63話、下船、燃える身体と堕ちる魂
夜、船が着くのか
甲板から岸が近づいてくるのが見える。明かりが少ない。港町とは違う、暗い陸地だ
ミアの所に行くか
部屋に向かう。ドアをノックしようとしたら、開いてた
「ミア、着いたみたいだ..あれ?」
部屋にミアがいない。荷物もない
「居ない?」
甲板に戻ると、タラップの近くにミアが立ってた。隣にシンアがいる。二人で海を見てる
「ミア、居た」
ミアが振り返った。左目が黒い。一瞬で、銀に戻った。見間違いか?
「降りるよ」
「わかった」
返事が遅れた。ミアの声に温度がない。いつもの声じゃない
船を降りると、シンアが先に歩き出した
「あ、シン!」
ミアがシンアの横に並ぶ。俺の横じゃなく
「行こうか」
「うん!」
なんだ、これ
俺は二人の後ろを歩いてる。いつの間にか、この位置になった。手を繋いでいたのは昨日までだ
夜の道を歩く。港から離れると街灯がなくなり、月明かりだけになった。しばらくすると、闇が濃くなっていく。木々が覆い被さるように道を塞いでいて、月すら見えなくなった
二人が前を歩いてる。寄り添うように。たまにミアがこちらを振り返る。確認してるのか、監視してるのか、わからない
その目に、俺が映ってるのか
しばらくしたら、ミアが足を止めて声を出した
「ねぇ、周りを偵察してきて」
「あ...あぁ、わかった」
自分でも驚くくらい素直に答えてしまった。でも数歩歩いて、気づく
明らかにミアがおかしい。何故あんな事を?二人きりにさせる理由は?
腰の闇の剣に手を触れた
漆黒に変わっていた
白かった剣が、黒に戻ってる。そして
震えていた
剣が震えてる。ディープウッドで魔族に反応した時と同じ震え方。いや、それ以上に激しい
ミア、やっぱりシンアはヤバい!
振り返って走る。二人がいた場所に向かう
「ミア!まず」
目の前から炎が飛んできた
咄嗟に横に跳ぶ。熱い。かすった腕の布が焦げてる
誰だ!?
いや、わかるだろ?
お前はこの炎を何回見た?
赤黒い炎。感情魔法の怒りの炎。ミアの炎だ
暗闇の奥から、ミアが歩いてくる。杖を横に構えてる。左目が黒い。ずっと黒いままだ
左から音!ショートブレイドを構えると、シンアが剣で突いてくる
心臓を狙う動き。正確で容赦がない。旅商人の動きじゃない
タイミングを間違えるな、いまだ!
剣を上手く左に弾けた
弾けたが、すぐに次の突きがくる。速い。間隔を読ませない連続突き
一つじゃ足りない、クソ
闇の剣を左手で持ち、ショートブレイドを右手で持つ
二刀流は初めてだ。腕力不足だと自分で言ったのに。強く握る。握るしかない
何故、シンアがニヤリとした?
奴は突き主体の動きでくる。奴の武器はなんだ
細い。銀色に光る細身の剣。レイピアか!
二刀流で左手で受け流せばいけ
「私を忘れないでよ」
る?
左手が燃えた。ミアの炎が、闇の剣を握った左手を包んだ
ミア?
痛みを感じる間もなく手の感覚が無くなる。炎で神経が焼かれていく。指が開いて、闇の剣が地面に落ちた
「僕も忘れるな」
左の肩が熱い。振り返る前にレイピアが突き刺さってた。肩を貫通してる。クソ、刺された!
右手だけでなんとかショートブレイドを振るう。レイピアを跳ね返すが、力が足りない
極限集中もできない。ミアの同調がなければ呼吸が止まる。一人では使えない
いや、まだ手はある!
レイピアは突きが主体。懐に入れば突きは当たらない
ついた瞬間に懐に入る、隙を見ろ
シンアが突きを放った。外側に避ける。体を捻って懐に滑り込む
今だ!
ショートブレイドを突き立てようとした瞬間
熱い
右足を燃やされた。ミアの炎が足首を包む。バランスが崩れる。突き出した剣が空を切った
足に力が入らない、マズイ下がれ
下がれない。シンアの膝が顔面に入った
痛い。視界が白くなる。口の中で血の味がする
「ナイスだ、ミア」
「私、凄いでしょ」
シンアが笑ってる。ミアも笑ってる。二人で俺を追い詰めてることを楽しんでる
ミアの笑顔を守ると誓ったのに、その笑顔が俺を殺そうとしてる
クソ、距離を取らなきゃ
「逃がさないよ」
シンアのレイピアが服を掠める。後ろに下がる。足を引きずりながら
「頑張れ、その左脚だけであがきなさいな」
ミアの声が楽しそうだ。左目が黒いまま、口角だけが上がってる
なんとか攻撃を避けていると、後ろの空気が変わった。足元が砂利から岩に変わる。風が強くなった
崖だ
後ろに崖が出てきた。もう下がれない
「飽きた」
ミアの声が、急に冷めた
その声が聞こえたと思ったら
右脚を燃やされた
月光に照らされた俺の両足は、焼かれて黒くなっていた
膝をついてしまった。動けない。立てない
左腕を見る。黒くなっていた。さっき燃やされた手がそのままだ
「これも、いらないでしょ?」
右手に炎が飛んできた
手の感覚がなくなった。
ショートブレイドが握れない。指が開いて、剣が地面に落ちる音がした
両手両足が使えない。膝をついたまま、動けない
「トドメは私が」
ミアが歩いてくる。俺のショートブレイドを拾い上げた。俺の剣を、ミアが握ってる
無感情のまま、振り下ろして、肩に刺さった
一瞬わからなかった、熱かったその後
「あぁぁぁぁぁ!」
広がるような激痛に悲鳴を上げた。
ミアの力で深く刺さってる
抜かれて、また刺される。胸に。腹に。何回も
何回もミアに刺される
血が流れてるのがわかる。温かい。身体の中のものが外に出ていく感覚
「ミア、俺はミアが大好きだ」
声を絞り出した。これが最後かもしれない。だから言う
「そう、私はどうでも良いし」
ミアの声が遠い
「あんたが憎いし、シンのが良い男だから」
全身が熱い。ミアの炎が俺を包んでいく。燃やされてる
「 」
声にならない悲鳴が喉から出てるが、音にならない。喉が焼けてるからだ。助からないと自分でもわかるくらいに焼かれている
ミアがショートブレイドを地面に落とした。血がべっとりついた俺の剣が、乾いた音を立てた
ミアの手が俺の首に伸びる。笛の紐を掴んで、炎で焼き切った
笛が紐から離れて、地面に落ちた
ミアも首に下がった笛紐を燃やし、手の中に入れ、俺の笛を拾い上げる。一瞬、手が震えた気がした。気のせいか
ミアが崖に向かって、2つの笛を投げ捨てた
俺たちの笛が、闇の中に消えていく
シンアがミアに近づいた。手にペンダントを持ってる。黒い炎が中心に揺れる丸いネックレス
ミアの首にかけた。ミアが嬉しそうに微笑んだ
その笑顔が消えて、無表情になった
「死ね」
冷酷なミアの回し蹴りが胸に入った
身体が浮く。崖の縁を超える。落ちていく
落ちながら、上を見た
シンアが笑ってる。満足そうに
ミアも笑ってる
でも
何故か笑ってるのに、涙を流してる
左目が黒いまま、涙だけが月光に光ってた
ミアの涙を最後に見ながら、俺は闇に落ちた
笑ってるのに、泣いてた
なんでだ、ミア
今日の更新はここまで




