117/205
仮題『欠』/『遅告』/『弓音』
持ってないものは眩しいよね。
諸行無常も食傷気味で、今日もまた、夢半ばに彼は死んでいくんだ。
仮題『欠』
足りない指の本数だけ
捲れた表皮は爛れ落ちて
果たして 失くしてしまったのか
最初から無かったのだろうか
手放したものにつけた名前を
尊ぶ世界が嫌いなのだと
遺書の書き出しを決めたのなら
次のコールで 踏み込もう
仮題『遅告』
言葉にしなきゃ伝わらないって
それすらも使い古してしまって
文字とデータでしかなかった彼を
見送ることになってしまった
誰にでもわかる称賛でしか
命を繋げないものもあるのだと
きみたちが気付くことができるのは
何もかも 終わった後だけだ
仮題『弓音』
鼓膜の震えを 皮膚のざわめきを
澄まして澄まして 風が撫でる
専一に尖らせた心の先
突き立てる胸に 見覚えなどない
狙うものなどわかりはしないまま
薄靄の果てにぼんやりと見えた
額の真芯に中てるためにと
もう一度 引き絞るのだ
ほら、しっかり狙いなよ。




