかな!』とおっしゃっていたので」
「おおおおおおお!!」
「なんでよ!!!!」
「すげー!ありがとう!さっそく試してみていいか!?」
「今!?」
「もちろんです。腕を出してください」
そうしてクラリスが注射器を構えた、その瞬間だった。
「閣下!!」
今日も日課の挨拶にやってきたルシウスが勢いよくドアを開けて飛び込んできた。
「貴様!閣下になにをしている!!」
ブスッ。
「え?」
ザックの前に勢いよく飛び出したルシウスの肩に、注射器が刺さっていた。
「……あ」
クラリスが小さく声を漏らす。
「事故です」
「貴様ァァァァァ!!!」
「あ、あなたが飛び込んできたのでしょう!?」
「この薬はなんだ!?まさか毒じゃないだろうな!」
「……いえ、どくでは......」
そうして会話をしている間も、みるみる筋肉が膨らんでいく。
「すげぇ!!」
「ルシウス、ムキムキじゃん!」
ザックが目を輝かせた。
「閣下……」
ルシウスは複雑な目をザックに向ける。
「私が……閣下をお守りするために身を挺した結果……」
「すげぇな!カッコいいぜ!ルシウス!」
「…………」
ルシウスの目が潤む。
オリヴィアはそんな二人を横目に、ふと部屋を見回し、ぽんっと手をたたいた。
「……あ、そうだわ!」
「?」
「ついでだから、模様替え手伝ってよ!」
「は?」
「棚を動かしたかったのよ!ちょうどよかったわ!」
「……なんでこの私が、貴様の頼みなぞ!」
「お!確かにそっちの方が使いやすそうだな!」
「え?」
「ルシウス、悪い!この棚動かせるか!?」
「――もちろんでございます!!お任せください閣下!!」
「どちらへ!?こちらですか!?あちらですか!?」
「......あなたって、こんな感じだったっけ?むかしは冷徹のなんちゃらって呼ばれてなかった?」
毒薬研究の名門と、軍事の名門。
軍関連の集まりなどで互いに面識はあったが、あまりの変貌ぶりにクラリスが目を丸くする。
「え?ルシウスって昔そんな感じだったの?」
「えぇ。冷徹の貴公子とか。クール系ナルシストとか呼ばれていたわ」
「ナルシストって、それ、褒めてるの?」
吹き出すオリヴィアを、ルシウスがにらみつける。
「あ、ついでにこちらのテーブルも移動してくれる?」
のんきに指図するオリヴィアに、ルシウスが口をつぐむ。
そして、床に落ちていた注射器を拾い上げた。
「……これを、使えば」
「?」
「この......極悪王女め!!」
「は!?」
「私を......これほどまでにした責任を取ってもらうぞ!!」
「ちょっと待って、何の話!?」
「貴様も一緒にムキムキになって、私と働くのだ!!」
「嫌よ!!」
「うるさい――!」
ルシウスが注射器を振りかざし、オリヴィアへ一歩踏み出す。
その時、ロボ丸の目が赤く光った。
「危険行動を検知しました」
「え?」
「対象、王女への危害を企図」
「待っ――」
バシュゥゥゥン!!!
「ぐわあああああああ!!!」
ロボ丸から閃光が放たれ、あたりが煙に包まれる。
やがて、そのなかから黒焦げになったルシウスが姿を現した。
髪の毛は爆発し、服から煙が上がっている。
「…………」
ザックが気まずそうに口を開いた。
「……ルシウス、あの、大丈夫か?」
ルシウスはゆっくりと自分の手を見る。
その手には、焼け焦げた注射器。
「……私は。私は……。閣下を、お守りしたかっただけなのだ……」
「うん……あの、ありがとうな。ルシウス」
「……ごめんなさい」
「……私も、なんだかごめんなさい」
クラリスとオリヴィアも謝罪を口にする。
「……なんか、悪かったな」
「……なぜ、私がこんな目に......」
その横でロボ丸が淡々と告げた。
「危険排除、完了」
そして薬の効果時間の5分が経過し、ルシウスは黒焦げのまま元に戻り崩れ落ちる。
「くそ。腹が減った」
クラリス「こちらやけどのお薬と、黒焦げのお薬です!」
オリヴィア「黒焦げのお薬ってなに!?」




