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転生したら屋敷が燃えていました。わたしのせいらしいです  作者: 虹色日和


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最後の宿題

ぐちゃぐちゃに荒れ果てた庭。


ボロボロのテーブルクロスにくるまれたクラリスの隣に、オリヴィアがしゃがみ込んだ。


「クラリスさん、大丈夫?どこか痛いところはない?」

「はい、大丈夫です!ただ……」


ぐぅぅぅぅぅ……。


「……お腹が、空いています」

「それは聞かなくても分かったわ」


オリヴィアは思わず苦笑した。


「何か食べるものを持ってくるわ」

「……ありがとうございます」


「まだ、たくさん料理を用意しているの。全部食べていいわよ」


そう言って、急ぎ整えたテーブルへクラリスを案内する。

クラリスが料理を口に運ぶ様子を見届けてから、オリヴィアはふと口を開いた。


「ねえ、クラリスさん」

「はい?」


「そういえばさっき……『本当に、覚えていないのですね』って言っていたでしょう?」

「私、あなたに何か酷いことをしていたのよね?」


「え?そんなことはありませんよ?殿下に出された宿題……忘れちゃったのかなって思って」

「宿題?」


「やっぱり、殿下忘れちゃったんですね......」

「ご、ごめんなさい。申し訳ないのだけど、もう一度最初から教えてくれるかしら?」


「はい。初めてお会いしたのは、私が十三歳の頃でした」

「そこから!?」


「あの頃の私は、今よりずっと地味で……痩せていたでしょう?」


「えぇ確かに……そうだったわね」

オリヴィアの脳裏に、前任者の記憶が浮かぶ。


「私。毒が怖いって言われて。みんなから中々話しかけてもらえなくて......」

「でも、殿下は違いました!」


『ねぇあなた、薬とか毒とか得意なんですって?』

『ちょっと、このニキビを消す薬持ってきて?一時間以内ね』


そして――


『へぇ。あなた、使えるじゃない。友達にしてあげるわ!』


「殿下は、私の薬を気に入ってくださって、それから毎週、薬を届けるようになりました」


「それに殿下はいつも、私を心配して宿題をくださったんです」


「宿題……?」


『あなたに宿題をあげるわ。地味でどんくさいのだから、このくらい勉強しなさい』

『この宿題ができたら、また来てもいいわよ。あなたのためなんだからね!』


「そう仰ってくださって」

クラリスは、幸せそうに微笑んだ。


「だから私!宿題を完成させて、毎週せっせとお届けしたんです」

「……そう」


「自分の勉強で友達の役に立てて嬉しかったんです!」


(この子……なんだか不憫だわ)


「でも……先ほど、殿下が私を見て『久しぶりね』とおっしゃったでしょう?」

「……ええ」


「いつもお会いすると、殿下は『で、宿題できた?』とおっしゃっていましたから」

「今日も、いつものように宿題を聞いていただけると思っていたんです」


『本当に、覚えていないのですね』

あの言葉に、そんな気持ちが隠れていたなんて。


「……ごめんなさい」

「いいえ」


「それで、その宿題というのは?私は最後の日、何かあなたに渡していたのかしら......」

「はい!」


クラリスは、ぱっと顔を輝かせた。

「私、殿下が下さった宿題!『弱くては毒すら盛れない』という言葉を、ずっと考えていたのです!」

「それも、本当にごめんなさい。私……」


そう続けたオリヴィアを遮るように、クラリスは力強く拳を握った。


「強くなるのが次の宿題だったんですよね!?だから私、頑張って強くなったんです!」

「えっ?」


(え……そんな解釈になってたの?)


「毒を扱うには、知識だけでは足りないって、殿下が教えてくれました!」

クラリスは、誇らしげに胸を張った。


「な、なるほど……?」


オリヴィアは、先ほど庭で膨張したクラリスの姿を思い出した。


(なるほどで済ませていいのかしら……?)


「それだけではありませんわ!」

クラリスは、さらに身を乗り出した。


「殿下は私に『地味』ともおっしゃいましたでしょう?」

「ええ。……本当にごめんなさい」


「だから、お化粧も勉強したんです!」

「ええ。とても綺麗になったと思うわ」


「本当ですか!?」

「ええ」


「ありがとうございます!」


「きっと、ものすごく努力したのでしょうね」

「はい!私、頑張りました!」


そう言って、満面の笑みを浮かべるクラリスが、オリヴィアにはとてもまぶしく見えた。


「……素敵ね」

「え?」


「あなたって、すごく素敵だと思うわ」

「私が……?」


「ええ。あんなことを言われたら、私ならきっと傷つくわ。でも、あなたはその言葉を自分の力に変えたのでしょう?」

「私には、とても真似できそうにないわ。本当にすごいと思う」


「殿下……」

「でも、あんなに服を破るほど膨らむなんて心配だわ?無茶はしてほしくないの。本当に大丈夫なの?」


「……大丈夫です。心配、してくださるんですか?」

クラリスの目が、少しずつ潤んでいく。


「あたりまえじゃない」

「でも私、今回の宿題は、たくさん時間がかかってしまったんです」

「だから殿下は、もう宿題のことを……私のことも、忘れてしまったのかと思っていました」


クラリスは、しゅんと肩を落とした。


(そんなこと…………)

前任者が適当な理由をつけて押しつけていた、他愛もない宿題。

それをクラリスは、何年もかけて本気で完成させようとしていたのだ。


「……そう、だったのね」

「あなたの宿題。本当にすごかったわ。見せてくれてありがとう」

「はい!」


「じゃあ、これは私からの最後の宿題。いいかしら」

「最後……?」


クラリスが不安そうに顔を上げる。

オリヴィアは、優しく微笑んだ。


「えぇ。これからずっと、毎日必ずやるのよ?」

「はい!何でしょう?」


「自分をもっと、大事にしてほしいの」

「え……自分を?」


「ええ。無理をしすぎないこと。自分の身体を粗末にしないこと。ちゃんと自分のことを考えること」

「……はい」


クラリスは、真剣な顔で頷いた。


「分かりました。毎日、頑張ります!」

「ふふっ。クラリスさんらしくて素敵だと思うけど、違うわ。頑張らなくてもいいの。休むことだって宿題よ」


「え、えぇ?休むことが宿題?」


そこで、クラリスの表情がふと曇った。


「……あの」

「何?」


「もしかして、宿題はこれでおしまいですか?頑張らなくてよかったら私、なにを報告したらいいのかわかりません」

「報告は必要ないわ。これからは、自分がやりたいことをしていいのよ?」


「でも……それだと殿下に会えなくなるではないですか!」


「……どういうこと?」

「え。だって、会う理由が無くなってしまいます……」


(もしかしてこの子、宿題が無ければ会えないと思っているの……?)


「宿題がなくても、遊びに来ればいいじゃない」

「……?」


「薬を持ってこなくても、宿題を完成させていなくたって別にいいのよ。いつでも来て」

「それで……よかったらもう一度、私とお友達になってくれないかしら?」


クラリスは、差し出された手を見つめると、ぱあっと顔を輝かせた。

「もちろんです!私。ずーっと殿下のお友達です!」


「ふふっ嬉しいわ」


庭には、2人の笑い声が響いていた。



その少し離れた場所で、ルシウスは呆然と立ち尽くしていた。

しばらく2人を見つめたあと、ルシウスはゆっくりと頭を抱える。


「……私の……計画が……」

「ん?計画?」


「あ……いえ」

「今、計画って言ったよな?」


「言っ……たような。言わなかったような?」


しばらくルシウスは気まずそうに宙を見つめていたが、

やがてザックのじとっとした視線に耐え切れず、勢いよく謝罪を口にする


「……はい!!申し訳ございません!私が仕組みました!!」

「やっぱりか!」


「お前、俺に言ったよな!?俺の意に反することは、今後しないって!」

「はい。もちろん覚えております。ですが、閣下の意に反することは、しておりません!」


「はぁ!?」

「先に許可をいただきました!」


「……いつ?」

「この交流会を開くことについて、閣下と殿下にも正式に許可をいただきました!」


「いや、そういう意味じゃねぇ!」

「お前が何か企んでるって知ってたら、許可なんか出してねぇよ!」

「で、そもそも、何を企んでたんだ。お前?」


ルシウスはしばらく口を引き結ぶが、観念したように口を開く。


「……王女殿下の本性を皆の前で明らかにしようと、少々」


「は?お前、もしかして一週間じゃ足りなかったか?」

「……え?」


「出入り禁止」

「え。ええっ!?」


「お待ちください!!結果をご覧ください!」


「この通り!オリヴィア様はクラリス嬢と仲良くなり、私の計画は見事に失敗したのです!」

「なんで自信満々なんだよ……」


向こうでは、オリヴィアが笑顔でクラリスとお菓子をつまんでいる。

それを見ながら、ザックは肩をすくめた。


「まあ……結果的には、仲良くなれたんだからいい……のか?」

「では、私は――」


ルシウスの顔が、ぱっと輝く。


「ただし!」

「はいっ!」


「オリヴィアになにかするのは、もうやめろ」

「俺が決めて、嫁にしたんだ」


「……はい」

ルシウスは、しょんぼりと肩を落とした。


こうして――


オリヴィアとクラリスは、今度こそ本当の友達になったのだった。

冒頭のクラリスとキャラが違う??


気にしなーい╮("╯₃╰)╭

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