放課後陰陽道塾⑤(2)
学業が忙しくなり、投稿頻度が落ちるかもしれません。これからも気軽に読んでいただければ幸いです
「それじゃあ、始めましょうか」
「あぁ、それで今日は何を教えてもらえるんだ」
「今日はですねぇ、ちょっとした防護術にしましょうか。貴方なら会いに行ってしまうかもしれない。万が一、その怪異に接触して何かされそうになったら必要でしょ」
俺が怪異をおびき出す可能性を彗は読んでいたか。こんなことを一言も言ってないんだけどな。なんだか、彗に頭の中を読まれているようだ。
「貴方って意外と単純なんですから、私が警告したところで行ってしまうと思って」
「俺ってそんな単純だっけ」
「親友に何か起こったら、飛んで行ってしまうくらいには単純ですよ。さあさ、帰りも遅くなってしまいますし早く始めましょ」
「俺は何をしたらいい」
「とりあえずその辺に立っていてください。今、お手本見せるので」
そう言うと、いつものように懐から壺を取り出す。きっと、あれに怪異が封印されているのだろう。彗は壺を置いて離れていく。
「さあ、壺に封じられた異形よ姿を現すがよい」
彗が呪文を唱えると、壺にピキ、ピキ、ひびが入っていく。彗が捕らえた怪異で弄んでいたり、壺から出た紫黒の煙に包まれた記憶がフラッシュバックした。
壺のひびから何かが出てきている。じきに沈む夕日に照らされているのも相まって、そういう雰囲気が強調されていく。
ついに、壺が完全に砕けてしまった。
中から出てきた怪異は骸骨で、強烈なオーラを放っている。まるで、死神のような容姿をしている。それに怒っているようにも見えた。
彗はそんな状況に屈することなく平然としている。
「この怪異ならちゃんとお手本になってくれそうで良かったです。また、私に怯えるような怪異が出てきた時にはどうしてやろうかと思ってましたよ」
怒り狂った怪異の面前で、イキっているとも取れる様子の彗に襲いかかる。怪異は彗に近づくたびに鬼の形相へとなっていく。
「はぁ、行儀の悪い怪異ですね。いいです、それでこそ怪異というもの。じゃあ早速」
彗が空気を吸うと、場の空気が変わっていく。また別の気配がこっちに来るような感じ――
「そいつを倒して。お稲荷さん!」
えっ、なんだろう。今までの呪文に比べて言葉遣いが柔らかいというか、指示に近いものを感じる。
刹那、後ろから突風が吹く。一瞬の出来事でその詳細までは見えなかったけど、何かが通った気がした。
突風でごみが入って閉じた瞼をゆっくりと開く。
目を開くと、巨大な狐の怪異が髑髏怪異を押し倒している景色が目に入ってくる。二体の怪異は宙を舞うようにいがみ合う。
遠くから眺めていると、にゃんこ同士が戯れているように見えなくもない。
がしっ
細い狐の手で、骸骨を掴んで地面へと落ちていく。落ちた衝撃で砂埃が舞っている。
砂埃の中から断末魔が響いてくる。鼓膜が破れそうだ。
砂埃が晴れると髑髏怪異の上に立って、その骸骨を地面に押し付ける狐怪異の姿があった。断末魔をあげて、必死にもがいている。
骸骨に少しずつひびが入って……この様子は前の彗に似たものを感じる。その瞬間を見るのが怖くなって俺は目を背けた。
すぐに特大の断末魔があがった。俺は耳を手で覆って、地面を見ていたから何が起こったか分からない。
断末魔があがって時間が経過していく。その後に何も聞こえなくなったのでゆっくりと顔を上げる。
狐の怪異が……彗と同じことをしていた。吐き気がしてくる。
ギロッ
狐と目が合う。怖くなって体ごと後ろに向けると、彗がいた。
「彗、あれは何」
「この子はね、私が飼ってる狐の神様」
「狐の神様!?」
「そうだよ。そこら辺にいる怪異とは次元が違う存在なんだ~」
「次元が違うねぇ。これが防護術ってどういうこと」
「さっきの私みたいに言うと、お稲荷さんが助けに来てくれる。怪異ごとで何かあったらそう唱えてみて――きっとお稲荷さんが来てくれるから」
「そういうこと。なんかバリアを張るみたいなことを教えてくれるのかと――」
「そういうのも一応あるけど、健司君にはまだ早いと思ったんだ~」
「それで、その幼い言葉遣いはどうしたんだ。お稲荷さんに何かされたのか」
「おいらは何もしてないって」
上に目を向けるとお稲荷さんがいる!?
巨大な容姿をしているのに善し悪しの判断が付かない幼い声で話している。それを見て体が硬直する。
お稲荷さんは、ポンと白い煙に包まれた。煙が晴れると彗の腕の中にいる。ビビッていた俺に気を使ってくれたんだろうか。
「はぁ、疲れた。彗、おいら頑張ったかな」
「十分、頑張ったよ。偉い、偉い。よしよし」
神様とはいえ、こうやって褒めまくられるところを見せられるのは癪に触るな。自慢するようにこちらをニマニマと見ているところも――
「君の名前は確か、桑原健司だっけ」
「なんで俺の名前を――」
「彗から話は聞いてるんだよね。それに君がどんなことをしているかはずっと見ていたし」
「ちょっと、それ言わないで言ったよね」
「えへへ、言ちゃった。神の気まぐれってやつだよ。こればかりはしょうがないんだ~」
「ずっと見ていたってどういうこと」
「あの、これは……」
「はわわ。じゃあ、おいらは疲れたから寝るよ。おやすみ」
「あぁ、逃げるなんて卑怯だよ~」
彗のほっぺがぷく~ってしてて可愛かった。こういう表情を見せたのは初めてだ。
彗にもそういう一面があるんだと思うと、ほっこりする。
「健司さん。起きてください。もしもし」
「エッチなこと考えるような顔して気持ち悪いですね」
それを冷酷な顔して言う彗を見て我に返った。そんなことを言われると心のほっこりが一瞬で冷めていった。
「あ、やっと元に戻った。やっぱり、毒舌はいい薬になりますね」
「お稲荷さんとはどういう関係なんだ。神様を飼うなんてことはないだろ」
「飼ってるなんて言いましたけど正確には、お稲荷さんを式神とする契約をしています」
「式神とは」
「もう、健司さんは無知なんですから。式神は契約によって守護者になった神様です。式神の契約をしていると言えど、こんなにちっちゃくて可愛いんですよ。この子をペットと言わずして、なんと言えばいいんですか」
「ペットなんて言ったら神様の威厳なんてないものじゃないか」
「まあ元々この子は神を降ろされていましたし……いいじゃないですか」
「神を降ろされた!?それは堕落したっていうことか。お稲荷さんと何があったか教えてもらってもいいか」
「四歳くらいの話になります。私が散歩をしたら、お稲荷さんが「拾ってください」と書かれた貼り紙の段ボール箱に入っていました。こんな可愛い子をほっとけるわけがないでしょ。だから、家に持ち帰ったんです。家で親に見てもらったらこの近くの廃稲荷神社で祀られいた子みたいで――信仰はもうないけど、神様なんでほっておくわけにもいかず、祀ることにしたんです。私の家の敷地はこの通り広いので、一画にお稲荷神社を新たに建てました。そしたら、徐々に信仰も取り戻してさっきみたいに力も使えるようになったということです」
「だいぶ情報量が多いな」
「まあ、捨て犬を拾って飼い始めたみたいなことです」
「それで、お稲荷さんが俺を見ていたっていうのはどういうこと」
「それはですね、亜貴さんの生霊のことで何か起こったときのために用心棒をしてもらっていたんです」
「それを聞いて少し安心したよ。俺のためにありがとな」
「それじゃあ、今日は終わりにしましょう」
「そうだ、この土日は来なくていいです。亜貴さんもあのようになって、お見舞いとか色々あるでしょう。それにちゃんと身体を休ませてください。弱ってる時が一番怪異に付け込まれやすいんですからね」
そして、俺はいつも通り御許さんに送ってもらって、帰宅した。
この世界には、神が道に捨てられているみたいなおかしなこともあるんだな。
今まで現実的な部分しか見えていなかった。だけど、こんなにも世界は面白いんだ。




