嫌な予感
────本当のところ、全く意識してなかったわけじゃないんだ。
だけどそれは神の在り方としては間違っている。
気高く、孤高で、正しく在るべき。それが万物が逆らえぬ概念を司る私のあるべき姿で。
でも、それはたった一つの、想いが壊してしまった。
あぁ、認めよう。私は彼を好きになっていた。恋い焦がれた事を否定はできない。
嘆くべき出来事だ。その想い一つが私から公平さを失わせ、正しい判断を出来なくさせ───その結果がこのすべき事を果たせない事態である。
この捻くれた腕はその対価か。
この神の力を失った私はなんて脆い。
神、か。
私は既にその位に居ない。
薄く陽光の射す森を歩く足取りは非常に重く、体は思うように動かない。
一晩中泣いて喚いて、それでも気分は晴れることなく暗く。
私は半壊した天の柱を見ながら、嗚咽を漏らした。
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レオンは目が覚めた。
疲労がたまっていたのか、部屋に帰ってきてからの記憶が曖昧であった。
「んぅ………あれ? トーコ?」
伸びをして部屋を確認したレオンは直ぐに気が付いた。トーコがいない。
部屋は一緒なのだから、目が覚めたらそこにいるはず。そう思ったがすぐにレオンは別の可能性に思い至る。
「先に目覚めて、外にいるのかな……珍しい」
トーコはレオンの目が覚めた時にあまり出歩いていた記憶がない。この世界に来て最初が、血霧騒動だ。トーコは自分よりも弱いレオンから当然目を離したくなくなかった訳だから、珍しい事ではある。
ただ、レオンはトーコがいない現状に危機感を覚えることはなく、ただレオンが目覚めたと同時に目覚めた猫だけが状況を正しく理解した。
───にゃ。
ひどくつまらなそうに、一鳴きした。
レオンは猫を頭に乗せて宿を出た。
まず向かったのは先日の屋台の場所である。
「くそ、無いなぁ」
「どうかしたんですか?」
困った様子で呟いた屋台の主はレオンが声をかけて漸くその存在に気付く。
はっとした様子の屋台主はぬぐぐ、と唸りながら小さく漏らすように呟いた。
「串が、十本ばかり足りねんだ。これだとちょっとばかし肉が余っちまう……」
「昨日から思ってたんですけど串回収したらどうですか? 金属製の串って貴重じゃないの?」
「あー……この町じゃ対して貴重でもねぇよ。金属製の再生利用の為の設備が揃ってやがるからな、そこらに箱があるだろ? 入れときゃ勝手に町の連中がその設備に持って行くのさ。だから、回収する意味はなかったが……あー、まぁ。そう言う考えか。良いんじゃないか、やってみるわ」
「……あと、トーコ見ませんでした? 昨日俺と一緒にいた女の子ですけど」
「あー、あの迷惑な……見てないが?」
「そうですか………」
申しわけなさそうにする屋台主に、レオンは疑いもなく信用する。
事実、屋台主は見ていないのであるが。
「あー、でも、そういや…ってもういないのか………」
屋台主が何かを思い出したかのように言い出した頃には既にレオンはその場から去っていた。
「狩猟ギルドに依頼を受けた女の子の容姿の特徴が、大体あの迷惑な奴に合致するところが多かったっての、別に言わなくても良いことか」
「……なんか、嫌な予感がするんだ」
レオンは、走り出していた。




