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俺の呼び笛と君の呼び笛  作者: アルフレイム
闇に堕ちた魂
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62話、船の中、違和感と不快感と離れた心

「ツァハクは家名だからシンアかシンでよろしく」


人懐っこい笑顔だ。旅慣れた感じの穏やかな男。身なりは整っていて、荷物も多い。旅商人としては自然な姿だ


「よろしく、シンアさん」


「ミア、今日はもう部屋に戻ろう」


「そうね、シンアさん。おやすみなさい」


「おやすみ、また明日」


シンアが手を振って去っていく。普通の人だ。普通の、ただの旅商人


なのに


「優しそうな方だったね」


「うん、そう..だね」


「どうしたの?」


「違和感あるんだ、なんとも言えないんだけどね」


剣もバングルも反応しない。

目つきも普通、鳴らない。

なのに何かが引っかかる。説明できない種類の不安が付きまとう


「そうなんだ、私も警戒してみるかな」


「シンアさんよりアキを信じるしね」

ミアの左目が銀色だ。信頼の目。この目を見ると安心する


「ありがとう、杞憂だったら良いんだけどね」


部屋に戻って、ベッドに横になる。ミアが隣で寝息を立て始めた


この不安感はなんだ?


闇の剣を見る。まだ白い。セラスで審判の剣に変わってから、元に戻ってない。バングルも同じだ


白いまま、何も教えてくれない


「おはよう、み、、あ?」


隣のベッドが空だった。シーツが冷たい。しばらく前に起きたんだろう


甲板に出ると、ミアがシンアさんと楽しそうに話していた


朝日の中で二人が笑ってる。ミアの左目が金色だ。嬉しい時の目


なんだ、あの顔...なんか、独占していたのが壊れるような感覚。


いや、ミアが他の人と話すくらい普通だろ

あの笑顔は普通か?


俺の前で見せる笑顔を、他の男の前で見せてる。それが妬みなのか、直感なのか、自分でもわからないが、気に入らない


ミアと目が合った


「アキ、おはよう」

ミアが寄ってきたから挨拶を返すが、普通のミアだ

「あぁ、おはよう」


「どうしたの?」


「いや、なんでもない」


「嫉妬?普通に話していただけだよ」

声に出てたのか察したミアがからかうように言う。

やはり、いつものミアだ。


「うん、そっか」


「変なの」


「おはようございます、アーキさん」


こちらに来たシンアさんが穏やかに微笑む、嫌味のない笑顔。悪い人間には見えない


なのに、背筋がザワザワする


「おはようございます、シンアさん」


「アキ、聞いて!シンって今から行く大陸に住んでるから街まで案内してくれるって」


シン。いつの間に呼び方が変わった?昨夜は「シンアさん」だったのに


「そっか」


明らかに落胆した声を出してしまった

そんな大事な事、一人で決めたのか?


旅の行き先も、武器の購入も、セラスへの潜入も、全部二人で決めてきた。ミアが一人で決めるのは初めてだ


何かがおかしい、なんだ?


まるで歯車がズレたような


「ミア、ちょっと良いか?」


「うん?うん」


シンアから離れて、船の反対側に歩く。ミアがついてくる


「ミア、そんな大事な事を一人で決めたのか?」


「え、アキに相談して...あれ?」

ミアの目が一瞬泳いだ。自分でも無意識だったのか?


「アイツに近づいたらダメだ、嫌な予感がする」


「でも、悪い人じゃない気がするし話が楽しいの」

ミアの声が少し高い。楽しそうなのは本当だろう。だからこそ怖い


闇の精霊にアドバイスが欲しい、聞いてみるか

「闇の精霊は?」


「セラスを出てから出てきてない」


バングルの精霊が沈黙?やっぱバングルが戻らないのか?

体調を聞いてみるか


「ミア、体調は?」


「元気よ?」


「なんだろう、違和感がある」


「私を疑うの?」


え、ミアの声が冷たくなった。

左目が一瞬赤と青になった。

いや、違うと思いたいが壁を作ろうとしてる?


「いや、違う」


違う。ミアを疑ってるんじゃない。シンアを疑ってる。

剣もバングルも何も言わないから確証がない


「ごめん、なんか気が立っちゃった」


「ちょっと、休むね」


ミアが甲板の方に戻っていく。シンアの方は振り返らなかった


「わかった」


俺も戻る際にシンアとすれ違った


「ミアリスさんはどうされたので」


「船酔いらしい、ゆっくりさせてあげてくれ」


咄嗟に嘘をついた。ミアの異変をシンアに見せたくない。直感でそう判断したが

シンアさんは笑みを崩さない


「残念、アーキさんはどうされるので」


「私もミアについておきます」


「そうですか、なら後ほど」


シンアが去っていく。穏やかな足取り。何も悪くなさそうな背中


だから余計に気持ち悪い


部屋に戻ると、ミアがベッドに座ってた


「大丈夫か?」


「なんかね、頭がふわふわするの」


「アキ、一緒に寝っ転がって」


ミアが手を伸ばしてきた。左目が金色だ。さっきの冷たさが消えてる。これがミア、だよな?

なんだ、この違和感は


「うん、わかった」


横になる。ミアが肩に頭を乗せてきた


「魔力酔い?」


「なんでだろ、多分乗り物酔いしないように魔法を使ってたのかな」


おかしい。ミアは馬車でも酔わなかった。船で酔うのか?


「わかった、少し寝ようか」


「うん、寝る」


「アキ、大好きだよ」


「俺も大好きだよ」


「ありがとう、おやすみ」


ミアの呼吸がすぐに穏やかになった。早すぎないか


あれ、魔力って昨日寝たら回復したんじゃないのか?


セラスで魔力酔いした時は一晩で回復した。今回はおかしい


...眠ったのに眠くなってきた。俺まで?


意識が落ちていく。抗えない




黒い空間?周りから声が響く


なんで助けてくれなかったの?何故?何故?


暗闇の中で声が響く。あの子供の声


俺は助けれなかった、確かにそうだ


何故あの力を使わなかった!


民衆の怒声。セラスの記憶が津波のように押し寄せてくる


わからない物を説明できるか


足元が黒い泥に沈んでいく。身体が動かない。これは夢じゃない


マズイぞ、お前は今攻撃されている!


声が聞こえた。俺の声だが、俺を今まで否定してきた声


攻撃?


早くお前がいま持ってる闇の剣を持て!


手を見たら闇の剣を握ってた。夢の中なのに剣がある


この泥はなんだ!?正気に戻ったみたいで泥を切ると泥から抜け出せた


けど、今度は足元から黒い泥が這い上がってくる。

必死に闇の剣で削ぐが胸まで来てた、泥が冷たい。

セラスの罪悪感とは違う何かが、外から入り込もうとしてる


良いから振り回せ!俺が俺で無くなってしまう前に!


俺に身体を寄越せ!


泥の中から白い人間の形をしたものが出てきた。俺の顔をしてる。でも目が違う。黒い。全部黒い


俺に向かってくる


ふざけるな!


「「俺の身体から出ていけ!」」


闇の剣を振ったら、白い人間に剣が通った


ぎゃぁぁぁぁぁ!


泥が弾け飛んだ。白い人間が溶けるように消えていく


はっ


目が覚めた。全身に汗をかいてる。心臓がうるさい


なんだあの夢...あれ、なんの夢を見たんだ?俺はあれ、寝る前は何を考えてたんだっけ?



闇の剣を見るとまだ白いが少し黒くなった?


辺りは夜になっていた。窓の外が暗い。朝から夜まで寝てた?


起きるとミアが居ないのに気づいた


「あれ?ミア?」


部屋から出ると、ミアが廊下に立っていた。壁に背をつけて、何かを考えてるような顔


「どうしたの?」


「ちょっとミアが居ないのが気になって」


「そう」


一言。いつもなら「心配性ね」とか「馬鹿ね」とか言うのに。一言で終わった


「ご飯は食べた?」


「あなたが寝てるからシンと食べてきた」


あなた。アキじゃなくてあなた。なんだ、別世界にきたような感覚

ミアが俺をアキと呼ばなかったのは、愛称で呼ぶ前に戻ったみたいだ


「そ、そうか」


「眠いから寝る、おやすみ」


ミアは何事もないように部屋に入って、ベッドに横になって目を閉じた


おかしい、確実におかしい。


ミアの左目の色が変わらなかった。会話の間、ずっと銀のままだった。嬉しくも悲しくも怒ってもいない。無感情。ミアは喜怒哀楽がはっきりしてる人間なのに


甲板に出た、考えるために頭を冷やしたかった。

けど目の前にはシンアが居た


「      」


シンアが誰かと話してる。でも声が聞き取れない。言葉の形をしていない音。人間の声じゃない何か


気配を感じたのかシンアがびっくりしたように振り返った。一瞬、目が全て黒く見えた。気のせいか?次の瞬間にはにこやかな顔に戻ってる


「よく寝たね、アーキ」


さっきの声はなんだった。聞き間違いか。でも俺は聞き間違いはしないはずだ


「なぁ、シンアさん。ミアに何をした?」


「何も?雑談しただけだよ、君が朝から夜まで寝てるからね。そのせいじゃない?」


「そう、なのかな?」


正しく聞こえてしまう。おかしいのに、言葉は正しく聞こえる。論理的に反論できない


「ふむ、なるほど」


シンアが俺を見てる。月明かりの中で、穏やかな笑顔を浮かべてる


「君と旅をするのも楽しそうだ」


「俺は気乗りしないけど」


「ミアリスは了承してくれたよ?」


やはり、ミアが一人で決めてる


「君、愛想尽かされるんじゃない?」


「そうなったら、ミアの口から言われるさ」


「そっかー、それもそうだね」


笑ってる。嫌味じゃない笑い方。それが一番怖い


「頑張ってね」


船の中に戻ったシンアの背中に、強烈な嫌悪感を感じた


闇の剣を確認する。まだ白い。反応しない。白いまま、何も教えてくれない


お前は何を感じてるんだ。何故震えない。

ディープウッドの時は震えたのに


食堂に行ったが周りに人はいない、本当に一人の食事だ


昨日と同じ料理を食べたが味気ない。ミアのスープが恋しいな

なぜか2度と飲めないかもしれないと思って、それを打ち消すように喉に入れた


部屋に戻ると、鍵が閉められていた


「ミア、開けて欲しい」


「近寄らないで欲しいから外で寝て」


心臓が止まった気がした


「えっ、冗談だよな?」


「本気よ、今日は一人で寝たいの」


「今日、何かあったのか?」


「うるさい、話しかけるな」


ミアの声がドア越しに聞こえる。

冷たい、もっと深い拒絶


何があったか聞く事もできないぐらいだ


「...わかった」


ドアの前に立ったまま、しばらく動けなかった


どこに居ようかな


甲板に出ると、夜風が強くなってる

星は見えるのにさ、昨日とは違ってすごく寒い

手すりに寄りかかって海を見てると、波の音だけが聞こえる


なんで、ミアはあんな態度になった?明らかにおかしい


確かにおかしいなよな、あの拒絶は違和感がある


ポケットの笛に手を入れた。二つの笛が入ってる。触れるだけ触れて、離した


吹いたらミアに届くだろうか。でも今のミアが笛の音を聞きたいかわからない


遠くに、岸が見えてきた


着くのか。着いたら、どうなるんだろう


ミアは俺の隣にいてくれるのか


手が震えてるのは、夜風のせいだと思いたいな

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