破壊のために手を回す
不安がじわりと胸に広がる。
それはとても、嫌な物だった。
「トーコは……どこに……」
走り回った。何度か宿に戻れども、結局トーコは居やしない。焦りが募るレオンは先日の事を思い出して─────
「狩猟……ギルド……っ!! ここか……っ」
辿り着いた頃には、既に日は傾き、辺りを赤く染めていた。
「おいおいここはガキの来る──」
「ねぇお兄さんトーコを知らない!?」
レオンは真っ先に、ギルドに突入したレオンを見た男に叫ぶように聞いた。男は忠告しようとした所であったがレオンはそんなことは気にしなかった。
「あぁ? なんだ? 探しか?」
「探し? 知り合いが行方知れずなんだよ、大体俺と同じくらいの年の女の子」
「そんなんじゃわかんねぇよ、もっと特徴を……」
「おう? トーコって言ったか?」
「っ、受付の。お前こっちまで来ても平気なのかよ?」
ここは殆ど入り口であり、やや奥まったところにある受付の本来居るべきカウンターテーブルは空席となっていた。
「こんな時間に依頼を受領してくる輩なんざ、そうそういねぇよ。心配すんな……んで、トーコっつったっけか」
受付の、と呼ばれた男の言葉にレオンは頷いた。
「そいつぁ、行方不明だ。腕のいい奴を一緒にして油断してたんだが、どうやら同行者がそのトーコっつー娘っ子を見失っちまった見てぇで……依頼を受けた証拠はある、一応本人と分かる形にしなきゃいけねぇのでな、刻印術を刻んだレンズから依頼受領した奴の顔を受領書に刻むんだ、ついでに筆跡分かるようにサインだな。コイツは優れもので死んだら、分かるようになっててな、だから一応死んじゃいないのは分かり切ってんだがな」
「っ!! それ見せて!!」
気の良さそうな受付の言葉を聞いてレオンは飛び上がった。
そして。
「………その依頼で一緒にいた奴に会いたい」
「朝一番で報告した後、行方しれずだよ。ま、アイツらしいとこだ。もちろん心当たりもねぇよ?」
事実を知ったレオンは肩を落とした。トーコがたかが依頼一つで死なないのをレオンは確信していたが、内心不安だった。
行方不明なのは方向音痴だったのかもしれない。
死んではいない。その事実に気持ちを持ち直した。
しかし、レオンが知れたのは結局トーコが行方不明であることだけだった。それ以上を知ることが出来る手段など現段階で存在はしないのだが。
「うん。分かりました」
行方知れずのトーコを追いかけて無策で森に一人で行けば危ない目に遭うことは間違いない。
音無く忍ぶ生物に樹に擬態する生物やら、何やら物騒な生物ばかりが森には住んでいたようだから。
レオンは頭上に居る猫に話しかける。
「ねー、ニャーちゃん。今の俺に、何ができるのかな」
───にゃーん
「……うん。何かが出来るように、だよね」
レオンは決心した様子でギルドを出て行った。
◆◇◆◇◆◇◆
所変わって、街の某所。
厳重に隠匿され、尚且つ警戒された場所に向かう一つの影。
地面に埋められた刻印石をまるで意に介さず踏み抜き、涼しい顔で歩くのは一人の女だった。
「……何者だ?」
小さな家───事情を知っていればそう感じるだろうが、知らなければ只の若干他より見劣りする程度の一軒家である。そこから出てきた大男が、女に聞いた。
「えぇ? なんか警戒されてます?」
薄らと、笑いを浮かべた女は。次の瞬間大男の投げた短剣を額に浴びて倒れた。
「………回収しろ」
「いやいや、あたし何もしてないのに何で頭にこんな」
女はむくりと上体を起こし、額に刺さっていたはずの短剣を放り捨てた。
短剣は切っ先が消えており、半ばまでしか存在していなかった。
「物騒な物を投げてくるん?」
その短剣を見た大男は冷めた表情から一変し、信じられない物を見るかのような目で、女を見た。
「あー、やっと関心持ったね、一歩前進だ」
「やれ」
大男が、そう命令を下すと────女が笑った。
「っくはぁははははははは!!!!」
何がおかしい、そう大男は聞くつもりだったが、言わずともすぐ気付いた。
誰一人出てこないのだ。
「ははは、はぁ。ほんとは本人に交渉でも別に問題はないっかと思ってたけどね、こっちの方が楽しそうだしね? 一人裏切ってもらうのスッゴく楽しくない?」
「裏切る? 私が何を?」
「何もかも、だよ! あたしは君の背景を知ってる、んでそれを利用すればただあたしが動くだけよりも圧倒的に、劇的に面白くなるって!! あと、安心して、他の人たちは一時的に壊しただけだからね。命は奪ってないから、器用なあたしに感謝して条件を飲みな」
「………?」
「君はきっと。神子サマの“目“。喪わないで済むって選択肢を飲むんだろうな。ボードン?」
そう、ぬけぬけと、女───エーリケはそう言った。




