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第40話 ジャンケンブーム

「明日からは、今度こそ冒険者活動を再開します。

 ですが、この間話し合った通り、一日ずつ交代での活動になります。

 明日は私とベル、その次はランスロットとエリーゼですね。

 まあ、私は連勤地獄ですが……」

「自業自得だな」

「自業自得ね」

「自業自得ですね」

「急に辛辣にならないでくださいよ!」


 まあ、自業自得だしな。

 白金銭を20枚も使ったのだ。

 必要な物だったとはいえ、当然の報いだ。


 シャルロッテが話したように、タッグを組んで活動を行う。

 俺はシャルロッテとペアになった。

 エリーゼが俺と一緒がいいと駄々をこねたため、最終的にくじ引きで決めた。

 エリーゼは分かりやすく肩を落としていた。


「もう……ベルとペアが良かったわ」

「そんなに僕と一緒にいたいんですか?」

「当たり前でしょ」

「いつも一緒に寝てるじゃないですか」

「そ、そういう問題じゃないの!」


 そういうことじゃなかったのか。

 女心って難しいな。


「この辺りの魔物はそこまで強くない。

 が、代わりに集団で行動している魔物が多い」

「では、報酬は……」

「報酬自体はガラウスとそう変わらんだろう」


 どちらにせよ、二か月はこの町に滞在する。

 今後のためにも、地道に金を稼いでおかなければ。

 金も稼げて、強くもなれる。

 一石二鳥とはこのことだ。


 俺も金を稼いで、杖を買うんだ。

 自分で稼いだ金なら、使うなり貯めるなり好きにして構わないと言われたし。

 俺は欲しいものがあれば、それまで金を貯める主義だ。

 一度決めたことは貫き通すぞ。


「では、明日のペアを決めましょう」

「どうやって決めるのだ?」

「ジャンケンです」

「何ですか?それ」


 嘘だろ……?

 ジャンケンも知らずに、今までどうやって意思決定をしていたんだ?

 命懸けの決闘でもやるのだろうか。

 ケーキの取り合いがきっかけで殺し合いが始まったりするのか。


「拳を握るのがグー、

 人差し指と中指を立てるのがチョキ、

 手のひらを全部広げるのがパー。

 グーはチョキに、チョキはパーに、パーはグーに強いです。

 相手と同じものを出した場合は『あいこ』になり、もう一回戦います」

「お、覚えることが多いわね……」

「慣れるまでに時間がかかりそうです」

「やっていくうちに分かりますよ」


 掛け声などを説明して、いざ勝負。

 両ペアの代表として、俺とエリーゼがジャンケンをすることになった。


「最初はグー! ジャンケンポン!」

「しゃぁぁぁぁぁぁ!」

「負けたわ! もう一回!」

「えぇ、僕が勝ったじゃないですか」

「お願い! もう一回!

 ……ダメ?」


 そ、そんなに上目遣いで見つめられても。

 俺にだって、男としてのプライドが……。


「しょうがないですね」


 クソっ、思わず承諾してしまった。

 自分の強みと男の弱みを知っていやがるな。


「最初はグー! ジャンケンポン!」

「あいこでしょ!」


 俺はパー。

 エリーゼはチョキ。


「勝ったわ! わーい!」

「ま……負けた……」

「甘えに釣られて負けるとは。

 ダサいですね、ベル」

「やめてぇ……傷抉るのやめてぇ……」


 ハニートラップにかかってしまった結果、

 明日の活動は俺とシャルロッテが行うことに決まった。

 クソぅ。

 プライドを捨てて面目も潰れちまった。

 言いだしっぺが負けるって都市伝説は本当なんだな。



 その後数日に渡り、エリーゼの中にジャンケンブームが発生した。


---


 ラゾンに滞在し始めて、二週間。

 生活はかなり順調だ。


 最初の一週間は、シャルロッテが連勤地獄を味わっていた。

 連勤最終日、彼女は「もう二度とお金は使いません」と言って倒れた。

 今後のことを考えれば必要な出費だったため仕方ないが、

 取り決めは取り決めですからね。


 せっかく二か月もの長い時間があるため、俺は勉強に再着手することにした。

 まだ完璧ではない竜人語に加え、獣人語の勉強。

 言うなればアラビア語と中国語を同時に勉強しているようなものだ。

 だから、かなり頭が混乱してしまう。

 幸い、竜人語は人と会話できる程度には理解できるから、何とか続いているが。


 獣人族の住む森はボレアス大陸の方にあるため使う機会があるかは分からないが、

 勉強しておいて損はないだろう。


 一方で、魔術の練習も怠ってはいない。

 嫌でも二日に一回は使うが、それ以外の話だ。

 連勤中のシャルロッテを連れ出すことは流石にしなかったが、

 一人でも練習は欠かしたことはない。


 休日でも平原に出て、シャルロッテから魔術を教わる。

 中々上達はしないが、それでも着実に力はついてきているだろう。

 今のところは、魔力最大量の限界は見えてこない。

 せめて聖級魔術くらいは使えるようになりたいな。

 もちろん、そう簡単にはいかないが。


 それと、欲しい杖に目星が付いた。

 白金銭12枚。

 分かりやすく言えば12000円の杖だ。


 シャルロッテが買った杖は白金銭20枚の杖。

 俺が狙っている杖と比べると二倍近い値段だが、

 それでも俺の目当ての杖は十分高い。


 どうやらあの店の店主は俺のことを覚えていてくれたらしく、

 その杖を俺のためにセーブしてくれた。

 気前のいいおっちゃんはいいね。


 とはいえ、白金銭12枚なんてそんなにすぐ貯まるものじゃない。

 まず、シャルロッテは俺達の資金のうちの3分の1ほどを使った。

 現状、船に乗るためのお金は足りていない。

 そう、先日の誘拐事件の解決で貰った褒賞金をかなり使ったのだ。

 だから、今はそっちを優先してお金を貯めている。


 今、俺の所持金と言えるお金は白金銭換算で2枚。

 あと一カ月と少しで目標金額に到達できるのかはまあまあ怪しい。

 最悪買えなくてもどうってことはないが、

 せっかく杖をセーブしてくれた店主に申し訳ないというか。

 だから、仕事を頑張って何とかあの杖を買いたい。

 俺のためにも、あのおっちゃんのためにもな。


「ねえベル、これ何て読むの?」

「これは、『さかな』です」

「分かった! ありがと!」


 最近、エリーゼも竜人語に興味を持ち始めた。

 度々俺に読み方や書き方を聞きに来る。

 あんなに言語学習が嫌いだったのに。

 大嵐が来て出航が延びそうだな。


 ランスロットとシャルロッテは俺達のために、人間語を話してくれている。

 シャルロッテは昔から人族の言葉に興味があったため、勉強していたらしい。

 魔術も学んで、他の種族の言語まで学ぶとは。


 そういう点から見ても、シャルロッテはかなりの勤勉だ。

 かなり、俺と似通う部分がある気がする。

 小さな頃から色々なことに興味を持って学ぼうとする姿勢というか。


「ベル、エリーゼ。朝ごはんですよ」

「はい」


 早起きをすることも、最近心がけていることの一つだ。

 早起きをすることで、一日の活動時間が増える。

 それに、気持ちよく一日をスタートできるからな。

 ちなみに、今日は寝坊した。


「稼ぎは順調だ。

 運よく報酬の高い依頼ばかりを拾えているから、金の貯まりも早いな」

「今はどのくらいなんですか?」

「シャルロッテが使った金の半分ほどは回収できた。

 何もなければ、問題なく大陸を渡れるだろう」


 良かった。

 と心の中で呟く俺の隣で、シャルロッテもホッとため息をついた。

 自分のせいで間に合わないなんてことになったら本人は相当気負うだろうな。

 別に少し遅れるくらいならいいんだが。

 デュシス大陸行の船は一か月半後に出航する船だけではないんだし。


「今日は、私とベルの日ですね」

「はい。頑張りましょう」


 今日の当番は俺とシャルロッテだ。

 最初は冒険者活動が楽しくて仕方がなかったが、

 最近はもう最早楽しくなくなってきている。

 なにせ、今の冒険者活動には働く「義務」が発生しているからな。

 それでもやらなきゃいけないんだが。


 社会人ってきっとこんな感じだったんだろうな。


 戦闘能力の向上、それに魔術の勉強にはもってこいの場ではある。

 この辺りに出る魔物は比較的弱いし、油断しなければ難なく撃破できる魔物ばかりだ。

 油断しなければ、だ。


 そういえば、以前シャルロッテと共に魔物狩りに行った時、死ぬような体験をした。


 シャルロッテと談笑をしながら現場に向かっている道中、

 大きな鳥の魔物と遭遇した。


 俺とシャルロッテは魔術を駆使してその魔物を即座に撃破。

 倒れた魔物の肉を剥ぎ取ろうとしたその時。

 俺は横から出てきた別の鳥の魔物に気づかず、食われかけた。

 食われかけたというのは、本当に文字通りだ。

 大きな嘴に、俺の体の半分以上が食われていたのだ。

 流石に死を覚悟したが、シャルロッテのスーパーカバーによって難を逃れた。


 以降、俺はシャルロッテに様を付けて名前を呼ぶことにしたが、

 「からかわないでください」と怒られてしまったためやめた。

 命の恩人をからかうような真似をしたつもりはないんだけどな。

 それに、俺に魔術を教えてくれている時点で、

 俺の師匠的な存在でもあるわけで。


 最近だと、エリーゼよりも一緒にいる時間が長いようにも感じる。

 いや、エリーゼは寝る時に決まって俺の隣に来るからそんなことはないか。

 でも、実際に活動している時間に限ればシャルロッテの方が長いかもしれない。

 二週間もペアで仕事をすれば、まあそうなるか。


 今日も一日、頑張っていこう。


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