52話、研ぎと魔力切れ
「回復術師!だれかきて!」
魔法が使えない女医者が悲痛な声で叫ぶ。まるで人手が足りてない
ミアが立ち止まった。俺を見てる。左目が青くなってる
「アキ、すごく嫌な事を言うけど助けたい」
嫌な事なんかじゃない
「わかった、いってらっしゃい」
ミアが走っていく
「私、使えます!」
「所属は!?」
「ブラック06です!」
「ブラック、、遊撃隊ですね!夜までお願いします!」
「わかりました!」
ミアが、倒れた人に魔法をつかいだした。
見るだけじゃ嫌だな、俺にできることは...
あるな、俺にできること
しゅこ...しゅこ...しゅこ...
「これもお願いします!」
「わかりました」
しゅこ...しゅこ...しゅこ...
何をしてるって?
切れ味の悪くなった医療用のナイフとハサミを砥石で研いでる
なんでも、今鍛治士は武器のメンテナンスに全員持っていかれてるらしい。
だから医療器具を研ぐ人間がいない。手持ちの砥石で刃物の手入れをしてた経験がここで役に立つとは思わなかった
「ありがとう、助かるよ」
「いえいえ、携帯用の研ぎ石を持って来てて良かったです」
しゅこ...しゅこ...しゅこ...
たまにミアを見ると、ミアは集中して魔法をかけて治してる。治せると笑顔になるからわかりやすいな
ミアの炎は人を焼く炎じゃない。ミアの魔法は人を治す魔法でもあるんだ。
焼かれかけた俺が言う話ではないか?
いや、言えるな
しゅこ...しゅこ...しゅこ...
よし、次
しゅこ...しゅこ...しゅこ
首を切った感覚を思い出し右手が震える、何も考えるな
今は刃物を研ぐだけだ
全て終わる頃には、夜になってた
おわった...
ミアがフラフラになりながらこちらに来た。思わず立ち上がりミアを支える
「ミア、大丈夫か?」
「うん、頑張った」
声が掠れてる。突入から今まで回復魔法を使い続けたんだ
「すごいよ、よく頑張ったね」
「うん、みんな治して来たよ」
「うん、うん?」
「あの数を?」
何十人もいたはずだが?
「うん、みんなで手分けをして頑張った」
ミアが疲れた笑顔で言う。左目が薄い金色だ
「凄いね、本当に凄いよ」
「アキだって、あれを全部を使えるようにしたんだよね」
ミアが綺麗に山積みにしたメスとハサミを見て言ってくれてる
「うん、次頼まれたらヒマを見て裁断された布から糸か包帯を作る予定だよ」
「本当に凄いね」
「斥候の技の一つだよ」
「んー、杖邪魔」
ミアが杖を落とそうとした。疲れすぎて持てないんだな
「ミア、杖預かるよ」
「ん、ありがとう」
ミアが抱きついて来た。左手でマントと杖を握ってミアを隠す。力を入れなくていいようにミアの体を支えながら歩く
「他の休めるとこに行こう」
「そうしたい、今魔法出せないと思う」
「全く、しかたないな。今攻められたらどうするんだよ」
「その時はバングルを使うから、守ってね」
「わかりました、全力で守るよ」
歩き出す前にミアがマントから顔を出して回復術師の女性に声をかけた
「私達ちょっと限界ですから休憩しますね」
「はい、ありがとうございます」
俺たちが去った後ろで、小声が聞こえた
「この2人、聖母と聖母の陰かしら、、」
「あの2人がいなかったら、私達パンクしてましたね」
「今日は私達も準備が終わったら寝ましょう」
「今寝てる人に言えないですよ、あの人にあんな素敵な男性が居たなんて」
「ね、羨ましいわ、、」
聞こえてるからお願いやめて
休める場所を探して辿り着いたのは、俺たちが引き連れて来た物資を取り出した馬車の中だった
「馬車の後ろを下ろして、、っと」
荷台を寝床にする。天井があるだけマシだ
「私、眠たい」
ミアが目を擦ってる
「よし、寝れるね」
「ん」
ミアが俺の膝を指差す。もはや言葉すら省略してる
「はいはい」
膝枕をしてあげて寝かしてあげる。けど、、なんか甘えすぎじゃない?
「ミア、大丈夫か?」
「なんかね、ふわふわする」
声がいつもと違う。柔らかいというか、溶けてる
「魔力酔い、、か?」
魔力を使い切ると酔ったようになると聞いたことがある
「アキー...」
「どうした?」
「だいしゅき」
舌足らずに言ってくる。完全に酔ってるな
「俺も大好きだよ」
「にへへ...」
この笑い方は初めて見た。ミアの新しい一面がまた増えた
「今日は寝なさい、いいこいい子」
頭を撫でてあげる
「ミアは可愛いね、よく頑張った」
「うん、私偉い。すごいんだぞー」
腕を小さく上げてガッツポーズしてる。力が入ってないから全然怖くない
「うんうん...」
ガチャ
「だれかいま、、、あっ」
馬車のドアを開けた兵士と目が合った。膝枕で甘えるミアと、それを撫でる俺。それを見て反応に困る兵士
微妙な空気が流れた
「私は何も見ていません」
兵士が静かにドアを閉めた
気を遣わせてしまった。否定もできなかった
「すぅー...すぅー...」
ミアは既に爆睡だった。静かに寝かしてあげるよう努めるか
「おはよう」
「おはよう」
朝のミアは普通に戻ってる
「魔力、戻った?」
「戻った」
短い返事。いつものミアだ
「魔力が無くなると甘えるんだね」
「うるさい、忘れろ」
顔が赤い。覚えてるんだ
「甘えるミアも可愛かったぞ」
「しばらく見せないから!」
「しばらくって事はいつかは見せてくれるんだね」
「いつかね!」
ミアが馬車から飛び降りて先に歩き出す。耳まで赤い
馬車から出たら朝になっていた
「コード、ブラック06ギルド前に集合をお願いします!」
伝達兵の叫びのような伝令が響いた
「ちょうど呼ばれたね」
「だね、お腹すいたね」
「手持ちの保存食を食べるか、俺たちが呼ばれるって事は緊急かもだし」
「そうしよっか」
ミアがバッグからドライフルーツを取り出して半分くれた。走りながら食べる朝食は初めてかもな




