1-4話 聖剣の守り人
「ふふ・・むふふ・・」
「・・・」
「いやでも・・う~ん・・・・・」
「・・・・」
「ふへへ、うふふふ!」
「・・・・・」
登校後、いつも通り一番乗りに教室に入ってきてから頬を緩んで嬉しそうにしたかと思えば今度は眉間に皺を寄せて考え込むを繰り返すリアムに、先日行った生徒達のテストの採点に集中できないクレア。
「いやしかし・・・ぶへへ・・だがどうして・・・うふふふ」
「あの、リアム・・くん?」
「でもそれだと・・へ? どうかした先生?」
「へぇあ! い、いや・・やっぱりなんでもない」
「? そう? ―――どぅふふ!」
可愛い生徒にあんまりこんな事は考えたくないが・・気持ち悪いッ!
そんな普段は見せないリアムの姿に困惑していると他の生徒達もちらほらと登校してきた。
いつも通りの挨拶をすると、1人の高学年の生徒がリアムに興奮した様子で声をかける。
「リっくん昨日のあれなに! なんか凄いのか家の前に止まってたって母さんが言ってたから見に行ったらカッコいい馬がいたんだけど!!」
「でぅへへ・・ん? あぁ、なんかエデンの偉い人がジジィに話があったみたい」
「マジかよ! エデンからッ!!」
その話を聞いてほかの生徒達も興味津々にリアムの話に耳を傾けては色々と質問をする。
和気あいあいと馬車が高級そうだの偉い人服がどうなの、巨大な怖い顔した大人がいただの賑わっていると、学校のチャイムが鳴った。
「は~いみんなそれじゃあ席について~! 出席とるわよ~」
「え~! もっと話聞いてた~い」
「私もー!」
田舎ならではに物珍しい人が訪れたことに子供たちは興味が尽きず、次から次へとリアムに対する質問を投げかけてくる。
その雰囲気に戸惑いながらも悪い気はないせいか、質問されて続けているリアムもどことなく得意気な顔をしていた。
「はいはい! お話の続きは休憩時間にね。 それよりも大切な勉強を優先しま~す」
子供たちはブーブーと不満そうな声をあげていたが、渋々と自分の席に座っていくのであった。
(・・・)
◆ ◇ ◆ ◇
「あ、今日も来てる!」
学校を終え駆け足で家に戻ると、ここ1週間毎日のように官僚が乗る馬車が家の前に止まっている。
どうやら、まだこの田舎が観光地だった時に宿屋として経営していた家にかなり高いお金を払って止まっているらしい。
それから毎日同じ時間帯に家を訪れ、頑固なジジィへ土地の明け渡しの説得をしているらしい。
最初の3日は道場。
次の2日は玄関前。
そして最後の2日ではついに家の前にまで官僚が家の敷地に入れられなくなっていた。
「貴様もしつこい男じゃな。 何度言われようとこの土地は渡さんというとろうに」
「私も決して遊び半分でこんな提案をしているわけでもないのでね。 時間がある内は何度だって頭を下げにお願いに参ります」
そうして7日目の交渉も失敗に終わり、官僚は馬車に乗って家を後にした。
「ん? なんじゃリアム。 帰っていたのか」
最後の様子を眺めていたリアムは首を傾げて祖父に訊ねた。
「なぁジジィ。 なんでそんなにこの土地を売りたくないの?」
「はぁ??? なぁ~にを言っとるんじゃお前」
本当に怪訝そうな顔をしながら見る祖父にリアムは肩を落とす。
「だって、この土地を売ってもお金も入るしエデンに引っ越すこともできるんだろ? しかも家までついてくるらしいし。 確かに生まれ育ったこの家から離れるのは少し寂しいけど、そこまでして家の仕来りを守る意味ってある?」
エデンに行ったことはないが、都会というところでは暮らしに不自由がなく毎日がお祭りのように賑わっていると言われている。
人も多く娯楽も数えきれないほどあり、見たこともない近代的な物もたくさん揃っている。
それに比べて周囲を見渡せば年寄りばかりの人口に田んぼと山しかない田舎では楽しい事など数が少ない。
それであればエデンに家族みんなで引っ越して不自由のない暮らしをすればいいのではないかと本気で思っている。
だからこそ、祖父がなぜ頑なにこの土地と言い伝えを守ろうとしているのか理解できないでいた。
「・・リアムよ」
真剣な眼差しでリアムと視線を合わせ、祖父は近づくように手で仕草を見せる。
一体なんだと思いながら近づいていくと、頭頂部に衝撃が走った。
頭を押さえながら涙を堪えて祖父を見ると、またどこから出したか分からないハリセンを手に持っていた。
「こぉ~のバカタレがぁッ!! 貴様まだ我々ホーリー家に課された聖剣の守り人としての自覚が足りんようだなッ!!」
「なにすんだよ! だって本当の事じゃん! 聖剣なんて存在しないし! 魔族なんて御伽噺でしかいない空想上の生物じゃん! そんな訳わかんない言い伝え守るより家族みんなで都会に引っ越して楽しくくらせばいいじゃんかッ!!」
リアムは祖父に背を拭けるように馬車が向かった方へ走っていく。
「あっ! 何処に行くんじゃ馬鹿者!」
「うるせぇクソジジィ! もう知らねぇ!! こんな家なんか出て行ってやる!!」




