見張るカラス (1)
夜。
漫画店の中。俺は白い制服を着て清掃スタッフとしてアルバイトをしていた。
周りには、何人かの客が眼鏡をかけ、買うかどうか決める前に漫画を読んでいた。
俺はきちんと並んだ棚の前に立ち、様々な漫画が並んでいる中の一冊を読んでいる。
棚のそばにはほうきが立てかけられ、俺の首には小さな白いタオルが掛かっていた。
「さすが……けっさくだな〜この漫画は……」
と感心しながら、右手で顎に指を当てた。
その後すぐに、俺はその漫画の技を実際にやってみた。
——右手を横にまっすぐ伸ばし、人差し指・中指・親指の三本でピストルの形を作る。
「波動の九百九十九——アブラカダブラ!!」
自信に満ちた声で叫んだ。
周りの客たちは反射的にこちらを見た。
眼鏡の向こうで目を見開き、驚きで目が赤くなっているように見える。
そんな雰囲気でも、俺はそのままのポーズを維持する。
(だよな〜この世界じゃ、魔力なんてないよな)
やがて、ピストルの形だった右手が腹立たしげに拳を握る。
まるで見ている奴ら全員に勝負を挑むように。
「何見てんだよこら!?ぶっとばすぞ!」
額の血管が浮くほど怒った顔でそう言う。
言葉を発した途端、すぐに指で口を押さえ、少し後悔したように目を閉じる。
「おっと、つい……いつもの悪い癖で、お願いですから、店長には報告しないでくださいね……」
落ち着いて謝る。
謝ったけど、近くにいたモブの男はまだ俺を見つめている。メガネの奥の目は、まだ驚いて赤く見開かれたまま。
「危うく人前で『マジカルにゃん』に変身するところだったじゃねえか、おい!」
そのモブは、鋭い視線で俺を見つめながら、完全に決めつけた口調で言った。
モブが手に持っているコミック本には、2人の猫耳少女のイラストとハートのシンボルが描かれている。
表紙の配色はピンクが主流だ。
奴の言葉を聞いた瞬間、俺の目は見開かれ、瞳孔が少し縮まった。
しかし、顔は無表情のままだ。
あまりの衝撃に、どんな表情を浮かべればいいのか分からなかったのだ。
それから、俺は目を閉じ、そのモブの前で少し体を屈めた。
誠実な謝罪の印として右手を胸に当て、左手にはまだコミック本を握っている。
「それだけは勘弁してください……」俺は静かに言った。
「ふん!分かればいいんだよ、分かれば」
モブは勝ち誇ったように言うと、手元にあるコミックの読書へと戻っていった。
俺は頭を下げたまま、そのモブの方へ視線を泳がせる。
(なんか……怖いなこいつ)
「アオジマくん」後ろから女性の声が聞こえた。
俺はすぐにそちらを振り向く。
「はい、何でしょうか店長??」
俺は労働意欲に満ちた、明るい笑顔を顔に浮かべて応えた。
そのコミックショップの店長は、顔に少しシワのある中年女性だった。茶髪で、きちんとした緑色の制服を着ている。
俺はただの清掃員なので、彼女とは服装が違っている。
「悪いんだけど……店の裏にあるゴミ、ゴミ捨て場に持ってってくれる?」店長が言った。
「はい、店長!お任せください!」
俺は親指で自分を指差しながら、元気に答えた。
そして左手で、ある一冊のコミック本の表紙を閉じた。タイトルは、
『CROW IN THE DARKNESS』。
◇
店の裏手には、薄暗くて狭い路地裏だけが広がっていた。
夜の闇が、その場所の不気味さをより一層引き立てている。
道を照らすのは、いくつかの街灯が放つ薄暗い光だけだ。
その明かりは、時折チカチカと点滅している。
店と通りを挟んだ向かいの建物の上では、一羽の黒いカラスが下を見下ろしていた。
カラスの頭がゆっくりと動き、まるで歩いている俺を観察しているかのようだ……
……俺は片手でプラスチックのゴミ袋を持ちながら、静かに歩いていた。
服装は先ほどと同じで、首には小さな白いタオルが掛かったままだ。
少し前方の薄暗い街灯の下で、黒いジャケットを着た中年男が、一人の女性に絡んでいた。
その顔つきや身振りのせいで、女性が無理やり言い寄られているように見える。
彼らの近くには、しっかりとフタの閉まったゴミドラム缶が置かれており、そのフタの上にはいくつかの乾燥したゴミが散乱していた。
「ねえお姉さん、一人?ちょっと俺と遊ばない?悪いようにはしないからさあ」男が言った。
男はニヤニヤと笑いながら、絡んでいる女性の手を掴み、自分の体を強引に近づけようとしている。
女性はすでに閉まっている店の大きな鉄扉の前で、完全に追い詰められていた。
「急いでるんです。離してください、じゃないと叫びますよ!」
女性は恐怖に満ちた顔で抵抗しようとしている。
「おいおい、心配するな。ここには誰も来ないよ。言う通りにすれば、すぐ終わるからさあ」
女性が俺の方を振り向いた。
「私を助けてください」女性は希望に満ちた声で、俺を見つめながら助けを求めた。
すると、男が俺の方へと顔を向けた……
……俺はすでに、奴から5メートルほどの距離に立っていた。
冷徹な眼差しを向けたまま、俺はゴミ袋を持たずにただ静かに佇んでいる。
「おい、ガキ!下がってろ!『大人の世界』を邪魔すんじゃねえ!ぶっ殺すぞ、コラ!」
男は威圧的な視線を向けながら怒鳴り散らした。
「分かった……」俺はそう言いながら、首から白いタオルを外した。
そして、それを左の手のひらの上に広げ、左の手のひら全体が完全にタオルで覆われるようにした。
俺は左手のひらの上にある白いタオルを男に見せつけながら、静かに歩み寄る。
「その前に、これを見てくれ。もしかしたら、あんたの大事なものが……」
歩きながら、俺は淡々と言った。
「ここにあるかも」俺の顔は無表情で、その目は冷たかった。




