遅刻〜!遅刻〜!(2)
俺は顔に汗をにじませながら、口に食パンをくわえたまま全力で走っていた。
「バイト遅刻、遅刻〜!」
首を少し巡らせ、視線を左へ向ける。
奴らはまだ後ろから追いかけてきている。
「アオジマ!!」
「待てコラ!」
「クソどもが!いつまで追い回す気だ……?!」俺は吐き捨てる。
「……来いよ!ボコボコにしてやるからよ!」
「4対1?!そんな馬鹿なこと、誰がやるか!」俺は叫んだ。
目の前には十字路。左側の道は、そびえ立つビルの影に覆われて暗くなっている。
十字路を通り過ぎようとしたその時、突然、右側の道からピンクの髪の女性のシルエットが現れ、俺の進路を横切るように走ってきた。
その人物は青い制服を着て、口にパンをくわえている。
時間がゆっくりと流れる。
そのピンクの髪が風になびき、美しく見えた。
俺は必死に足を止めようとする。
「あっ!!ぶつかる!!」
女性のシルエットが反射的にこちらを振り向いた。
俺たちの視線が交差する。
——その女性は、目をつり上げた怖そうな男だった。
俺の姿を見るや否や、男は突如激昂し、額に青筋を浮かべた。
「アオジマ!!」
口にパンをくわえたまま、怒りの咆哮をあげる。
一瞬にして、奴の拳が空気を切り裂き、俺の頬を殴りつけた。
——バキィッ!
その衝撃で俺の足は止まり、顔は左側を向く。髪が揺れ、汗が飛び散った。
体がよろめいて一歩後退し、倒れそうになるが、踏みとどまる。腕まで大きく振られた。
それでも、口のパンは落とさない。
「クソ……がァ……!!」怒りを押し殺した、ひどく低い声が出る。
ゆっくりと奴の方を振り向く。額と頬に青筋が浮き出ている。
「また……か……よォ!!」声はまだ低いままだ。
左手を強く握り締め、腕の筋肉を浮き立たせる。
空気を切り裂くような拳を奴の左頬へ叩き込み、その顔面に強烈な衝撃を与えた。
時間が引き延ばされる。
俺の拳がまだ頬にめり込んでいる間、奴の体は横に折れ曲がっていく。
そして……
ドカァン!……激しい音を立てて、奴は俺の足元に崩れ落ち、チリが舞い上がった。
気絶している。
口からゆっくりとパンが落ちた。それは敗北を意味していた。
息を荒くしながら、俺は手の甲で頬の痛みを拭った。
「痛てぇな!女の子だと思ったのによぉ!」
後ろから追いかけてくる奴らの声が響く。
「動きが止まったぞ!」
少し振り向き、視線を左隅へ動かす。距離が縮まっている。
「まずい!」
俺はすぐに建物の影に覆われた左側の道へと走り出した。
……その暗い道の左側には境界の壁があった。
壁沿いには、道の奥までゴミ箱やドラム缶がずらりと並んでいる。
ゴミの入ったビニール袋や、緑色の大きな鉄製のゴミドラム缶が置かれている。
右側には、境界として立てられた今にも壊れそうな木製のフェンス。
道の幅はわずか5メートルほど。
俺が走る道沿いには、ちぎれた紙くずや新聞紙が散乱していた。
俺は左肩のバッグのストラップを掴みながら、そこを駆け抜ける。
一歩踏み出すたびに大量の紙くずを踏みつけ、それらが四方八方へと飛び散った。
ガン、ガン、ガン……!後ろで、しっかりとフタの閉まった鉄製ゴミ缶の上を走るモブCの足音が聞こえた。
一歩進むごとに、奴の木の棒が手の動きに合わせて揺れている。
そして……
奴はさらに壁の上へと飛び移り、上から俺を追いかけてきた。
俺は走りながら、視界の端で壁の上を走るモブCを睨みつける……
「マジか!?」
……奴は跳び上がり、木の棒を俺へ向かって振り下ろした——
「もらったぞ!」
——俺は頭をモブCの方へ向け、目を見開いた。
間合いに入った瞬間、素早く体を奴の方へと向け、黒いバッグを掲げてその攻撃を受け止める。
ドカッ!……俺のバッグが奴の木の棒の打撃を阻んだ。
「馬鹿な!」モブCが驚愕する。
俺は再び攻撃されるのを防ぐため、すぐに木の棒を掴んだ。
バッグを落とすと同時に、もう片方の手のひらを奴の頭の横に向けて突き出し、木製の壁へと全力で押しつけた。
「何が『もらった』、って!?」パンをくわえたまま、俺はニヤリと深く笑みを浮かべる。
ドンッ!奴の頭が木製の壁に叩きつけられた。
顔を歪めて苦悶しているが、その口にはまだパンがくわえられたままだ。
俺は木の棒を力ずくで奪い取った。
奴の力が抜け、床にへたり込んだ瞬間——
「パンを落とせ!」俺は叫んだ。
——俺の膝が奴の頬を蹴り飛ばし、木製の壁を突き破る。
奴の頭と俺の足が、壊れた壁の向こう側に挟まってしまった。
奴のパンが吹き飛んで落ちる。
壊れた木壁に挟まった足を、俺は必死に引き抜こうとする。
「クソ、足が……!」
俺の背後では、大きな白いタオルが大きく広げられていた。布がはためく音が、耳にはっきりと響く。
振り返らない。すべてが手遅れだと悟った瞬間、俺の目は大きく見開かれた。
そのタオルの脇から、モブAの痩せた顔がひょっこりとのぞいた。
食パンをくわえたまま、無表情のまま目だけをぎょろりと俺へ向けていた。
「お前のパンはもう……守れねえ。」
俺はハッと奴の方を振り向いた。
「しまった!」
そして次の瞬間、すべてが真っ白になった。




