1-1話 聖剣の守り人
昔々、この世界がまだ神々によって管理されていた時代に争いがあったそうだ。
悪魔と呼ばれる人種が神々に謀反を起こして世界を支配しようとしたのだ。
最初は相手にしなかった神々だったが、少しずつ戦力あげて力をつける悪魔に無視する事が出来なくなり、対処する事にした。
その内容はこの世界で生まれ落ちた人間達に力を与え、悪魔達の悪行を阻止させる事だった。
神々は悪魔に対処する武器として人間に聖なる剣を授与して悪魔に対抗する力を与えた。
そうして結果的に、人間は神に与えもうた聖なる剣で悪魔の王である魔王を打倒して、世界に平和をもたらした。
「これが世界を救済された英雄、勇者様の史実である。 我々はそんな神から与えられた勇者様の剣を守る役目を全うする為・・・」
古い書記を読み終えた老人は読み聞かせていた少年が鼻提灯を作って居眠りしている事に気づき、まだ読んでいる最中の新聞でハリセンを作って頭ではなく頬を狙って力いっぱいに叩いた。
あまりの強力な威力に少年は吹き飛ばされて庭にまで吹き飛ばされた。
「痛っっったいな!! なにすんだよジジィッ!!」
「お主こそ祖父に対してなんじゃその言葉遣いはッ!! ちゃんと御爺様と敬い呼べと何度言ったら分かるんだたわけがッ!!!」
「うっさい!! 孫の頬を体ごと吹き飛ばす威力で殴るジジイの何処を敬えっていうんだよ!」
「やかましいッ! そもそもせっっっかく儂自ら我らホーリー一族の役目を教授してやっているのに居眠りしているお主が悪いんじゃろうがッ!」
朝から大きな声で言い争いを繰り広げる中、家の前を通る人々は「またやっている」と噂しながら一日の日常を感じとっていた。
「あらあら。 また2人して朝早くから大声なんかだして」
「おぉ、婆さん。 もしかしてもう朝ごはんの時間かな?」
ゆったりとして歩いてきた老婆がニコニコとした笑みを浮かべながら老爺と少年を見て、優しく見える細い目がキラリッと光って怒っているのが分かった。
「そんなに喧嘩をしたいのであればどうぞ山奥にでも行って来てくださいな。 それまで朝ごはんはお預けにしておきますので」
「「 ご、ごめんなさい 」」
此処は大都会エデンから少し離れた山奥の田舎村、スタートウ。
都会からだと3時間以上は歩かないとたどり着けない此処はかつて伝説の聖剣が眠る土地として観光場で人気だった時代もあったが、今では観光客など年に数えるほどしか訪れる事がなくなり、次第にスタートウで暮らす人口も少なくなってきていた。
今では若者のほとんどが都会エデンへと移住してしまい、現在に村で暮らしているのは60代以上の老人か数少ない少年少女のみとなってしまっている。
そんな数少ない少年の1人がホーリー・リアム、10歳になったばかりの少年だ。
「いってぇ~。 あのジジイ。 今日はいつも以上の力で叩きやがって・・」
朝飯を食べ終えてからもジジイの文句が止まることが無かった為、リアムはいつもより少し早くに学校へ向かいへそを曲げていた。
学校と行っても通う子供はリアムを合わせて10人もいない小さな校舎。
限られた生徒しか足を運ばない為、校舎には鍵はかけられておらず何時でも出入りができるようになっている。
「おはよーございまーす」
1室しかない教室の扉を開けると女性が1人もくもくと資料を眺めていた。
「あら? おはようリアム君。 今日はいつも以上に早いわね」
リアムに気づいた女性はこの田舎村にある学校の唯一の教師、クレアと呼ばれる先生だ。
まだ20歳と若いが何やら都会でもかなり優秀な聖職者でも有名な人らしく、田舎に来てから色々な村人が綺麗で若い女性教師を見ようと田舎全体の人が集まった。
「先生こそ早いじゃん。 いつもはもう少し遅いのに」
「あはは。 いや~実はちょっと昨日中にしないといけない仕事を忘れてしまっていて」
先生は苦笑いを浮かべながらペロッと舌をだす仕草を見せる。
ここにリアム以外の人間がいれば必ずハートを撃ち抜かれるであろう可憐さは、まだ幼いリアムにも照れさせる威力があり、思わず目を反らしてしまう。
「リアム君は? もしかしてまたお爺さんと喧嘩した?」
「違うよ。 一方的な体罰から逃げてきたんだよ」
「あら、それは英断ね!」
クレア先生はクスクスと笑いながらリアムのいつも通りの返事を聞き流す。
ここの赴任したばかりの頃は驚愕して色々と心配してくれていたが、田舎村の雰囲気と実際に祖父とあった感覚から心配するようなことではないと判断してからこうしてスルーされるようになった。
「なぁクレア先生。 またエデンの話聞かせてよ」
「ん~? またその話~?」
クレアは目を通していた書類を片付けながら一番近い席に座って質問をしてきたリアムを見る。
「もう結構お話できることは伝えたと思うけどな~」
「じゃあ、あれ。 でっかいエイゾウ?ってやつの話!」
「映画館のこと? リアム君かなり気に入ってるわね」
実はリアムがクレアから都会の話を聞くのはこれで両手で数えきれないほどの事。
その中でも映画と呼ばれるものはリアムの中ではあまりにも魅力的で興味を惹かれるものがあった。
「そうだな~。 でも先生ばっかりお話するのもちょっと飽きてきたからな~」
「え~。 なんだよそれ。 つまんないの」
「ん~・・じゃあこうしましょう!」
パンッと両手を合わせると先生は1つの条件を提示した。
「この村の伝説でもあるクレア君のお家のお話をしてくれたらもう一度エデンのお話をしてあげるわ!」
「・・・」
「うわっ。 すごくイヤそうな顔」
先生もびっくりするくらいのイヤな顔に思わず目をまん丸にする。
「そんなにお家の仕来りがイヤ?」
「イヤというか嫌いだね! そもそもそんな御伽噺を今も信じて守ってるジジイはもっと嫌いだッ!」
今もまだヒリヒリと痛む頬をさすりながらリアムは再び不貞腐れた。
「そうかな~。 先祖代々と守り続けてきた由緒正しい事をしてきてるんでしょ。 逆に誇りを持ってもいいと思うけどな~」
「フンっ! 先生もかよ。 俺にはわからねぇな~。 存在するかも分からないものを守り続けて、居るはずもない存在と戦う為の特訓をさせられるのは」
「ん? どういう事?」
リアムの言っている意味が分からず、思わず首を傾げながらクレアは聞き返す。
「だから~、聖剣なんて存在するかも分からない剣を守って、居るかも分からない魔族と戦う特訓をすることが誇りを持つなんて意味わからないんだよ~」
「ちょっ、ちょっと待って? 聖剣が存在するか分からないってどういうこと?」
スタートウの伝説にある聖剣はこの村にある山奥の洞窟に突き刺さっていると言われている。
昔、スタートウが聖剣伝説で観光に賑わっていた時代には聖剣を一目見ようと多くの観光客が訪れていた。
しかし、聖剣を管理して守護する役目をもつ一族の子供が聖剣なんて存在しないと言い切っている事に、クレアは困惑を隠しきれないでいた。
「先生?」
神妙な顔つきで考えていたクレアに今度はリアムが首を傾げる。
「あ、ごめんごめん! お話の途中だったけどこの書類の仕事、みんなが来る前にやり終えないといけないからこのお話はまた今度ね!」
そうしてクレア先生は速足で教室を後にした。
その後ろ姿をポカーンと眺めていたリアムは再び首を傾げていた。




