69話、道中1日目、俺、特大の地雷を踏む
1日目
走り出して数時間が経った。景色は森から荒野に変わり、また森に戻った
セレンは背中で黙ってる。重さは感じない。人間の重さじゃないくらい軽い
「なぁ、セレン」
「何ですか?」
人間だし、人間じゃないなんて言い方は悪いな
「ずっと思ってたんだが、思ったより軽いな」
「失礼ですね、私の見た目が太ってるとでも?」
ん、声が低くなったような?
「いや、そういうわけじゃ。スタイルの割に胸が大きいから」
まて、今のはやばかったんじゃないのか?
「褒め方が下手ですね。ミアリスさんにもそうなんですか?」
弁明、弁明しないと
「ミアリスには体重の話はしたことない、けどセラスで似たこと言ってからかわれた」
「あらあら、アーキさんらしいですね」
あれ、優しい声のはずなのにさ
「乙女心が傷つきましたよ?」
「乙女?」
なぜだ、瞬間的に空気が寒くなったような?
「ふっ、ふふっ....」
ただ、セレンが笑っただけだし
「アーキさん、こんなこと初めて言われました。私は優しいしぜんっぜん怒ってませんから安心してくださいね?」
優しい声のはずなのに
背中の後ろが寒いし怖い?
「何故そんな事を?」
待って、セレンが胸を押し付けてきた
「怒ってないって思ってもらうためですよ、部分解除」
「えっ?」
「セレン、なんですかそれ?部分解除って?」
背中だけ鎧が剥げて豊満な胸が当たる感触があるのに嬉しいより、寒気の方が凄い
「優しい私はまっったく怒ってないですから、私の、思ったより、重そうな、胸の感触を感じてもらうと思いまして」
なんか背中以外の鎧まで一部禿げて風が傷口に当たって激痛がやばい!!
「まって、お腹が痛いんだけど!?」
「私は、ぜんっぜん...怒ってないですから」
「ちょっと刺された所が出ても死にませんから安心してくださいね」
「絶対顔が見えないけど怒ってるよね!?」
「怒ってませんから、ほら、ご褒美の抱きつきですよー?」
抱きついて回した腕の所から、鎧が消えた!?
刺された場所が痛い!?
「ごめん!ごめんって!」
「何故謝るのですか?私は まっっったく 怒ってないのですよ?」
「ほら、走りなさい。私はまったくぜんっぜん、怒ってないですから」
「がんばってく だ さ い・・・ね?」
痛い痛い痛い!頑張れない!必死に足を動かすけど倒れたら走れない
「ごめん!本当にごめん!」
悲鳴に近い声を上げたらセレンがさっきとは違う笑いをあげだした
「ふふっ、ご褒美と罰ですよ」
「罰って言った!今罰って言ったよね!?」
「罰なんて人聞きが悪い」
「人によっては、ご褒美ですよ?」
絶対楽しんでるよなこれ!
「俺にとっては罰だから!」
「そうなのですか?じゃあ頑張ってくださいね?」
激痛と悲鳴を我慢して走る。風が冷たい、セレンの怒りも冷たい。鎧が剥げた部分から激痛が後悔を際立たせてる
ダークナイトの身体は温度を感じにくいけど痛みがひどい!
しばらくしたら許してくれたのか鎧が戻ったが、死なないのに死ぬ思いした...
2度と体重の話はしない
しばらくすると肝心な事を聞かないといけなかった事を思い出した
「セレン」
「何ですか」
「聞きたいことがある」
「今日は質問が多いですね」
背中からため息混じりの声が聞こえるが聞かないといけないことなんだよ
「三日しかないからな」
「それもそうですね、どうぞ」
「精神世界はどうやって入ったら良い?」
セレンが背中で少し姿勢を変えた。真面目な話だとわかったんだろう
「洞窟で、ミアリスが俺の精神世界に入ってきた。あれはどうやったんだ」
「ミアリスさんが闇のバングルと闇の剣伝いに闇の精霊がやり方を教えて入りました」
「剣とバングルも使ったのか、通りで剣がバングルに伝えてくるなんて言ったのか」
「はい、ミアリスさんの魔力も使ってあなたの精神世界への扉を開いたんです」
だからあの時にミアリスは俺の世界を突き破ってきたんだな、
「じゃあ俺はどうやって入る?魔力なんて感じたことはないぞ?」
「あなたは闇の剣で無理やりこじ開けます」
ミアリスは魔力で、俺はパワープレイ?
「剣で?」
「はい闇の剣とバングルを触れさせてからバングルを通して魂の扉を開けます」
「シンプルだな」
「やるのは難しいですよ」
「入り方が違うがミアリスに負担はかからないのか?」
「入り口が違うだけですから大丈夫ですよ、中に入ったら同じです」
「中に入ったら何が見える?」
「ミアリスさんの魂の景色です。記憶と感情が形になった世界」
「俺の時は白い空間だった。ミアリスもそうなのか?」
「ミアリスさんの精神世界は違うでしょうね」
「何色だと思う?」
「わからないですが、今のミアリスさんなら、黒に近い色でしょう」
黒に近い色か、確かに今ならそうかもしれない
「中で何をすればいい?」
「わからないです」
「は?」
「人工魂を切り出した後、ミアリスさんの状態がわかりません」
「じゃあ、どうすれば?」
「それは、アーキさんが考えてください」
「わかった、けど予言でもわからないんだな」
「わかっても教えません。不確定要素が多過ぎますし、精神世界は入った人間にしかわからない」
「ミアリスさんは、あなたの手で助けなさい」
「わかった」
そう言われなくても、助けるに決まってる
「ミアリスは俺の精神世界で会話して本音で話した、あれがミアリスのやり方だった」
「はい、ですので助け方はあなたにしかわかりません」
俺のやり方か、考えても今は出てこない。でもミアリスの中に行った時に、わかるかもしれない
「一つだけ言えることがあります」
「何だ?」
「時間制限があります。長くいると、あなたの魂もミアリスさんの精神世界に取り込まれます」
「どれくらいだ」
「わかりません。あなたとミアリスさんの魂の強さ次第です」
「曖昧だな」
「精神世界は曖昧なものです。物差しでは測れません」
「そうか」
「でも」
「でも?」
「ミアリスさんを救って帰る時は、バングルに叫べば多分帰れますよ」
「バングルか、わかった」
「あと、もう一つ」
「まだあるのか」
「代償の話です」
「右目だろ?」
「はい。ですが右目を失うタイミングは魂から出たタイミングです」
「出たタイミングか」
「はい、出る代償に右目の視界が消えます」
「それでもミアリスさんを連れて帰れますか?」
「当たり前だ」
「即答ですね」
「片目でも帰り道はわかる。ミアリスが隣にいるからな」
セレンが背中で少しふふっと声が聞こえた
「あなた、デリカシーはないですが言う時は言いますね」
「よく言われる」
「ミアリスさんに?」
「ミアリスに」
「別にミアって言ってもいいんじゃないですか?」
セレンが何かを察したように聞いてくるが、助けた時にミアリスが許してくれるなら言う
「名前くらい、好きに呼んでください」
「…そうだな」
これ以上は黙ってしばらく走る。
空が暗くなってきた、セレンは食事は大丈夫なのか?
「セレン、晩飯は?」
「あ、忘れてました」
「忘れるなよ、何食べるんだ」
「闇からパンを…あれ、もうないですね」
「ないのか」
「すみません、干し肉ならあります」
「食べておけ」
また闇から干し肉を出したのか、古城の時といいどういう仕組みなんだこれ
「はい、どうぞ」
「腹が減らないからいらない」
「ダークナイトは食事不要です」
わかっててするのは意地悪だよな?
「味が恋しいのですか、ミアリスさんのスープですか?」
「…うるさい」
「ふふ」
セレンが干し肉を齧る音が背中から聞こえる。
「なぁ、セレン」
「食事中です」
「食いながら聞け。前も聞いたがセレンの故郷ってどんな場所なんだ」
「のどかな場所ですよ。花が多くて、空気が澄んでて」
「そうか」
「私の故郷は、最も死に近くて最も死が遠い場所です」
「矛盾してないか?」
「魂が集まる場所ですから。死んだ魂が来て、また生まれ変わっていく。死の終着点で、生の出発点です」
「輪廻の中心か」
「そうです。だから私はあそこを守らないといけないんです」
声が少しだけ硬くなった。セレンにとっての故郷は、ただの思い出の場所じゃない。責任の場所
「守ればいいだろ」
「え?」
「守りたいなら守ればいい。俺もミアリスを守るために走ってたんだ。同じだろ」
「…同じ、ですか」
「違うか?」
「いいえ、同じです。同じですね」
セレンの声が少し震えたのがわかったがすぐに戻った、けど確実に聞こえた
「食事終わりました」
「早いな」
「少食ですから」
「寝るか?」
「そうですね、今日は横になりたいです」
「わかった、下す」
セレンを下ろすと、久しぶりにセレンの顔をみたな
俺から解放されて背中を伸ばしたり、身体をほぐした後にこちらに向くと
いつもの優しい顔でこちらを微笑んでた
「今日は休んでください、ダークナイトは眠れませんが、目を閉じることはできます」
「…わかった」
セレンが横になって目を閉じる、ずっと走ってたから変な感覚だ。
俺もセレンの横で木に寄りかかる
しばらくしたらセレンの呼吸が穏やかになった
こいつは、殺戮者の背中でも横でも安心して眠れるんだな
笛に触れた、ミアのスープか
飲みたいな
ミアって無意識に呼んでしまったな、まったく俺ってやつは
自分に対して呆れた笑いと、崖から落とされた時のミアリスの涙が頭に浮かんだ




