遅刻〜!遅刻〜!(1)
夕方。
俺は二十歳の、少し長めの黒髪の男だ。
学校からの帰り道、人気のない道を慌てて駆けていた。
汗を流し、息を切らしながら。
白い学生服を身にまとい、口にぶら下がる食パンをくわえたまま走る。
制服のボタンはすべて外れ、中央からは黒いTシャツが見えていた。
黒い鞄は左肩一つにだけ掛けられ、揺れながらぶら下がっていた。
「遅刻! 遅刻ぅぅぅ!」
上から見た視点では、俺が交差点を通り過ぎようとした時、長い金髪の若い女性らしき人物がいた。
その人物は青い学生服を着て、右側の道から走ってきていた。一方、俺は下の方向から走っていた。
その人物もまた慌てた様子で、俺と同じように口に食パンをくわえていた。
俺たちが交差しようとした、その瞬間——
時間が止まったかのようだった。
……俺の目に映ったのは、ぼんやりとした一人の女性のシルエットだけだった。
風になびく美しい金髪だけが、はっきりと見えていた。
(やべぇ! 女の子とぶつかる——!)俺は必死に足を止めようとした。
その瞬間、その人も反射的にこちらを振り向いた。
俺たちの視線が交わった。
その人は、パンをくわえたまま鋭い目つきで俺を見つめる、強面の男だった。
彼は目を見開き、白目に赤い血管が浮かび上がった。
俺を見ると、その瞬間、彼は怒りに満ちた表情になり、額には筋が浮かび上がった。
「アオジマ!!!」
パンをくわえたまま、彼は俺の名前を叫んだ。動いているのは頬だけだった。
俺は、彼を女だと勘違いしてしまったことに腹を立てるのを抑えた。額には青筋が浮かんでいる。
「ツツランのやつじゃねぇか!!!」
俺はパンを口にくわえたまま怒りをこらえ、重い声で叫んだ。
彼はすぐに拳を握り締め、全力で俺の顔めがけて振り抜いた。
「野郎ォォォ……!!!」
拳が、空気を切り裂く。
——俺は即座に頭を左へ振ってそれを鋭くかわした。
頭の周りに、飛び散った汗が白く弾ける。
拳は俺の耳すれすれを通り抜け、巻き起こった風が髪を激しく揺らした。
左手で鞄の紐が肩から落ちないようしっかりと掴みながら、そして俺は素早く右手を伸ばし、彼の額を掴んだ。
指先に力がこもり、右腕の血管が浮き上がる。
互いの口には、まだしっかりとパンがくわえられたまま。
俺は左足を大きく後ろに引き——
次の瞬間、左足を軸にして体を大きく捻った。足元からわずかに土煙が舞い上がる。
体を後方へと回転させ、全力で彼を振り抜いた。その勢いで彼の体はわずかに宙へと浮いた。
半円を描くように振り抜かれ、やがて彼は青い金属製の扉に激突した。
その扉はちょうど俺の後ろ、交差点の角の近くにあった。
俺たちはまだ口にパンをくわえたままだった。
彼は両手で俺の腕を必死に掴み、俺の手から逃れようとしていた。
「離せ!こら!」
傾いた太陽の光が、路面に俺たちの影を長く引き延ばしている。
その影の中で、俺は一切の容赦なく、男の頭を鉄扉へと何度も何度も叩きつけ始めた。
「クソが、驚かせんなよ!」
ガン! ガン! ガン! と、金属の激しい打撃音が四方にけたたましく響き渡る。
目の前で、俺の腕を掴んでいた男の両手が、次第に力なく垂れ下がっていった。
そのまま、だらりと垂れ下がった。
「俺の負けだ……」
彼が弱々しく呟いた。
俺の手は止まったが、それでもその頭をドアに押しつけていた。
やがて、彼の口からパンがそのまま落ちた。それは敗北の証だった。
そして彼は気絶して倒れた——
——その金属の扉には血はなく、ただへこみだけがあった。
俺は息を切らしながら彼を見下ろしていた。
それから左に目を向け、交差点に集まっている男たちを見た。
「アオジマぁぁ……」ジュゴは言った
そこには、先ほどの男と同じ青い制服を着た奴らが4人、立っていた。
彼らの口にも、俺と同じようにパンがくわえられている。
交差点の上側から現れた彼らは、それぞれ奇妙な武器を手にしていた。
ジュゴ: 「ツツラン」の校章が描かれた小さな旗付きの、プラスチック製の棒。
モブA: 首にかけた、長くて幅の広い折りたたまれたタオル。痩せこけた顔をしている。
モブZ: 長髪の黒髪の男。ピンク色の蝶柄の傘を差している。
傘の柄はまっすぐで、曲がっていない。日よけのために、その傘は大きく開かれていた。
モブC: 丸くて長い一本の木の棒。
彼らのリーダーであるジュゴが、旗のついた棒を首の後ろに担ぎながら、パンをくわえたまま言った。
「何度言わせりゃ気が済むんだ。ここは俺たちの縄張りだ」
ジュゴの友達は、口にパンをくわえながら小さく笑った。
「それがどうした……!」
俺は重い声で言い放ち、鋭く獲物を狙うような目つきになって、瞳孔がわずかに縮んだ。
頬の血管が浮き上がり、怒りを必死に抑えながら、今にも爆発しそうだった。
俺もまた、パンをくわえたままだった。
「話し合いは無意味か……じゃあ、いつも通りでやろうぜ」
ジュゴが人差し指をこちらに突きつけながら言い放った。
奴らは道路の上側から、交差点の中央へと歩みを進めてくる。
……対する俺も、道路の下側から交差点の中央へと歩いていく。
左肩には、まだ通学鞄がかかったままだ。
「拳だけで、語り合おう……」
俺たちは交差点の中央で、今にも正面からぶつかり合おうとしていた。
あと一歩で、大きな衝突が起ころうとした——
——シュウゥッ!!
……俺はすぐさま左へ曲がって逃げ出した。全力で走る。
奴らは驚いたように俺のほうを振り向き、目を大きく見開いた。
「あ、あいつ逃げた!?」
「追いかけるぞ!」
我に返った奴らが、武器を振りかざしながら一斉に俺の後を追って走り出す。
モブAはタオルを何度も振り回しながら必死に追いかけるし、モブZはピンクの傘を開いたまま走っている。
「待てコラァァァ!!」
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