異世界のタバコ(5)
俺がジャンに尋ねると、彼はまだニヤリと笑いながら俺を見つめていた。
「何のためか、わかんないが……お前の姉ちゃんの命令はただ一つ。『チンピラ共を狩る』だそうだぜ」それが、まだニヤリと笑い続けているジャンから得た答えだった。
「チンピラを狩る、ね~」俺は口にくわえたロリポップの棒を押さえながら言った。
(ウィリアムの言葉を思い出すと、どうやら俺の姉ちゃんたちはみんな勇者らしいね)
顔も知らない姉の姿を想像してみた。まるで「正義のため」とか「平和のため」と叫びながら悪党を捕まえる警察官みたいに。
(まさかな、この世界で、俺の姉ちゃんはそっちかよ……)俺は無関心な顔つきで思った。
(それが本当なら……金だ!)俺はニヤリと笑った。
俺の視界の外では、アレックスが歩いている女性に近づき、尋ねていた。
「この辺りにチンピラや不良はいないでしょうか? つまり、問題を起こすような奴らのことですが」アレックスは丁寧な口調で尋ねた。
「すみません、それについてはよくわかりませんね」その女性は答えた。
その後、彼女は俺たちの方をチラリと見た。俺たちの口にはロリポップがぶら下がっており、その姿は不良と呼ばれるに十分な見た目だった。
「あれ? もしかして、騎士様が探しているのは彼らじゃないですか? 人前でタバコを吸っていて、怖そうに見えますし」女性は指を差しながら言った。
アレックスはすぐに視線を俺たちの方へと向けた。
「アキラ・クロハネ?……いや、アキラか」彼は最初は驚いていたようだが、そこに俺がいるのを見ると突然真剣な表情に変わった。
その女性に礼を言うこともなく、アレックスは真剣な顔つきのまま俺たちの方へ歩き出し、後ろにいる兵士たちに命令を下した。
「あそこに行くぞ」彼は歩きながらきっぱりと命令した。
そして兵士たちは彼の後ろについて歩き出した。
「なんか、あいつらこっちに向かって来てないか?」ジャンは落ち着かない様子で言い、その顔には汗がにじんでいた。
「そ……そうだ」ビルも落ち着かず、汗をかいていた。
「まさか! これのせいか?!」ジャンは口にくわえたロリポップの棒を見つめた。
どうやら、口にくわえていたロリポップのせいで、クロハネの兵士たちが追っているチンピラだと即座に勘違いされたらしい。
「早くタバコを捨てろ!」ジャンはパニックになりながら叫び、ロリポップを投げ捨てた。
ビルも口のロリポップを捨てたが、俺はただ立ち尽くし、気にも留めない様子で静かに彼らを見ていた。
「何やってんだよ、アキラ!早くタバコを捨てろ!じゃないとチンピラだと思われちゃうぞ!」ジャンはきつく叫び、心配そうに俺に警告した。
「心配するな。俺の人生は俺の自由だ」俺はリラックスした様子でジャンを見つめて言った。
アレックスと兵士たちが数メートル先まで来た時、俺は静かに彼らの方へ歩み寄った。
「手を出すなよ、ジャン、ビル。なんか、金の匂いがするぜ」俺は振り向かずに言い、アレックスの方へと歩いていった。
ジャンは、まるで弱い友人がたった一人で戦場へ向かうのを見るかのような重苦しい気持ちで、俺を見つめていた。
「あいつ……まさか、実家の連中に逆らう気かよ!?」ジャンは不安そうな気持ちで言った。
ジャンはビルの方を振り向いて尋ねた。
「なあ、ビル、アキラを助けた方がいいんじゃねえか?」ジャンは尋ねた。
ビルの顔には冷や汗がにじんでいた。彼はただ黙り込み、その表情はどれほど重い決断を迫られているかを示していた。
「いつもの『そうだ』、どうしたんだよ……」ジャンは諦めたように言った。
「じゃあ、逃げよか?」ジャンはビルに尋ねた。
「そうだ!!!」ビルは目を輝かせ、勢いよく叫んだ。
俺がアレックスの方へ歩いていると、突然、背後からジャンとビルが叫びながら走って逃げていった。
「死ぬんじゃねえぞ、アキラ!」ジャンが叫んだ。
「そうだ!」
(いい判断さ。昔の俺なら、きっとお前らと同じように逃げていただろう)俺はほっとした笑みを浮かべながら、彼らを見た。
俺は冷たい視線で前へと歩を進めた。
(今の俺のエゴに従えば……世界征服を望むには、莫大な金が必要なんだ……!)俺は冷酷かつ真剣に呟いた。
アレックスは、ジャンとビルが逃げ出したことに気づいていた。それでも一瞬ちらりと目を向けただけで、すぐに無視した。
まるで、最初から目的は俺だけだったかのように。
「追いますか?」兵士の一人が尋ねる。
「必要ない」アレックスはそう言って、まっすぐ俺を見つめていた。
俺とアレックスが1メートルの距離で向かい合った時、アレックスが俺に言った。
「久しぶりだ、アキラ」彼の声には威厳があり、俺を見つめるその顔は冷酷に見えた。
◆◆◆
アキラ、モブモード。
「久しぶり? お前誰!?」俺は意味もなく主人公に絡みたいだけのモブであるかのように振る舞った。
俺はチンピラのような歩き方で、立ち尽くしてこちらを見つめるアレックスへと近づいた。
「俺の記憶によ〜、てめぇの名すらねぇぞ、この野郎」俺は嘲笑うかのように自分の頭を指さしながら、アレックスに絡み続けた。
「そうか。家を追放されてからずいぶん経つが……私のことすら忘れてしまったか?」アレックスは少しも表情を変えず、静かにそう言った。
「まあいい。名乗ってやる。俺はアレックス・グランツ《 ALEX GRANTS 》。お前の元剣術の師匠だ。もう覚えてるか?」アレックスは俺を鋭く睨みつけ、見下すように少し顎を上げながら、威圧感のある視線を向けてきた。
「元師匠?ぁぁぁ?!」俺はまだモブのように、見下すような表情を崩さなかった。
「俺はアキラ・クロハネ——」俺は自信満々に親指で自分を指さしながら言った。
「違う。今のお前はただのアキラだ。あの日以来、クロハネの名を名乗ることは許されていない。忘れたか?」アレックスがきっぱりと言い放った。
「へぇ〜……」俺はニヤリと笑い、鋭い視線でアレックスを見つめた。
「まさか、ここまで落ちるとは……態度だけじゃなく、今じゃタバコまで吸うようになったとはな」
それを聞いて、俺は少しうつむいた。日光の影で両目は隠れ、首と頬にはっきりと青筋が浮かび上がる。俺はただ黙り込み、今にも爆発しそうな怒りをこらえていた。
「タバコ、だと?」俺はロリポップの棒を口にくわえたまま、低く呟いた。
「アリス様にチンピラ共を捕らえろって言われたが……その中に、アリス様が探している勇者候補がいるらしい」アレックスは静かに、威厳に満ちた声で言った。
そして、アレックスは嘲笑うような威圧感を込めて、俺を鋭く見つめた。
「お前みたいな弱虫が、住民からチンピラ扱いされるなんて、自分が姉さんの言う勇者だとでも思ってるのか?」彼は重い口調で、低くそう言った。
俺はまだ黙ったまま怒りをこらえていた。あいつの言葉など、俺の耳には全く入っていないかのようだった。
「お前が勇者になるなど、ありえない」アレックスは鋭い視線で断言した。
「さっきからゴチャゴチャと……」俺は低く悪態をついた。
俺は口にくわえていたロリポップの棒を取り、そのキャンディをアレックスに見せつけた。
「これ……」俺はうつむいたまま、怒りを押し殺していた。
怒りのあまり顔に青筋を浮かべながら、俺はアレックスを睨みつけた。
「これがタバコだと! そう思うぅぅか!!!」今にも爆発しそうな怒りを孕んだ、深く、重みのある声だった。
「そうだ。そう思ったんが……何か問題でも?」アレックスは顎を少し上げ、まるで俺を見下すかのような、平坦な声でそう言った。




